【アイマス】厳しい優しい【しずしほ】

ネタ自体は随分前に書いていたようで、まだCP確立前だったっぽいです
そのセリフを殆ど変えないとか、ふしぎなチャレンジしてました

・ｗ・）　なんか、後半の志保が素直です

スイッチがありそうな気がしますので、
千早の女の子スイッチと共に、探してみようと思います。

　言葉にしないと、伝わらない思い。言葉にしても伝わらない思い。

　どうすれば、心のうちにあるものを伝えられるのか。それを学ぶには、伝え続けるしかない。

　

　

　　　　　厳しい優しい

　

　

　背中から伝わる冷たさが、心地よい。頭は冷えているのに、体はまだまだ熱いから。このまま暫く休んでいたい。

　今日の失敗は珍しいことじゃない。何も、変わったことではない。いつも通りの、私だった。

「ねぇ、志保。隣、いい？」

　そして、これもいつも通り。私が失敗した時、慰めに来てくれるのは、彼女の役目になってしまっているから。

　放っておかれても平気なんだけど、折角きてくれたのを、追い返すほど私も冷たくは出来ない。

「別に、勝手に座ればいいじゃない」

　ただ、言葉の冷たさは、今までと変わらないところだけ、訂正しておくわ。ここに関しては、変化はないし、特別変えようとも思わない。

　彼女なら、意地っ張りだと笑ってくれるのは分かっているし、こちらのことも分かってもらえているようで、ちょっとだけ嬉しいから。今までと変わらないよう、ここだけはそのままでいる。

「そう。なら、勝手にさせてもらうわ」

　ここはレッスン場であり、私達２人だけではないから。彼女の言葉も、必要以上に優しくなることは無く、私の心に響かせるつもりもないらしい。

　それで良い。過去の私達がそうであったように、ここでは甘さを捨てて、上を向く気持ちを忘れないようにすべき。寄りかかるような真似はせず、失敗は失敗として、受け入れなければいけない。甘えた状態で、上なんて目指せるわけないから。

　もっとも、今の私達は関係が変わってしまったから、周りが心配そうに見ていることも無く、以前よりもずっと近い位置に座って、心を落ち着けた状態で話すことが出来る。静香の目を見て、彼女が言いたいことを感じ取って、言葉も正面から受け取れる。

　他のみんなにとっては、なんてこともない、普通のことかもしれないけれど、ケンカばかりしていた仲だから。こうしていられる時間も、大切に感じる。

「なによ、用があるから来たんでしょ？」

　ただ、ここでの私達はそれだけでは済まされない。全てに手を抜かないと決めた以上、静香が相手だとしても、私は口を閉じたりはしないわ。自分の意見は、きちんと伝える。

「うん。でも、それは志保が１番分かってるんじゃないの？」

　以前なら、この時点で言い争いが始まっていた。冷静になる時間なんてなくて、議題とされていたことが解決されることも無くて、ただ時間を浪費していただけ。

「間違った意見を言ったつもりはないわ。今の状態からなら、不可能ではないはずよ」

　それに比べれば、私達も成長したのでしょう。今、この場で必要なこと、決めるべきことが何かを、お互いが理解している。だから、会話を進めようとするし、無駄に争う姿勢にもならない。

　ただ、恋人だと認知されている者同士の会話として、今の状況が相応しくないこと。それについて、みんながどうにかしてくれようとしているから、もう少し柔らかい対応が出来るようにすべきなんだけど。

