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ここは「魔法少女リリカルなのは」の2次SSをメインとしています。 ※ 百合思考です。 最近は、なのは以外も書き始めました。
ヽ(*´∀`)八(´∀`*)ノ
プロフィール
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らさ
年齢:
37
性別:
男性
誕生日:
1986/07/28
趣味:
SS書き・ステカつくり
自己紹介:
コメントを頂けると泣いて喜びます。
リンクフリーです。
ご報告頂けたら相互させて頂きます。


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yakisoba_pan◇hotmail.co.jp
◇を@に変えて下さい
当ブログ内のSSは無断転載禁止です。 恥ずかしいので止めて ^^;
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はい、土曜日ですよ
今回もヴォカロ関係をUPなんだぜ

ミク&ハク 3話【翼のままに】
これまでの3話+書き下ろしがイベント配布物になります
間に合うのかなー?w


何かを伝えたいと願う時
誰かに伝えたいと、強く願う時……
翼を手にしていれば、飛び立つのでしょう

お時間がありましたらどうぞ~












ブザー音と共に、上がっていく緞帳。
ライトが照らし、観客の見つめているステージ。
いつも感じている試されるような感覚はなく、純粋できらきらとしたものが感じられる。
うーん、この雰囲気はなんだか新鮮だなぁ。たまにはこういうのも良いね。
入院しているって聞いたから、もう少し元気がなさそうな感じかと思っていたけど。子供特有の、体の内側から溢れているようなパワーが感じられる。
それに比べて……こっちは大丈夫かな?
横を見れば、不安そうにしているハクさんと目があう。
「大丈夫だよ」
朝から晩まで、時間さえあれば練習していたのに、心配なんていらないよ。
怯えていたり、怖がっている方が失敗しやすいんだから。もっと、気を楽にしないと。
「で、でも、もし失敗したら、どうすれば……」
ハクさんは心配性だね。分かっていたことだけど、ここまでくると筋金入りだなぁ。
人生なんて短いんだから、下ばかり向いてても楽しくないよ。
失敗を恐れずに、前を向いて笑っていようよ。
「感情は歌に出ちゃうよ?」
「そ、それは分かっていますが、難しいです」
「失敗を恐れないで、練習中のハクさんは格好良かったんだから」
目を見張るほどの変化だったと思う。
普段の彼女からは想像出来ないような、声・感情。
聞いているだけでダイレクトに伝わってくる想い。
どこにしまっていたのか、教えて欲しいぐらいだったんだよ?
「また失敗してしまったら……そう思うと怖いんです」
彼女の脳内では、デビューコンサートでの悲劇がよみがえっているのかもしれない。
あれだけショックを受けた出来事だ。忘れるように努力していても、簡単に消えたりはしないだろう。
「あの時のコトが思い出されてしまって、足が震えそうになるんです」
今までの彼女であれば、逃げていたのかもしれない。
今までの彼女であれば、ここに立つことさえ出来なかったのかもしれない。
でも、今ここに立っている。自らの弱さを克服し、未来に向けて進もうとしているんだ。
そんな彼女を、頑張っているハクさんを、応援してあげたいと思うのは当然だよね?
