ここは「魔法少女リリカルなのは」の2次SSをメインとしています。
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タイトルに意味なんてないの!
手を伸ばせば触れられるもの、手を伸ばせば掴めるもの。それに価値を見いだすのは難しい。既に手に入っているものが大切にされることは少なく、そこにあるのが当然になってしまうと存在を忘れられてしまうことさえある。
それはすぐに手に入るものも同じで、軽視され大切にされていないことが間々ある。
しかし、忘れてはいけない。今は手の内にある物も、過去の自分が努力したからこそつかめたものであり、1つの結果であるということを。その結果すら固定されているものではなく、あなた自身が動くように手に入っているものも動きます。あなたが動くのであれば、当然の話でしょう?
そんな簡単なことを忘れるようであれば、手の中にある幸せさえあなたには守れませんよ。
虹を映す水面にて
目を焼くような照明が肌を刺し、床を鳴らす靴の音が耳を打つ。大きな姿見は私のだらけた姿を映し、根性のなさを責めて立ててくる。ここがレッスンルームであることから、それらは何も問題がないはずなんだけれど。その問題のないはずの場所で、私の脚は止まっていた。隣で踊り続けている志保のように複雑なリズムを刻むことはなく、ただ自らの体を支えるかのように存在し、既に理解しているステップをなぞっているだけ。
暑い。そう感じるほどの熱気がこの部屋には充満している。口から飛び込んでくる空気も、鼻の奥へと運ばれていく空気も、全てが熱を持っている。
既に季節としては秋に入り、最近は肌寒くなってきたとことだというのに、この部屋には熱気が篭り私のやる気をそいでいた。もっとも、その熱気を生み出しているのは間違いなく私達であり、文句を言うのは間違いだと分かってはいるけれど、事実としてこもっている熱気には私のやる気をそぐだけの威力がある。酸素を求めて開いた口も、冷たい空気を求めているはずの体も、どちらも我慢を強いられる形になっているのだから、イヤにもなるでしょ?
まったく、空調機の故障だなんて聞いてないわよ? その上、よりにもよってダンス用の部屋で壊れるだなんて、酷使し過ぎたのかしら? 稼働率が高いから、経年劣化という可能性もあるのよね。
ただ、その事実を聞いても心折れることなく、自主練習用に借りたところは評価して欲しい。ステージの熱気で慣れているからと、小鳥さんの許可をもらえたのも褒めて欲しい。
実際のところ、まともに練習が出来たのは最初の方だけで、今となっては手足が鉛のように重くなっており、新しいダンスは頭の中に入ってこない。既に知っているものを、体に染み付いているダンスを、反復練習として流すだけ。その動きですら、いつもより緩慢に感じられて、重たくなった空気の中では思ったように体を動かすことが出来ない。
たかが暑いだけ、そう息巻いていた先ほどまでの私に、小言を言いたい気分だ。まったく、こんなことではいつまでもイメージしているダンスに近づけることなんて出来ない。
「無理して付き合わなくていいのよ? 明日も仕事があるでしょ?」
私に声をかけてくるのは、隣で踊っている志保。その動きはぎこちなさが混じりながらも、この空気の中で軽やかさを失うことなく、美しさを保っている。ぎこちないのはダンスに対する苦手意識と、新曲用の振り付けであることを考えるのなら、十分に及第点といえるでしょ。
ダンスが苦手だからと、既に何度も聞いたことのあるお馴染みのセリフ。それをお供にして、レッスン場へ向かおうとしていたから一緒についてきたの。苦手だからどれだけ練習を積んだとしても足りないと、私を挑発するかのように視線を向けてきた。あなたはどうするのと、尋ねてくる視線だった。
私だってダンスが得意ではない。だから条件は一緒だったはずなのに、どうして明日の心配をされなければいけないの? 仕事があるのは、志保だって一緒なのに。私だけ甘えるようなことは出来ない。
