【アイマス】迷子の才能【はるちは】

頑張れ、千早さん。飛び込め、春香さん。

　進む先を見失った時、私はどうすれば良いのでしょうか？

　誰かに尋ねますか？　地図を取り出しますか？　高いところへ登ってみますか？

　目的地は私にしか辿りつけず、誰も道のりを知らない場合は、そのすべてが使えません。

　結局は、手探りで、怯えながら進むしかないのです。

　

　

　　　　　迷子の才能

　

　

　私の心に宿る、燃え続ける熱はいくつかある。

　目指す場所を決めず、ただ高みを求める歌。

　それは、私の生きる理由でもあり、私の生きている証。私の好きなことでもあり、私を知って貰うための手段でもある。

　歌うことの喜びを、誰かに知って欲しい。歌うことによって、歌を届けることによって、誰かを幸せにしたい。だから、私は歌い続ける。やり過ぎだと言われることもあるけれど、それくでいでないと届かないから。諦めたくないから、私は全力でぶつかる。

　事務所のみんなと、一緒にいたいと願う心。

　一人でも平気だと、誰とも関わらないと、そう思っていた私を、こんな私を受け入れてくれた場所。

　人付き合いなんて苦手で、何を話したら良いのか分からなくて、歌しかないんだって意固地になって。それでも、受け入れてくれた場所。

　その場所を守る為に、みんなの笑顔の為に役立てるというのなら、私の歌には計り知れない価値が生まれるはずだから。何があっても諦めない。

　そして、彼女に向かう想い。私の心を焦がし、内側から崩してしまいそうな、熱い想い。

「春香、この気持ちをどうすればいいの？」

　返事のない、質問。

　誰かに知られるわけにはいかない、友達以上の想いを抱いているだなんて、誰かにバレてはいけない。口に出すことなく、心だけを燃やし続ける、この情熱。

　対処法は分からず、最初は何かの病気かと思った。

　春香を見ているだけで、顔が熱くなる。どんどんと熱くなってきて、頭がボーっとしてしまう。

　どんな時も、はるかの姿を探してしまう。視線を定めることが出来ず、まるで迷子のよう。

　なにより、春香と目を合わせられなくなってしまった。春香のことを探していたはずなのに、いざ見つけた時には、何も出来ず、固まってしまう私がいた。

　このままでは嫌われてしまう、春香が遠くに行ってしまう。そう思うだけで、涙が止められない夜もあった。

　大好きなはずの笑顔を、春香の顔を見るのが怖かった。私が見たこともないような、嫌悪を浮かべられたら終わりだと、自分を追い込んでしまった。

　レッスンに打ち込んでも、シャワーを浴びていても、眠っている時でさえ、春香のことが頭から離れなくて。あの時、春香が声をかけてくれなかったら、私は壊れていたと思うの。大丈夫って、私でよければ相談に乗るよって、いつも通りの声で聞いてくれたから。

　私が傍にいることを、おかしくなった私がいることを、拒絶しなかったから。私は壊れずにすんだ。今までの自分を許して、状況を把握しようと思えた。

　その時も結局、春香の笑顔で幸せになってしまったのだけれど、今では仕方のないことだったと理解出来る。

　それが恋だと、散々歌ってきた愛なのだと、知ってしまったから。どうしようもなく苦しく、何よりも甘い感情なのだと、今は知っているから。

　私の胸を突き破りそうな熱、私の言動をおかしくしてしまう熱。その全ては、恋愛感情と呼ばれるもので、アイドルにとって禁忌とされるものだと、知ってしまったから。

　もちろん、落ち込んだわよ。自分の気持ちが何か分かって、その想いの正体を知って、嬉しかったのに。冷水をかけられたかのように、熱が勢いを失ったわ。

　だって、アイドルにとって禁忌とされるものを、トップアイドルを目指そうとしている春香に、告げられるわけないでしょ？　彼女の笑顔を曇らせてしまうかもしれない、そんな言葉を届けられるわけないでしょ？

　私は春香が好きよ？　女の子同士だったなんて、そんなの知らないわ。好きになったのが春香で、私達がたまたま同姓だったという、ただそれだけの話でしかない。

　でも、そうだったとしても、彼女の夢を遠ざける、障害になるようなことを、告げられるはずがないわ。友達で満足して、友達で終わるしかないの。

　春香がトップアイドルを目指し続ける限り、私が彼女の笑顔を求め続ける限り、伝えられない。伝えることを、私自身が望んでいないの。

　ただ、たまに落ち込むのくらい、許して欲しいわ。私は、強くないから。ずっと、抱え続けているだけなんて、出来ない。空が、雲に覆われているような、今日みたいな日は特にね。

　春香に会いたいと、そう願ってしまうから。

　

――今頃、なにをしているのかしら