辛い時、助けて欲しい時は、支えてあげるのが家族の役目。
「ハクさんは、ハクさんの歌を歌えば良いの」
「でも、皆さんにご迷惑をかけてしまいます」
そんな、泣きそうな顔をしないで。
ここまでこれたの、あと少しなんだから。みんなで頑張ろう。
「失敗したらどうしよう。ミスしたらどうしよう。みんな、怖いんだ」
誰だって、恐れている。誰だって、怖いんだ。
でも、その恐怖に打ち勝って初めて歌えるの。
その恐怖を超えるだけの気持ちを込めて、初めて歌になるの。
「それでも歌いたいから、私達はここにいるの。それでも、伝えたいことがあるから頑張れる。それを教えてくれたのはハクさんだよ?」
「わ、私ですか?」
ふふ、気付いていないんだね。
ハクさんがどれだけ家族の支えとなり、私達に力をくれているのか。
恥ずかしいから、面と向かって伝えることは出来ないけど、感じ取ってくれると嬉しいな。
「そんな顔しないで、楽しく歌おう。失敗しても大丈夫。次に活かせば良いんだよ」
恐れないことは難しい。
けど、次に活かすことなら出来る。
1つずつ、自分の出来ることを頑張れば良いんだよ。
「……はい、分かりました」
前を向く彼女の顔つきが変わる。うん、ハクさんの心も決まったみたいだね。
怖がる必要なんてないんだ。歌は楽しむものだから。
怯える必要なんてないんだ。歌は楽しいから。
それを伝えるんだ。
緩やかに流れ出す伴奏。さぁ、コンサートが始まるよ――





カイト兄さんと打ち合わせが終わり、その日の晩。
あまり期間が残されていないこともあり、早速ハクさんに市民コンサートのことを話してみた。
「私も一緒に、ですか?」
「そうなんだ。どうだい、たまには留守番ではなく、一緒にこないか?」
でも、いきなり歌の話を持ち出せば、断られるのは目に見えている。
日頃は弱気なハクさんだけど、これだけは頑固だから。
「市民コンサートということもあってね、歌も演奏も出演者で用意する必要があるんだ」
「それなら、いつもの楽団さんにお願いすればよろしいのでは?」
私達が歌う時、いつも演奏をしてくれるみなさん。
気さくな人が多いし、演奏の腕は確かなんだけど、私達の我侭にまで付き合ってもらうのは悪いよ。
それに、話したら引き受けてくれそうだから、伝えてもいないよ。
「それじゃ、意味がないんだよ。市民コンサートに楽団なんか呼んだら、出場取り消しになってしまうさ」
本当は、それが1番の理由だけどね。
その点ハクさんの伴奏であれば、私達も聞きなれているし戸惑うことなく歌えるだろう。
「でも、私だけですと……ギターぐらいしか持ち込めませんよ?」
「それで良いのさ。ピアノなんて重たいだけだし、伴奏さえつけば俺達は歌える」
あー、どうしてカイト兄さんはこう自信家なのかな?
家族の中にはまだ難しい人もいるんだよ?
「あのさ、ハクの伴奏の腕を疑うつもりはないわよ? でも、みんながそれで歌えるって決め付けるのはやりすぎじゃない?」
そう、メイコ姉さんの言う通り。
伴奏だけでは、メロディーを保てないかもしれない。リズムを外してしまうかもしれない。
「メーちゃんにしては弱気だね? 俺達は歌ってナンボの存在だ。なら、ギター1本の伴奏でも臆することはない。いつもどおり歌えるように、努力すれば良いのさ」
うぅ……そこまで言い切られちゃったら、やるしかないよね。
ハクさんに伴奏してもらう、歌ってもらうのが目的なのに、うかうかしていられなくなったよ。
「ふーん、まぁ、カイトがそう言うならアタシは別に良いわ」
メイコ姉さんも納得しちゃった。
他のみんなもやる気になったみたいだし、楽しみだなぁ。私も負けないように、頑張らないと。
「そういえば聞き忘れていたけど、それって市民コンサートよね? そーゆうのって、アタシ達みたいなのは出れないはずでしょ?」
聞き忘れてたって……メイコ姉さんらしいけど、少しは気にして欲しいな。
多分、相談もされなかったから、問題ないって思ってたんだろけど。
「メーちゃん、甘いねぇ。この話は俺のところにきているんだよ? それぐらいちゃんと確認してるさ」
そう言って、封筒を見せるカイト兄さん。
「ふーん、なら問題はないのね」
ここまでの展開、予想がついていた私にはお芝居に見えなくもない。
まずは第1段階クリアーって感じだね。
「それにしても、ハクと一緒に出れるんだ。よろしくね」
「その、あの、こちらこそ、よろしくお願いします……」
ここで失敗してしまったら、次には続けられなかったんだけど、流石はメイコ姉さん。打ち合わせなしでも、ちゃんと合わせてくれる。
これでもう少しおしとやかにしてくれれば、女性としても見習いたいんだけどなぁ。
なんにしても、ここからが本番だね。ハクさんが歌ってくれるように、頑張るよ。
「それにしても、伴奏ねぇ」
「えと、やっぱり出ない方がよろしいでしょうか?」
なんだか雲行きが怪しくなってきた?
メイコ姉さんは何を言うつもりなんだろ?
