【アイマス】太陽への道のり【はるちは】

今日は１月３日です！

・ｗ・）ｺﾞﾒﾝﾅｻｲ、ｳｿﾃﾞｽ

本当は、正月終わりくらいに挙げるべきSSですね。
姫始めに体力吸われて、脳がくたばってました。糖分欲しいです。

　人生とは苦難の連続である。これが誰の言葉であったか、そんなことは何の救いにもならない。

　納得できる時もあるし、反論したくなる時もある。悪いことがあれば、良いことだってある。

　ただ１つだけ確かなことは、努力を忘れた自分には、幸せが訪れないということ。

　

　

　　　　　太陽への道のり

　

　

　目の前にある黒いボタン。それは、インターフォンを鳴らす為のものであり、変わったところは何もない。

　外壁に取り付けられているため、少々泥が付いている気もするが、特別に汚れているわけでもなく、触ることを躊躇われるようなものでもない。

　当然、威圧されているわけでもなく、同行者もない今、誰かに見張られているわけでもない。

　正月休みの終ってしまう前日だというのに、どうして私はこんな場所で固まっているのか？　電車を使い、２時間ほどかけてここまできた理由は何か？

　それについては、しっかりとイメージしてきたし、シミュレーションに関してはバッチリといえるのに、どうしてこんなにも躊躇われるの？

　落ち着きなさい。私はただ、春香の家に来ているだけよ？　ご両親がいるかもしれない日付だけれど、呼ばれているのだから問題はないでしょ？

　約束の時間をきっちりと５分オーバーしているのだから、個人宅へ伺う時間としては問題ないわ。

　手土産だって、春香用と、ご挨拶用として２つ持ってきてるもの。春香がどういった考えで私を呼んだにしろ、ぬけている部分はないはずよ。宿泊用の道具も、衣類も余裕を持たせてきているから、恥ずかしい思いもしなくて済むわ。

　あれ？　でも、化粧品は持ってきたかしら？　普段殆ど使わないし、今朝珍しいほどに時間をかけているから、もしかして忘れたりしてない？　普段がノーメイクに近いからって、人様の家でそれは失礼よ。何より、春香の前では少しでも女の子らしくしていたいのだから、一緒にお化粧をするような、そんな甘い時間を過ごす為の道具を、忘れたりしないわよね？　でも、忘れたことを理由にすれば、春香の使っている化粧品を借りられるんじゃないかしら？　そう、普段から春香の使っているリップや、ファンでとか――ライブの時に借りたこともあるけど、かなり大胆なことをしていたのね。間接キスもいいところだわ。

　はぁ、そういったところに気を配れないから、女の子らしさが、いつまでも身に付かないのね。一緒に進むことを約束しているのに、隣に立った時、見劣りしてしまうわ。今からでも、少しずつ直していきましょう。

『ピンポーン』

　決意を新たにした私の耳に、聞こえる音。押した覚えのない、インターフォン。

　そして、家の中から聞こえるのは、元気な音で、無意識のうちに指が触れていたことを思い知る。

　どうしましょう、もう逃げられないわ。押してしまった以上、私が来たことは春香に伝わったと思うし、さっきの元気な音は、きっと転んだ音だから。ここを離れた場合、濡れた子犬みたいにしょんぼりしている、珍しい春香に出会うことになるわね。

　ええ、一瞬よ。本当に一瞬だけ、見てみたいとか思ったけど、そんな酷いことはできないわ。春香には、笑顔が１番似合うから。それを楽しみに、ここで待ちましょう。

「千早ちゃん、いらっしゃい」

　ほら、御覧なさい。やっぱり満面の笑顔で迎えてくれたでしょ？

　料理の途中なのか、エプロンをつけたままの春香。私に向かって、温かい笑顔を向けてくれる春香。玄関のドアを開けながら迎えてくれるなんて、あの春香が私を迎え入れてくれるように、笑顔で出てくるなんて。エプロンもふりふりで可愛いし、なにあれ、本当に私の恋人なの？　そうよね？　私の知っている春香なのよね？

　なによ、この天使。全てを放り捨てて抱きしめたくなるじゃない！　ご両親がいるかもしれないのに、全力でさらいたくなるわ！

「おはようございます、天海さん。今日も可愛らしくて、素敵だわ」

　……そして、私は誰？　春香の可愛さにあてられて、頭が回っていないのはいつものことだけど、今日は一段と酷いわね。

　春香のことを天海さんだなんて、他人行儀に呼んだら寂しがるのに。あ、でも、お邪魔する立場なんだから、最初はこれでいいのかしら？　マナーに関する教本で、そんなことが書いてあった気がするわ。