「私は1人でも平気よ? 静香は先に帰ったって、伝えておくから」
プロね。なるほど、そういう言い方をするんだ。
その言葉は私の対抗心を煽るには十分で、悲鳴をあげている手足を動かせるようになる熱源としては有用ね。
けれど、燃え尽きてしまっているやる気に炎を再び灯すには少し熱量が足りないわ。
「ここで素直に帰れるなら、着いてきたりしないわよ。バカにしないで」
ただ、口だけはまだ元気なようで、挑発に乗ろうと身を乗り出している。その動きはありがたいものだけれど、首から下がついてこようとしない。彼女のそばで踊りたいと、負けていないことを証明したいと願っても、足は前へと進んでくれるつもりはないらしい。
私の体のクセに、私の思うがままに動かせないなんて不便ね。運動不足だと感じたことはないけれど、こういった場面で動けないのであれば、心にある気概すら笑われてしまうから。私の覚悟はその程度のものだったのかと、耳の奥に残る嘲笑が蘇ってしまうから。黙らせる為にも、やる気を刺激してやる必要がある。志保の挑発でも構わない、過去の嫌なことでも構わない、未来にあるかもしれない希望でも構わない。どうにか、やる気になれるものを見つけないと。
「体調管理もプロの仕事よ? 疲労の溜まっている状態でダンスレッスンなんかして、倒れてしまったらシャレにもならないわ。帰れとまでは言わないけれど、せめて休憩だけでもすれば? 随分と変わるわよ」
体の中心には鉛のようになった疲労が重なって、私の心と体の動きを邪魔してくる。動けない理由を作り出し、私の体に言い訳を与えてしまう。それを直接取り除くのが早いんだけど、そんな魔法みたいな方法は存在しないから。この重たい体を動かせる、精神的なエネルギーを見つけるしかない。肉体的に厳しいのであれば、それを上回れるだけのものが必要。
この部屋に存在するものに、そういった力が宿っていないでしょうか? ダンス用のレッスンルーム、壁の一面が鏡張りになっている。そこに映っているのは、動きが緩やかになりつつもその足を止めることがない志保と、既に足を止めてしまい考え込んでいる私。その様子は静と動を表しているようで、対照的な形となり私に考えることを促す。私と志保の差がどこにあるのか? どうして、志保はまだ動けているのか? そんな答えのない疑問へと、私を引きずり込む。
彫像としてなら、このままでも及第点をもらえるのかもしれない。そう思えるくらいに完璧なまでの熟考体制をとり、志保との間に広がってしまった溝を見つめてみる。止まっていた分だけ遅れているのは当然だけど、それは単純にはじき出させるものなのでしょうか? 足を止めていたとはいえ、何も考えなかったわけではないから。動いていたからといって、劇的な変化がもたらされるものでもないでしょう? 練習というのは日々の積み重ねが大切で、ヒントを得られないような状態なら、緩やかな成長しか見られない。
もちろん、志保の努力と練習が無駄になるとは思っていないけれど、私にだって積み重ねてきたものがあるから。そう簡単においていかれはしないはずよ。アイドルとしての及第点はもらえないかもしれないけれどね。光を生み出す、笑顔を広げるアイドルとしては全然ダメかもしれないけれど、足を止めたことを恥らうべきなんでしょうけど、ここで終わるつもりはないから。
恥らう前に動きだしましょう。無理矢理にでも理由をつけて、足を踏み出す為の声をあげる。アイドルになることは、義務ではない。アイドルであることは義務ではない。それは、私の憧れでありワガママだから。こんなところで、こんなことで足を止める自分を正当化してはいけない。望みには対価が必要で、成果には積み重ねが求められるから、私は私の為に動き出す。アイドルという夢を諦められないから、今動き出すの。
「休憩は終わりよ。ここからは私も参加するわ」
それにしても、志保は元気ね。仕事が終わってからの自主練習だから条件は同じはずなのに。何より既に遅い時間だから、疲れだってあるはずなのに、どうしてここまで頑張れるのかしら? 自分を削るかのように、挑めるのかしら?