心配になってカイト兄さんの方を見ると、笑顔でうなずかれちゃった。
心配、ないんだよね?
「そんなことはないわよ。ただ、折角出るのに伴奏だけってのは勿体無いわ。どうせなら、一緒に歌わない?」
「……歌ですか?」
私達が言い出せなかったことを、あっさりと言ってしまったメイコ姉さん。
別に打ち合わせをしていないから、良いんだけど。この流れはヤバいよ。
「ダ、ダメですよ。私、そんなこと出来ません」
あはは……いつもの通りの展開になちゃった。
もー、メイコ姉さんだってこうなるのは分かっているはずなのに、どうして言い出したのかな?
カイト兄さんも笑ってないで、フォローしてよ。
「そう? アナタの歌、すでに十分なレベルまで達していると思うんだけど?」
このままメイコ姉さん1人に任せるのは、ちょっと不安なんだけど。
気持ちを同じくしているカイト兄さんが信じているし、私も信じるしかないよね。
「私、ほとんど歌ったことありませんよ?」
前に歌っていたところを見たけど、アレは内緒にしてあるからハクさんは知らないんだ。
でも、それを喋っちゃうと逃げちゃいそうだし、どうしようかな?
「はぁ、ホントはね、黙っておくべきことなのかもしれない。でもね、アタシの性格上そんなのは無理だから、言わせてもらうわ」
「えーと、どうぞ」
もしかして、メイコ姉さん喋っちゃうの?
あの日、あの場所で見たことを、喋ってしまうつもりなの?
「以前にね……そう、コンサートの帰りだったかしら? アナタが歌っているところに遭遇したのよ」
「そ、そんなはずはありませんよ。私は歌えませんから?」
言っちゃうんだ。
ハクさんとしては隠しておきたいことだと思うんだけどなぁ。
「ふふ、そんなに必死になって隠さなくても良いじゃない」
あの日見てしまった笑顔。あの日聞いてしまった歌声。
忘れることは出来なくて、話すことも無理だと思っていたのに。
「あなた自身は下手だから、歌えないからと言って断ってきたわね。勿論、強制つもりなんてないわよ? 努力するのも、苦労するのもアナタだから」
強制するのは簡単。
だけど、それで苦労するのはハクさんなんだ。私達ではない。
「でもね、1つだけ言わせて頂戴。アナタの歌は荒削りだわ。けど、心に響いてくるものがあるの」
それを私達は知っている。自分自身で経験している。
だけど、それを承知でお願いするの。あなたの歌を聞かせて欲しいって。
「アナタの歌は、確かにワタシの心を振るわせたのよ。一緒に歌いたい、そう思わせるだけの力があるの」
ハクさんの想い。私達が感じ取れたのは、強い願い。
その力に引かれたからこそ、私も一緒に歌いたいと思ったの。
ハクさんと一緒に歌えば楽しい。そう思ったから誘いるの。
「あはは、メーちゃんに嫌な役をやらせちゃったね」
本当は、私かカイト兄さんがやるはずだった役。
ハクさんにも、みんなにも嫌われる可能性がある役。
ごめんね、メイコ姉さん。
「ごめん、ハク。そんな感じで俺達は君の実力を知っていて、君と一緒に歌いたい。歌って欲しい。そう願っているんだ」
「あー、カイト兄さんズルい。私が言いたかったのに!」
嫌われ役はメイコ姉さんに取られ、おいしいところはカイト兄さんに取られた。
私の出番がないよ。
「すまない。でも、俺の本心だから、隠し続けるのは無理なのさ」
「もー、その役だけは私に譲ってくれると思っていたのに」
カイト兄さんは私と同じぐらい、強い願いを持っている。
カイト兄さんと私は、同じ望みの為に頑張ってきた。
だから、どれだけ願っているのか、望んでいるのかは知っているし、あんまり強く言えないけどね。
「あの、本当に私が歌っても宜しいのでしょうか? 私なんかが、皆さんと一緒に歌っても宜しいのでしょうか?」
「ふっふー、当然よ。コッチからお願いしているんだから」
初めからお願いしていれば、良かったのかな?
一緒に歌おうって誘っていれば、歌ってくれたのかな?
