【アイマス】風に向かうもの【はるちは】

・ｗ・）　うっうー

　初めから強かった人などいない。強くあろうとする心を、何度倒れても手放さなかっただけ。

　最初から強かった人などいない。強くならなければいけないから、努力を重ねただけ。

　その事実を忘れてしまえば、どれだけ強い人でも、強かった人に変わってしまう。今を強くあろうとするには、止まらない為の、過去にならない為の努力が必要だから。それを忘れてはいけない。

　私達の世界は常に進み続け、強くなるのを待ってくれたりはしないのだから。

　

　

　　　　　風に向かうもの

　

　

　笑顔は、周りを明るくしてくれる、輝く宝物だと思う。

　彼女自身がどれだけ否定しても、私はその笑顔に救われたのだから、どう思っているかは私の勝手でしょ？

「千早ちゃんは、買いかぶり過ぎだよ。私なんてほら、歌だってそんなに上手じゃないし、ダンスだって失敗することもあるし、ビジュアルだって自信ないよ？　だから、私がここまで頑張れたのは、千早ちゃんのおかげだよ」

　普段から頑張ってくれている春香に、感謝の気持ちを伝えたかった。その為に料理も覚えて、慣れないお洒落もして、デートしているのに。どうして、ここまで謙遜するのかしら？

　私は、春香がどれだけ頑張っているかを知っているつもりだし、春香がどれだけ私達を助けてくれているのか、大切に思ってくれているのかも、分かっているつもり。その想いに応えようと、私も頑張ることが出来たから、凄く感謝をしているの。

　それなのに、謙遜されて素直に受け取ってもらえないだなんて、悲しいわ。私なりに頑張ってみたのだけれど、ダメなのね。

「もちろん、ありがとうって言って貰えるのは嬉しいよ？　ただ、私も千早ちゃんに支えてもらっているのに、私だけが感謝されるのは、何か違う気がするの」

「私のは、ただのワガママよ。それを通す為に、必要なだけ」

　仕事についても、恋人であることについても、私はワガママなだけ。

　歌の仕事がしたい、歌の仕事以外はしたくない。春香と一緒にいたい、春香には私だけを見ていて欲しい。

　ただ、ワガママを言うだけでは要求が通らないから、ワガママを通せるように、ワガママを通す為に、努力しているに過ぎない。

　結局のところ、独りよがりであることは、私が１番知っているの。正攻法にこだわって、他の意見を拒んで、最後には失敗する。いえ、最後までいくことも出来ずに、潰れてしまうこともある。

　そんな私なのに、春香は笑ったりしない。私の失敗を笑うようなことはせず、ただ側で手伝おうとしてくれる。一緒にやろうって、辛い時こそ一緒だよって、私を応援してくれる。

　だから、私の頑張りと、春香の頑張りを、一緒に並べるようなことは出来ないわ。

「私は、千早ちゃんも凄いなって思うけど、ダメかな？　自分のやりたいことの為に、諦めずに努力出来るって、凄いことだよ？　誰にでも出来るような、簡単なことじゃないよ？」

　アイドルとしての自分を認められなかっただけ。アイドルとして求められることを、求められるものを、拒んでいただけなのに。春香の目には、そんなふうに映っていたのかしら？　今となっては、当時の様子が思い出せない。

　ただ、春香と仲良くなるまで、笑えなかった自分がいることも確か。自分だけで解決出来ず、変なこだわりを持ち続け、結果として孤立していた。

　技術だけを磨き続けても、冷たい歌しか出来上がらないのに。楽しいという感情を恐れていたら、誰かに思いを伝えることなんて出来ないのに。どうして、分からなかったのかしら？

　綺麗なだけの歌なんて、僅かな時間で忘れられてしまう。心に残るものなどなく、すぐに通り過ぎてしまう。

　楽しい歌なら、感情のこもった歌ならば、心に残り続ける事だって出来るはずだから。私の目を覚まさせてくれた、春香の歌にはその可能性を感じたから。私も、春香みたいに歌いたいって、歌うこと自体を楽しみたいって、思えたの。

「困ったことに、春香に褒めてもらえると、凄いことをしたような気分になってしまうわね。褒めても、何も出ないわよ？」

　変化を受け入れ、未来を目指すことにした私には、幸せも不幸も、山のように訪れた。今まで感情を動かすことなんて、中々なかったはずなのに。私は、春香に変えられてしまった。

　結果としては、良い変化もあるし、受け入れたくない変化だってある。ただ、前よりも色々なことを楽しめるようになったのは、揺るがない事実であり、その中で見つけられた気持ちも、揺るがないものとなった。

　その気持ちが募って、今が出来上がっているのだけれど、これ以上のものは中々難しいわ。上達を感じられなくなりつつあるから、何か対応策が必要なのは事実だけど。今は、それすらも楽しめる余裕が、私の心にはある。

「こうしてデートしてくれれば、私は嬉しいよ。えへへ、千早ちゃんを独占できるのは、私だけだもん」

　私が春香に独占されるということは、私が春香を独占するということ。恋人なんだし、別にやましいことをしているわけでもない。

　ただ、春香のファンを敵に回してしまったような、いけないことをしている気持ちになるのは何故かしら？

「春香が喜んでくれるのなら、私は進んで独占されるわ。私達、恋人なんだから」

　負い目を感じるのなら、分からなくなるくらいに幸せになれば良い。春香を今まで以上に幸せにして、満開の笑顔を見せてもらえるようにすれば良い。

　そうすれば、彼女のファンも納得してくれるはずだから。溢れるくらい幸せにすれば、誰にも負い目を感じる必要はないから。私が、春香を独占する。

「そうだよね。うん、私達恋人なんだから、独占してても当然だよね」

「ええ、一緒にいるのに理由は要らないわ」

　誰かに遠慮する必要はないの。春香らしくいてくれるなら、私はそのままを受け入れるから。

「だから、受け取ってもらえるわよね？」

　春香も、私の気持ちを受け入れて欲しい。一方的になるかもしれないけれど、感謝しているのは事実なのだから。謙遜されて、受け取ってもらえないのは悲しいわ。

　春香と出会えたからこそ、今の私がいる。その事実を誇るためにも、遠慮しないで欲しいの。私が変わるきっかけをくれたのは、間違いなく春香だから。

「ありがとう、千早ちゃん。今度は私にもお礼をさせてね」

　春香に感謝されることなんて、私はしているのかしら？　頼ってばかりで申し訳ないと思うことはあっても、春香の力になれたことなんて、覚えてない。

　一緒に頑張ることは出来るけれど、それ以上の事なんて、記憶にないわね。

「楽しみにしているわ」

　ただ、それは自覚していないだけかもしれない。何より、春香が何かをしてくれるというのなら、止める理由はないわね。

　感謝の気持ちを受け取ってもらえて、私の心は温かくなった。それと同じように、春香の心も温まるはずだから。この素敵な連鎖を、続けていきましょう。

　

――幸せは繋がっていく