「ええ、志保の言っていることは正しいわ」

「なら、何故反対したの？　静香なら、分かってくれると思ったのに」

　質問をぶつけながらも、心の中には疑問は残っていない。

　私は知っているもの。静香は分かってくれている。けれど、反対する必要があったから、私とぶつかった。それだけのことだって。

「分からないわけではないの。ただ、難しいかなって思ったの」

　だから、これから彼女に言われる内容は、大体の予想がつく。どんなふうに、何を言われるのか、聞かなくても予想出来てしまう。

　その程度の回数はぶつかって、相手のことを分かっている。そう、分かっているのよ。

　だから、ぶつかるのを止められない。分かっているからこそ、私はここを譲れない。ここにいられるのは、私だけだと思いたいから。

「志保の言ってること、伝えたいこと。それなりに、分かっているつもりよ？　大切なことを伝えようとしているんだって、私以外にも分かってくれている子はいるはずだわ」

　それは静香だって同じ。

　けれど、彼女は私の一歩先を行っているから、私が出来ないことを出来てしまう。私の意見を取り入れて、私のことを分かってくれて、その上で話してくれる。

　それに甘えるのは良くないって、分かってくれているから良いと、投げてしまってはダメだと理解はしているわ。

　本当なら、彼女を追い越すくらいの勢いで、私も成長していなければいけない。出来ないと言う前に、出来るようにならなければいけないのに。現実は、厳しいわね。

　自分の口から出る言葉が、自分自身を追い詰める結果になるなんて、笑い話にもならないわ。

「ただ、ちょっと厳しいのよ。志保の優しさは、厳しさを持ち合わせているから、素直に聞き入れられない子もいるわ」

　優しくしているつもりは、ないわよ？　反省をしたり、意見を出している場なのに、優しくする意味はないでしょ？

　私はただ、やるべきことをするように、伝えているだけ。プロとして、ファンに応える必要があると、そう伝えているだけ。

　甘えてしまったら、そこで終わってしまうのに。

「どうしてなの？　私には、それが分からない」

　分かっていないメンバーがいるだなんて、思いたくない。みんな前を向いている、輝く為に努力している。そう思っていたい。

　そんなみんなだからこそ、私は難しいとは思えないの。努力すれば、必ず出来るはずよ。今の私達でなら、不可能ではないはずなの。

「ねぇ、志保。あなた、自分の気持を全部伝えようとしたことはある？　最低限伝えるべき言葉だけではなくて、全てを伝えようとしたことはあるかしら？」

「それに、なんの意味があるの？」

　いつもであれば、ここからしばらくの間は、平行線が続くはずなのに。分からないではなく、分かるようになって欲しいと、ただ伝えられるだけで、終わっているはずなのに。また、静香は先に進んでしまうの？

　今の言葉の意味、私には分からないわ。最低限のことを伝えたら、後は本人が決めるべきでしょう？

　努力をするのも、苦労をするのも、輝くのだって、その子なんだから。私が全てを伝えてしまうようなことをしては、意味がないんじゃないの？

「納得してもらう為に、説明しようとしたことはある？」

　気持ちを全部伝えようとしたことは、ないわ。一部でも伝わらないと感じているのに、全部を伝えようとしても、無駄になるだけじゃない。そんなの、時間の無駄だわ。

　ただ、その一部を分かってもらう為に、説明しようとしたこともないわ。伝えるだけ伝えて、そこで終わってしまっている。納得してもらおうと、努力したことはない。それが事実である以上、本当に分かっていないのは、もしかしたら、私なのかしら？

　自分が伝えようとしていることが分かっていないから、説明も出来ないんじゃない？　分かってもらおうと、そう考えたことがあるかしら？

「……ないわ」

　伝わらないことに不満を感じていたけれど、それで終わってしまっていた。ちゃんと伝えられていない、私にも原因があったのね。分かってもらおうとする努力、確かに怠っていたわ。

「そう。言い訳すらしないのは、志保らしいわ」

　こんなこと、褒められても嬉しくないわよ。私は成長しているつもりだったのに、こういうところが抜けているのね。

　だから、静香に置いていかれてしまう、。一緒に進んで行きたいのに、背中を見続けることになる。

「言っておきながらなんだけど、私も全部を伝えようとしたことはないのよ」

「何よ、それ。ちょっとズルくない？」

「志保なら、私より分かってるかなって思っただけ。ワガママでここにいるような、私とは違っていて欲しいって、勝手に思ってるだけ」

　呆れた。私にお説教しといて、自分も出来てませんて、ダメじゃない。

　何より、勝手に期待されても困るわよ。私は、自分が優れているだなんて、思ったことないんだから。出来ないことが、出来るようになりたいことが、山のようにあるからこそ努力するの。