過去に試してきたことが無駄だったのかもしれない。そう思うとちょっと泣きそう。
「ああ、むしろこちらがお願いしていることだ。ハク、一緒に歌ってくれないか?」
「だから、その役は私に頂戴って言っているのに……」
いい加減に怒るよ?
私だって頑張ったのに、このままだと良いところないよ。
別に活躍の場が欲しいとか、そんな変なことは言わないけど……ねぇ?
「それに今回の観客のことを考えると、ハクと一緒に歌わなければ意味がないんだ」
上目遣いでカイト兄さんを見つめているのに、気づいてもらえない。
ここまでくると寂しいよ、本当!
「この市民コンサートは、少し主旨が変わっていてね。今回、観客として招待されているのは入院中の子供達なんだ」
「……それでアタシ達も出演可能ってわけね。初めから、そー言えば良いのに」
カイト兄さんの言葉をつぎ、メイコ姉さんが喋る。そこに私が口を挟む隙はない。
外で遊びたいのに、病気のせいで出られない。走り回りたくても、怪我のせいで動くことすら難しい。
そんな子達に元気になってもらおう、少しでも楽しんでもらおうというのが目的のコンサート。
そんあコンサートだからこそ、一緒に出ようとハクさんにお願いしている。
まぁ、話はうまく進んでいるみたいだし、ハクさんがその気になってくれれば良いのかな?
「まぁ、観客が入院中の子供だけに限定されるわけではないけどね。主旨に反しない、素敵なコンサートになると思うよ」
「ふーん、そうなんだ。でも、アタシ達の歌で楽しめるのかしら?」
1番の問題はそこなんだけどね。
でも、それは私達が頑張るしかないんよ。みんなで力を合わせれば、きっど大丈夫。
「楽しめるかどうか、難しいところだね。ま、俺達なりに歌の楽しさを伝えられるよう、頑張るだけさ」
カイト兄さんも同じ意見らしく、前向き。
今ここで悩んでも結論は出ないし、それならやれるだけのことをやる方が良いと思う。
「ふーん、そういうことならアタシは賛成だね。ちょっと予定は苦しいかもしれないけど、なんとか出来るでしょ」
「まだ、賛成してくれてなかったんだ。メーちゃん、意外に厳しいね」
家族のみんなに協力のお願いはしてあったけれど、市民コンサートへの参加自体は初めて話す。
前もって話しておこうかなと思ったけど、なんだか卑怯な気がしたから止めた。
「ま、今回はみんなの予定を合わせてもらう必要があるからね。急がせて申し訳ないんだが、反対意見・質問等があればここで言って欲しい」
参加の締め切りは明後日。実のところ、あんまりのんびりしている暇はないんだよね。
急がないと間に合わなくなっちゃうよ。
「メイコ姉さんが賛成と言うのは分かりましたが、事務としては費用面が気になりますね」
あはは……いきなりシビアな質問がきちゃったね。
カイト兄さん、そこらへんは考えているのかな?
「出来れば別の質問が良かったんだけどね……まぁ、良いか。ルカには色々と迷惑もかけているし」
ハクさんと、ルカさん。気づいた時には、この2人で費用の管理をしてくれていた。
申し込みとか、会場での手配は私でもやるけど、お金のことはよく分からない。見ているだけで、頭が痛くなっちゃう。
「残念ながら今回のコンサートはボランティアさ。代わりに、会場代や参加費は必要ないけどね」
地域の福祉活動っていうのかな?
それに当てはまるから、お金はもらえないって聞いていたけど。別に良いと思うんだけどな。
「まぁ、主旨を考えれば当然なんだけどさ。財政状況は厳しいかな?」
私とカイト兄さん。出たい、歌いたいって気持ちはあるけれど……うーん、そこら辺も考えないといけないのかな?
