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ここは「魔法少女リリカルなのは」の2次SSをメインとしています。 ※ 百合思考です。 最近は、なのは以外も書き始めました。
ヽ(*´∀`)八(´∀`*)ノ
プロフィール
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らさ
年齢:
38
性別:
男性
誕生日:
1986/07/28
趣味:
SS書き・ステカつくり
自己紹介:
コメントを頂けると泣いて喜びます。
リンクフリーです。
ご報告頂けたら相互させて頂きます。


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yakisoba_pan◇hotmail.co.jp
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当ブログ内のSSは無断転載禁止です。 恥ずかしいので止めて ^^;
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さっきUPしたものからの、続きとなります。

いやぁ、体調不良の時って、記憶が曖昧ですよね。



 記憶とは曖昧なもので、確かな過去の証明にはならない。そこに確証と呼べるものはなく、しかし、ソレを頼りに生きているのも、また事実。
 幸せな記憶。忘れてしまいたい、辛い記憶。どちらも、強烈だから、強い思いと共に記憶されているから、焦ることも無く残り続ける。
 けれど、後悔と願望が交じり合った記憶ほど、あてにならないものはない。
 
 
     明かりのなかで
 
 
 カーテン越しに感じられる、朝の気配。はっきりとしていない意識の中であっても、習慣というのは抜けることなく、私はゆっくりとまぶたを開ける。
 昨日、体調を崩してしまった影響で、体はだるい。喉の調子もいまいちで、少し違和感がある。
 まったく、アイドルとしての知名度が広がり、歌の仕事も増えているのに、こんな体たらくでは駄目ね。体調管理もプロとして、意識した上でやっていかないと、この先、もっと忙しくなるのだとしたら、寝込んでいる暇なんてないわ。
 事務所のみんなにも迷惑をかけてしまったし、特に彼女には心配をかけてしまったことだろう。
「あら? そう……」
 枕元に置いてあった、携帯電話。そこには着信の知らせも、メールの知らせもなく、春香からの連絡が入っていないことを教えてくれる。いつもなら送られてくる、お休みのメールすらない。
 仕方ないわね。約束をしていたわけでもないし、春香も忙しいから。時には、こんな朝を迎えることもあるでしょう。
 それに、もしかしたらだけど、眠っている私に気を遣って、連絡をしなかったのかもしれない。
「連絡、したほうが良いのよね?」
 アドレス帳を開き、通話ボタンへと伸びようとする指。その行動が自然なものに感じられる程度には、私は自分のことを理解している。今日は、春香と一緒の現場だから。心配してくれているかもしれない彼女に、連絡を入れるのは当然の話。
 何より、弱ってしまっている心に、元気を与えるために、春香の声を聞きたい。私が今日を頑張る為に、彼女の声が必要だ。
 ピッと小さな音が鳴り、春香の番号が選択されていることを知らせてくれる。続いて流れるのはプルプルといった、コール音。朝早くから迷惑かもしれないけれど、事務所までの時間がかかる彼女であれば、起きている可能性は高いから。出てくれなかったとしても、その内折り返してくれるはずだから。
 そんな言い訳を並べて、耳を澄ませてみる。
 ……おかしい。聞こえるはずのない音が、携帯電話の震える音がすぐ近くで聞こえる。
 それは私の足元にあり、くぐもった音として鳴り続けている。
「どうして?」
 手の中にある私の携帯電話。それと連動するように、なり続ける音。私は携帯電話を1つしか持っていない。何より、今かけているのは春香の番号だから、この部屋で音がするのはおかしい。
 なにより、ぶつかるような音ではなく、何かに挟まっているような、くぐもたった音として聞こえるのは、何故?
「あっ、起きたんだね、千早ちゃん。気分はどう?」
 疑問が膨らむにつれ、違和感が大きくなっていく。そんな私にとどめを刺したのが、聞きたかった声。
 ただし、その声は携帯電話からではなく、私の見えないところから、具体的には、キッチンスペースの辺りから聞こえる。
「春香、なの?」
 おかしい。昨日は体調不良を理由に休んだはずで、事務所に行ってすらいない。眠っている場所は、間違いなく私の部屋で、それなのに春香の声がする。
 ベッドから起き上がり、周りを確認してみれば、見覚えのあるカバンが床の上に、震える音を立てながら存在する。
「もしかして、まだ熱があるのかな? おかゆ作ってみたけど、食べられそう?」
 エプロンをつけ、当然のように私を心配してくれる彼女。柔らかい笑顔を浮かべながらも、心配そうにこちらをのぞき込んでくる。
 これは、夢? 私はまだ、眠ったままでいるの?