　１つずつでも、出来るようになろうって、頑張ってるのよ。

「そんな立派な理由ないし、変わらないわ」

　静香の理由、知ってはいる。ただ、それだけの思いで、ここに立てるほど甘くはないから。最初は手段の１つに過ぎなかったのかもしれない、時には逃げるためだったかもしれない、けれど、あなたは今ここに、ちゃんとアイドルとしているんだから。ちょっとくらい、自分を認めてあげてもいいんじゃないの？

　それに、私がここにいるのは、もっと泥臭い理由よ。夢がどうとか、理想がどうとか、語れるような資格、私にはないの。

「それで？」

「ん？」

　どうして、そこで首をかしげるの？　可愛いから？　可愛いから、そうしているの？

　ええ、認めてあげるわよ。静香は可愛いわ。そんな事実、とっくに知っているから、このタイミングで教えてくれなくて良いわ。話を進めて頂戴。

「さっきの話よ。全部伝えようとしたら、どうなるの？」

　話の途中で、腰を折ったのは私かもしれないけれど、そこまで綺麗に忘れるほど時間は空いてないでしょ？

「そうね。多分、未来みたいになるんじゃないかしら？」

「――っ」

　静香の口から、彼女の名前が出てくることは、珍しくもない。仲が良いのは知っているし、友達である以上、会話に上ってきてもおかしくはない。

　ただ、恋人である私としては、その名前を聞いて、穏やかではいられない。いつもどこかで、静香の心を占領している。私と２人でいる時ですら、静香の心にいる。そういった存在だから。

　忘れて欲しいといえるなら、どれだけ楽だろう？　伝えるわけにはいかないからこそ、想像してしまいそうになる。

　私達の関係を祝福してくれる、そんな優しい子なのに。静香がその前を口にする度に、私の心は荒れてしまう。

「静香は、そうなって欲しいの？」

　私達は恋人だ。世間に公表することは出来なくても、静香は私の彼女だ。

　けれど、彼女の願いを叶えてあげるわけにはいかない。私は、私のままで、北沢志保として、彼女の隣にいたいから。

「イヤよ。私は、志保が良いの。未来が増えたら、大変じゃない。志保だって、可奈が増えたら大変でしょ？」

　何が言いたいかは分からないけれど、何を伝えたいのかは、分かるわ。ただ、それ、私でなければ誤解を招くわよ？　ケンカになったとしても、おかしくないのよ？

　そこらへん、分かってる？　静香って、時々残念仕様になるから、仕事で失敗しないか、少し心配よ。歌はすごいのに、性格だって真面目なのに、どうしてかしら？

「それに、志保の厳しさは、優しさだって知ってるから。みんなの為に言ってくれているって、知ってるから」

「別にそんなんじゃないわ。ただ、足を引っ張り合っても意味が無いでしょ？　そんなんじゃ、アイドルにはなれないわ」

　せっかく一緒にレッスンをしているのだから、どうせなら上を目指したいでしょ？

　私達は、上だけを見ていれば良いんだから。足を引っ張るような真似をしても、何も得はない。ただひたすら、登り続ければ良い。

　まったく、何を言われるかと身構えたのに、損したわ。

「ふふ、誤魔化さなくてもいいのよ？　志保は、みんなと一緒にいたいだけでしょ？」

　何よ、それ。私は別に寂しくないわよ？

「私は、独りでも平気よ」

「なら、どうして、今一緒にいてくれるの？」

　どうしてって、それを答えないといけないの？　私が素直に答えると思う？

　まだね。まだ甘いわ。私にそのままを答えて欲しいのなら、もう少しひねって頂戴。どこにも逃げられないように追い詰めて、素直な気持ちを伝えることしか出来ない状態にして。