嫌だ嫌だで通せるほど、世の中甘くないもんね。少しでも手伝わないと。
「いえ、問題ありません。カイトさんが金銭を得るつもりであれば、頭を冷やしていただこうと考えていただけですから」
「あはは……流石の俺もそんなことを考えちゃいないよ」
ルカさん、すっかり怖いお姉さん系になっちゃった。
もう慣れたつもりだったけど、メガネをかけると性格がキツくなっちゃうんだよね。
「ルカさんは終わりだよね? なら、リンから質問」
打って変わって、こちらは元気なお嬢さん。
「もう、歌う曲は決まったの? どんな曲?」
「あぁ、そのことか。大丈夫、曲は決めてあるよ。ただ、みんな歌ったことがないから、ちょっと大変だけどね」
あー、歌う曲かぁ。
うーん、何を歌うかはよく知っているんだけどなぁ。やっぱり、恥ずかしいよ。
「なんと、今回の作詞はミクさ」
「えっ? ミク姉さんて、作詞なんて出来たの?」
「ちょっとだけね……あんまり上手じゃないから、笑わないで欲しいな」
実は選曲にも少しだけ仕掛けがしてある。
ごく普通に練習を始めた場合、影で努力していたとはいえ、ハクさんはみんなについてこれなくなってしまう。
そうなってしまったら意味がない。
家族みんなで、歌うからこそ、市民コンサートに出る意味があるのだから。
「そして、もう1個驚くネタがあるのさ」
だから、ハクさんが慣れている曲で、みんなが挑戦できる歌。
それを選んだんだよ。
「作曲はハクだ」
「……私ですか?」
「あぁ、作詞は初音ミク、作曲は弱音ハクだ」
急な展開でついていけないハクさん。
ごめんね。本当はゆっくりと事情を説明するべきなんだけど、恥ずかしいから私には説明出来ないよ。
「そうだよな、ミク?」
「そ、そうなの。ハクさんが歌っていたから良いかなーって」
カイト兄さんの意地悪。
どうして、こんな時だけ私にふるの?
「この歌はミクとハクの合作になっている。市民コンサートで歌う曲として、これ以上のベストはないだろ?」
「にわかに信じがたいですが、事実なのでしょう。作詞がミクさんというところに、一抹の不安を感じないこともありませんが」
あはは……ルカさんは厳しいなぁ。
それにしても、良い感じに家族がまとまってきたね。
ハクさん以外のみんなは、賛成してくれているみたいだし。
「さて、反対意見がなければ家族全員で参加するということで良いかな?」
「何か意見がる人は今の内よ。申し込んだら、辞退出来ないからね」
みんなの目の前で書類に記入するカイト兄さん。
反対意見。出なければ良いのかもしれないけど、現実的には難しいよね。
「あ、あの……やっぱり、私は辞退するべきではないでしょうか? 殆ど歌ったことがありませんし、みなさんのご迷惑になるかもしれませんので……」
どこまでいっても、遠慮する。引っ込み思案は、この先も治ることはないのだろう。
でも、それがハクさんの良いところだから。
私達家族が、フォローするよ。
「ねぇ、ハクさん」
「な、なんでしょうか?」
そんなに怯えなくても大丈夫だよ。
ずっと練習してたよね。私が作ったつたない歌を、ずっと歌ってくれてたんだよね。
私、嬉しかった。
自分自身ですら忘れそうだった、そんな思い出を覚えてくれていたから。
家事で忙しいのに、殆ど自由になる時間なんてないはずなのに――
だから、今度は私に手伝わせて。
ハクさんの夢を叶える為の舞台を、私達に用意させて。
「私はハクさんと一緒に歌いたいな。そして、私達の歌で元気をあげたいの」
他の家族達も一様に同意、お願いをしてくる。
一緒に歌いたい、みんなの気持ち届いてるかな?
「だから、ね。一緒に歌おうよ」
音がちょっとぐらい外れても良い。気持ちを届けるんだ。
歌詞を間違えても良い。想いを届けるんだ。
「ありがとうございます。まさか、みなさんにそう言っていただけるなんて――もしかして、これは夢ですか? そうなんですね。ワタシなんかが誘われるわけないんです」
あー、もう、ここまでくると病気みたいだよ。
えーい、少しは私の気持ちに気づいてよ!
「あの、ミクさん。何を?」
「夢かどうか確かめてみたの」
聞き分けのない子にはお仕置きだよ。
ほっぺたをつねっちゃうんだから。
ぎゅーって、ぎゅーってつねっちゃうんだから。
「……痛いです。とても、痛いです」
私にほっぺたをつねられたまま、ボロボロと泣き出すハクさん。
もー、どうして泣くのかな?