　親しき仲にも礼儀あり。春香のご両親がどこで聞いているかも分からない今、いつものような名前を呼び捨てにするのは控えたほうがいいでしょう。話でしか聞いたことのない友人に、自分の娘が呼び捨てにされている状況、気難しい人なら不機嫌になってしまうかもしれない。

　今後とも、良い関係を気付いていくには、第一印象には気をつけないとね。春香を困らせたいわけでもないのだから。

「えーと、私は如月さんって呼ぶべきなのかな？」

「そんな他人行儀名呼び方、しないで頂戴」

「じゃぁ、千早ちゃんも、天海さんなんて呼び方止めてよ。気遣ってくれてるのかもしれないけど、千早ちゃんが遠くに行ってしまったみたいで、私悲しいよ？」

　意外なほど、不評ね。確かに、硬い呼び方かもしれないけれど、これも必要なことなんじゃないかしら？　ご両親の前では、娘さんって呼ぶべきなのかしら？

　いえ、結婚の挨拶に伺っているわけでもないし、ただのお泊りでそこまでかしこまるのは、どうなの？

　そもそも、結婚だなんて、私達には早過ぎるわ。まだ恋人としての挨拶すらしていないのに、階段を飛ばし過ぎよ。

「えへへ、お父さんも、お母さんも、旅行に行ってていないから。そんなに気を使わなくても大丈夫だよ」

「あら……ご両親は不在だったのね」

　春香用のお土産と、ご両親用のお土産と、それぞれ準備してきたのだけれど。まぁ、良いわ。春香に渡してもらえば、無駄にすることはないわね。

　ちょっと残念な気もするけれど、最初はこれくらいでいいのかもしれないわね。硬くなったまま会うなんて、失礼だから。

「だから、この家には私達だけなんだよ。誰に遠慮する必要もないから、ずっと千早ちゃんとくっついていられるんだ」

　後先考えない言葉が飛び出してきたけれど、それだけ楽しみにしてくれていたってことよね？　私と会える、一緒にいられる日を、楽しみにしてくれていたってことよね？

　安心したわ。準備に時間をかけてしまったり、普段では考えられないような失敗をしたり、そわそわしているのは、春香も同じなのね。今の私を見られたら、失望されるんじゃないかって、ちょっと不安になった時もあるけれど、悪いことじゃなさそう。

「それって、私の部屋に来てる時と、違うの？」

　私の部屋に遊びに来ている時、泊まりに来ている時、狭さを理由にいつもくっついているのに。ベッドすら同じものを使っているのに、何か違うのかしら？

「大違いだよ！　千早ちゃんのとこは、理由を付けちゃってるけど、今日は理由が要らないんだよ？　恋人だから、くっついていたいから、それだけに出来るんだよ？　手料理だって、ちゃんと準備してるんだから」

　うーん、春香にとっては、力説するほどに違いがあるのね。

　私には、その違いがまだ分からないけれど、いつかは理解できるように学びましょう。

「ふふ、楽しみにしているわ」

　ひとまずは、今日を楽しみましょう。いつか分かるという心構えは、のんびりし過ぎているのかもしれない。

　ただ、１つずつを積み上げていくことの大切さは知っているから、受け入れていけば良いわ。

「今日は、春香が愛してくれるんでしょ？」

　どこへ向かっているか、どこへ辿り着けるのか、全く分からない私達の恋愛。先が見えないからこそ、今しか見えないからこそ、何も考えない。自分を隠すこともなく、やりたいことだけを、求めたいものだけを求めて、素直になる。

　その為には、恥ずかしがらないこと。自分自身を、春香に伝えようとすることが大切。

　どちらも教わったことでしかないけれど、実践するのは私だから。私のやり方で、伝えていけるから。

「千早ちゃん、前はそんなこと言ってくれなかったのに。変わったね」

「春香が、私を変えてくれたのよ？　感謝しているわ」

　昔の私に、別れを告げることは出来ない。今まで辿ってきた道を、忘れることは出来ない。

　ただ、未来の自分を変えることは出来るから。そこにまで不可能は及んでいないから。私は幸せを掴むために、自分を変えていく。

　その考え方をくれたのが、望んでもいいと教えてくれたのが、春香だから。彼女と過ごす未来には、沢山のワガママを詰め込むわ。

「そっか。なら、今日も一緒にいてくれるんだよね？」

「ええ、今日と明日、離れることなく一緒にいるわ」

　過ごせる時間を大切にする。一緒にいられる幸せを、大切にする。

　そうしていくことで、私達の未来は彩られるはずだから。望んだ未来へ繋ぐため、今日がここにある。

　

――私達の時間を過ごしましょう