　そうすれば、答えてしまうかもしれないから。

「静香が着ただけでしょ？　私が誘ったわけではないわ」

　今は、この答えだけよ。そのままだし、間違ってはいないでしょ？

　残念そうな顔をしても、これ以上はないわ。

「なら、どうして頑張るの？　頼られて、イヤって言えたことある？」

「嫌なことは断っているわ。何が言いたいのよ？」

「別に？　ただ、杏奈さんが一緒にレッスンしてもらえたって、喜んでいて、ちょっと羨ましかっただけよ？」

　頼られているのに、断るの？　当然、嫌なことであれば断るし、タイミングが悪ければ、断るわよ？

　望月さんとレッスンしたのだって、別に初めてでもないし。怒られるようなことでもないのに、どうして睨まれているのかしら？

「わざわざ別にやる必要ないでしょ？」

「あら、志保としては、個人が努力して、みんなで成果を発揮するって考えでしょ？」

　個人が努力する。それを集めることで、ユニットとしても強くなれる。理想だとは分かっていても、それが私の考え方であることは事実。

　それは、静香に言われるまでもなく、理解しているわ。

　ただ、このタイミングでわざわざ言われるのは、理由が分からない。２人きりでいたとはいえ、レッスンよ？　他に、何もないわ。

「……分からないところで悩んでいるくらいなら、一緒にやって方が早いでしょ？　私だって、参考になるもの」

　一緒にやっていて、気づけることもある。自分の悪いところ、伸ばしていくべきところ。それを教えてもらうことが出来る。

　もちろん、静香とだって、一緒にやりたいけれど。最近、中々予定が合わないのよね。

「ふーん、そうなんだ」

　どうして、私が責められないといけないの？　なにも、後ろめたいところはないのに。これではまるで、何かあったみたいじゃない。

　おかしいわ。こんなふうに、追求されるようなこと、何もしてないわよ？

「何よ？」

「別に？　志保も拗ねるんだなーって、思っただけよ」

「すねてなんかいないわよ」

「そうね。私の好きな志保は素直な女の子だから。いつもそうしてくれていると、嬉しいわ」

　好きとか、嫌いとか。私も、静香のこと好きだけど。このタイミングで言うのは、ずるいわ。何も準備していないし、突然言われても困るだけよ？

　なにより、さっきまでと全然態度が違うじゃない。理不尽に責められたかと思えば、いきなり好きなんて言われて。私にどうしろって言うのよ？

　そんなまぶしい笑顔を向けられても、何も出ないわよ。

「顔が赤いけど、疲れたの？」

「……よく言うわ。あんな恥ずかしいこと言われて、平気なわけないでしょ？」

「恥ずかしいこと？　別に、そんな話してないわよ？」

　これも、感覚の違いなのかしら？　私にとっての恥ずかしいと、静香にとっての恥ずかしいに、ズレがある。

　平気だと思っていることで真っ赤になったり、私が逃げ出しそうなレベルでも、平気な顔をしていたり。埋まらない差だと分かってはいても、ちょっと寂しいものね。

　私達は、別の考え方を持っているから、惹かれた。お互いのことが気になって、今は恋人にまでなっている。

　そこについて、全てがプラスだと考えるのは、危険なのでしょう。

「……もう良いわ。今日は、これで帰るから」

　どちらにしても、私には時間がない。話題が楽しくても、つまらなくても、時間は過ぎてしまうから。

「そう、出来るならもう少し話していたかったけど、仕方ないわね」

　そんな寂しそうな顔、しないでよ。私だって、もっと話していたいし、傍にいたいの。

　ただ、それが叶わないのは分かっていたことで、今更変えられるような話ではないの。

「ごめんなさい。会話をさえぎる形になったわね」

「気にしにで。志保が家族を大切にしているの、知っているから」

　あなたのその笑顔、嫌いよ。無理をして、自分を押し込めて、笑っているでしょ？　私にくらいは、わがままを言ってくれてもいいのに、どうして我慢してしまうの？

「ありがと」

「うん、それじゃ、またね」

「ええ、また明日」

　明日は、楽しい話題を持ってくるわ。あなたの笑顔を見られるような、そんな話題を探してくるわ。

　だから、今日はごめんなさい。また明日、会いましょう。

――明日には、もう少し成長してたいな