「これから大変だと思います。それでも頑張って下さい。くじけそうな時は、私が、私達家族が支えますから」
私達は歌という手段を持っている。
誰かの心に感動を響かせることができるの。
その感動を、誰かに伝える感動をハクさんにも知って欲しい。
「……分かりました。お邪魔にならないよう、頑張ります」
「よし、なら決定だな」
カイト兄さんの明るい声。それでこの話は決まりだね。
それにしても、やっぱりそうなんだ。
こんな時でも、ハクさんは半分困ったような笑顔を浮かべていた――







翌日から開始された、市民コンサートへ向けての練習。
そこでも当然のようにトラブルが起きる。
「あ、あの、本当に私が加わってもよろしいのでしょうか?」
昼過ぎの音楽室。
時間もないし、曲もいまいち分かっていない私達は、早速音楽室に集まったんだけど。
ハクさんは、まだごねていた。
「や、やっぱりご迷惑になると思いますので……」
「申込書に名前書いちゃったし、一緒に歌おうよ」
ごねるハクさんに、説得する私達。
ハクさんも意外に強情だなぁ。昨日あれだけ話し合ったのに、もう。
「ハクさんがいないと曲のリズムが分かんないんですよ。ほら、時間もないですし、ね?」
「そ、それはそうかもしれませんが……家事が残っていますので、もうしばらくお待ちいただけませんか?」
むむ、それを言われると弱いよね。
ハクさんに家事を任せ過ぎていたから、どこに何があるかも分からないよ。
「ふっふふ、甘いわねハク。そんなものとっくに片付けたわ」
「え……そ、そうなんですか?」
だけど、私の心配は無用だったみたい。
横から腕を伸ばし、ハクさんを捕まえたメイコ姉さんは得意げな顔だった。
「元々、私とカイト2人で暮らしていたのよ? 何をすれば良いのかは把握してあるわ」
私が訪れる前のこの家。
そこで、カイト兄さんとメイコ姉さんは2人だけで暮らしていた。
今の賑やかさからは、ちょっと想像しにくいよね。
「それに今は人数もいるしね。分担すればすぐに終わるわ。あっ……練習の後で分担表を作るから、協力よろしく♪」
「は、はぁ……」
生返事をしているハクさん。これはこれで貴重な場面だね。
それにしても、昨日から何かやっていると思ったら、コレだったのかな?
私に教えてくれないなんて、ちょっとズルくない?
「こーら、そんな顔しないの。ミクにはハクを連れてきてもらうって、大きな仕事があったからね。こっちはアタシ達でやっておいたっただけよ」
「そうなんだ。流石はメイコ姉さん」
朝からハクさんと2人で歌の修正をしていた。
確かに、私にしか出来ないことだよね。
自分自身にできることを精一杯やる。うん、今までと何も変わりない。
「さぁ、練習を始めよう」
「分かりました……」
そんな感じで、ぐだぐだと練習は進んでいった。





そこからも大変だったなぁ。
練習前まではごねていたハクさん。それなのに、始まった途端に別人みたいになっちゃうから。
リンが途中で脱走しそうな程、遠慮がなかった。
何よりも、とどめはその翌日。
あたりはまだ暗く、朝と呼ぶには少し早い時間。そんな中で不思議な音が響き、私はふと目を覚ます。
誰かが起きているとは考えにくく、泥棒でもはいったのかと慌てちゃったんだけど……犯人はハクさんだった。
気合を入れるために、1人ラジオ体操をしていたらしい。
軽い運動をすれば声は出やすくなる。声がだせるなら、すぐにでも練習に入れる。
やる気を出して、元気になってくれるのは嬉しいしんだけどね。
……昨日は微妙な感じだったのに、変わり過ぎだよ。
結局は触発されて、みんなで体操しちゃったんだけどね。
その勢いで歌詞も変更して、曲も修正することになってしまった。
ちょっと残念だけど、そうなるすることでより良い歌になれるなら、良いことだよね。
歌は私の気持ちを届ける魔法。
歌は人と人の心をつなぐ奇跡。
さぁ、回想はここで終わり。まずは、目の前の子達を元気にしてみせるわ。
これから始まるのは、ヴォカロ一家全員によるフルコーラス。
ふふ、病気なんて吹き飛ばしてあげるんだから。

――この歌声、アナタの胸に届け

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