練習着がないからと、急遽Tシャツを購入してまで練習するなんて。どこまでも真っ直ぐで眩しい存在。アイドルとしては同じ辺りにいると思い込んでいたけど、心意気は随分と先に行ってしまっている。私が目指すところには志保の方が近くて、少し羨ましい。この距離感を見失ってしまった場合、勘違いしてしまいそう。
自らよりも上にいるものを過小評価してしまっては、実力を見誤る。相手のことを過大評価し過ぎるのも困るけれど、今の志保は私よりいるのが事実でしょう。このまま志保が動き続けるのなら、私は引き離されてなしまう。内側に実力を溜め込んでいる彼女の横に並んでいられるはずない。引き離される、手が届いていたはずの彼女から遠のいてしまう。繋いでいたはずの手を、振りほどかれてしまう。
それは私の心に暗雲を広げる、黒をばらまくような衝撃を与えるもの。停止していることで、自分を甘やかすことで、失うものがあると気付いてしまった。今のままでいられなくなる、この幸せを手放す行為。輝きを掴む為の道程で、手にしていたはずの幸せを自ら捨ててしまう行為。不幸を招くのではない、状況に巻き込まれるのでもない、自らの失態により失なわれるもの。望んで手放すもの。
「志保が動いているのに、休んだり出来ないわ。置いていかれて、手が届かなくなったらイヤだもの」
隣にいることを義務付けられた覚えはない。恋人であることの条件なんて出されていない。気持ちと感情を制御出来なくなったのが今だから、そんな小難しいことを提示した覚えもなく、された覚えもない。それは信じられたから。そんなことをしなくても、お互いに高め合えると思ったから、口にしなかった。誓いを立てずとも、私たちならやれると未来を信じた結果。
それなのに、裏切るの? 疲れたからとここで歩みを止めてしまうの?
『冗談じゃないわ』
認められない。そう思って口にした言葉は、重なった。きつく、トゲを絡め合うかのように。傷つけることを恐れない、強さをもって。私たちの声は、同じ意味をもって重なった。
私への怒り。それは確かな熱をもって、体を巡る。しびれたように言うことを聞かなかった心を探して、私の中を駆ける。停止を選ぶことは許されないと、2色の音が起こしにくる。動き出せと、アラームが鳴り響く。
「休憩なら1人でしなさい。私まで巻き込まないで」
「私の目標は、こんなことで落とせないわ」
そして、割れる。勢いと強さを持ったまま、未来へ向かうかのように。その速度に足を踏み出す。置いてかれるのを嫌い、手を伸ばすことを望むのなら動き続ける以外に選択肢はないから。先に進む為に必要なものは、私の中にそろった。
「志保、一度通してみない? 足りないところを見つけるのも大切でしょ?」
「さっきまで止まっていたのくせに、不思議なことを言い出すのね。良いわ、未だに静香の手の届くところにいるか、確認させてあげる」
応えてくれる声は、どこか楽しそうで自信を含むもの。こちらだって、止まっていたとはいえ、実質5分程度でしかないのだから、まだ触れられるところにいるはずでしょ? それに、私はずっと志保のダンスを見ていたから、自分に足りていなかったものをいくつか見つけられている。志保は反復する動作の中で何かを掴んだのかもしれないけれど、私だって外から見ていることで学んだ。
この目に焼き付けるようにして、自らに足りないものを飲み込もうとして、脳内でのシミュレーションまでは止めていないから、私のダンスとの差、ズレは把握したつもりよ。
悩みごと自体は無駄になったとしても、ここで過ごす時間まで無駄にしたつもりはないわ。この後のダンスは気持ちを切り替えて挑むから、簡単に引き離せると思わないでね。
あなたの隣は私の指定席。後ろに付くつもりはないから、驚かないで頂戴。
――さぁ、音楽を始めましょう
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