「んー、ちょっと温かい気がするけど、どうかな?」
 そのまま、自然な動作で私の額に、春香の手が置かれている。少しだけひんやりしていて、気持ちの良い、私を安心させてくれる手。そこから優しさが染み込んでくるような気がして、安心してしまう。
 間違いない、これは私の知っている春香の手。私がいつも、引っ張ってもらう、優しい手。
 つまり、目の前にいる彼女は幻ではなく、本物の春香で、私は夢の中にいるわけではない。
「どうして……」
 ここにいるのとは聞けなかったけれど、私の頭の中は疑問で埋め尽くされてしまう。
 昨日、春香は仕事だったはず。その彼女がどうして、私の部屋にいるの? 私の求めているままの笑顔で、私のして欲しいことを、してくれるの?
 幸せなのに分からない。素直に、そのままを受け入れるには、難しいものがある。
「その様子だと、昨日のこと覚えてないのかな?」
 昨日のこと。それは、私は体調不良で休んだ日でしょ?
 プロデューサーへ連絡を入れた後、ほとんどを寝たまま過ごしたから、多くのことは覚えていない。
 記憶にあるのは、翌日の仕事への心配をしていたこと。おかゆを食べたことと、着替えを手伝ってもらったこと。
 あれ? おかしくない? おかゆって、誰が作ったの? 着替えは、誰に手伝ってもらったの?
 春香への電話はしていない。心配をかけたくないから、メールもいれていない。それは間違いないはずなのに。
 けど、昨日の体調で、料理をするような元気があるはずもなく、着替えだって難しかったはず。
「ごめんなさい。覚えていないわ」
 そもそも、私が作ったのなら、おかゆが美味しいはずはない。何より、優しい味なんて、するはずがない。
 つまり、記憶にないだけで、春香がきてくれたの? けど、彼女には仕事があったはずなのに、どうやって?
「昨日、千早ちゃんが体調不良でお休みしてるって聞いたから、きちゃったの。凄く喜んでくれたのに、覚えてない?」
 昨日の記憶。プロデューサーに電話をしたこと以外は、霧がかかったかのように、うまく思い出せない。何をしていたのか、何を考えていたのか。春香に会いたかったということ、その気持ちがなぜか満たされていること以外、思い出せない。
「おかゆ、美味しかったわ。ありがとう、春香」
 けれど、それは頭だけの話。熱にうなされて、覚えていないだけ。覚えていたとしても、思い出せないだけ。
 私の舌は覚えているわ、温かいものが口に入ってきたことを。優しさで満たされたことを。
「覚えてるの?」
「いいえ、覚えていないわ。ただ、なんとなく、そんな気がしたの」
 春香ならどうするか、プロデューサーから話を聞いた彼女が、どう動くか。少し考えてみれば分かることで、そんなに難しいことでもない。普段から心配ばかりかけているから、彼女のとった行動が手に取るように分かる。
 それと合わせて、私の体が覚えているから。春香のくれたものを、覚えているから。
 記憶にはなくても、教えてくれる。春香がいてくれたことを、教えてくれる。
「そっか。えへへ、なんだか嬉しいなぁ」
 彼女の笑顔こそが、私に元気をくれる。難しいことも、厳しいことにでも、挑戦する勇気をくれる。
 ぼんやりとしていたはずの思考はクリアになり、起こすべき行動が見えてくる。眠っていた心が弾み、次へ進む為のエネルギーを求めている。
「その、春香。お願いがあるのだけど、良いかしら?」
 万全ではない体調。どこか違和感のある、体の動き。
「何々? 食べたいものでもある?」
 いつもなら言えないこと。ブレーキが掛かってしまい、伝えられないこと。
 けれど、今なら言える。ブレーキが掛かる前に、飛び込める。
「抱きしめて欲しいの」
 恥ずかしくて伝えられない、伝えるべきではないお願い。それを、今なら口に出せる。
「私がここにいるって、教えて欲しいの」
 温もりが欲しい。私の大好きな温もりを感じたい。
 元気の足らない体を動かす為に、今日の仕事を問題なく乗り切る為に。春香の元気を、私に分けて欲しい。
「千早ちゃんは、甘えんぼさんだなぁ。ほら、これで良い?」
 包まれるように、分け与えられる温もり。安心させてくれる、柔らかさ。夢ではありえない、想像の中ではありえない、春香の温もり。
 抱きしめられるのは、初めてではない。春香の温もりに包まれるのは、初めてのことではない。
 けれど、自分からお願いして、私の口からお願いして、抱きしめてもらったのは初めて。自らの願いとして伝えたのは、これが初めてだから――なんというか、凄いわね。これが、春香なのね。
 言葉に出来ないものを、私は今、受け取っている。春香の中にある、大切なものを分けてもらっている。
 それが凄く嬉しいの。春香に抱きしめてもらえる、今この瞬間から頑張れるって、心が騒ぎ始める。
 大丈夫、私はやれるわ。彼女と一緒に今日を乗り切って、前に進める。何にも負けることなく、諦めることなく、羽ばたき続けられる。
 迷子になんてならないわ。
 
――この温もりこそが、私を導いてくれるから
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