ここは「魔法少女リリカルなのは」の2次SSをメインとしています。
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らさ
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1986/07/28
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ご報告頂けたら相互させて頂きます。
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yakisoba_pan◇hotmail.co.jp
◇を@に変えて下さい
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恥ずかしいので止めて ^^;
更新なんだZE☆
いやぁ、やれば出来るもんですね
はい、ミク&ハク2話【私達の時間】です。
願いは1つでも、想いは多数存在します
いやぁ、やれば出来るもんですね
はい、ミク&ハク2話【私達の時間】です。
願いは1つでも、想いは多数存在します
どうすれば、ハクさんは歌ってくれるのかな?
どうしたら、私も一緒に歌えるのかな?
「分からないよ……」
目の前で忙しそうに動き回っている彼女見つめ、私はそっとため息をこぼす。
ハクさんと一緒に歌うんだ。そう、意気込んだのは良かったんだけど……。
実際にはどうすれば良いのか、全く分からない。
掃除、洗濯、買い物に料理。
1日の大半を家事につぎ込んでいる今のままでは、練習する時間なんてとれるはずはない。
夢はあるはずなのに、諦めてはいないはずなのに。
私達が邪魔しているのかな。彼女の時間を奪っている。
私が、邪魔してるんだよね。家事を全て、押し付けてしまっているから。
だから、負担を減らせば練習する時間は確保出来る。
けど、ハクさん勘が良いんだもん。私が急に態度を変えたりしたら、気付かれてしまう。
気付いてしまったら、きっと話も聞いてくれないよ。
「それだと、意味ないよ」
私はハクさんに歌って欲しい。歌を聞かせて欲しいから、手伝うのに。
どうにかしないと、どうにかしたいのに――良いアイディアが思い浮かばないよ。
彼女と歌う為の、とっておきのアイデアはどこにあるの?
家事なら手伝えば良い。
花嫁修業とか言えば、断られることはないはず。料理とか出来れば、将来の役に立つし。
他の家族達も協力を申し出てくれているから、彼女に時間を作ってあげること自体は難しくない。
でも、時間を作っても歌ってくれないと意味がない。
楽器を演奏しても、衣装を作っていても、事務仕事をしていても、それだと意味がないよ。
どうにか、彼女に歌ってもらう方法はないだろうか?
一緒に歌おうって誘えば、断られる。私は歌えないって逃げられちゃう。
どうすれば、彼女に歌ってもらえるだろうか?
無理やり歌わせても、意味がない。ハクさん自身が、歌うことを望まないと続かない。
ぐるぐると回る思考。費やされていく無駄な時間。
こんなことしてる時間も、暇もないのに――答えはどこにあるの?
◇
「ミクさん、調子でも悪いのですか?」
「えっ? そ、そんなんじゃないよ」
考えごとをしていた私の耳に飛び込んできたのは、女性の声。
弱々しく自信なさげに震えている声。
「ちょっと、ぼーっとしてただけだから」
そんな声の持ち主、ハクさんに心配されてしまった。
まさか、あなたに歌ってもらう為にはどうすれば良いか考えていました。なんて、素直に答えられるはずがない。
「昨日のコンサートで疲れたのではないですか? あまり、無理をなさってはいけませんよ」
「あはは……そんなんじゃないんだけどさ」
あんまり追求しないでー。答えられないんだから、困っちゃうよ。
それに、昨日のコンサートは大きかったしお客さんだって多かったけど、あれだけで疲れるほどヤワではない。
生意気を言うなって怒られちゃいそうだけど、私だってプロだよ?
リンやレンだって頑張っているんだし、へばってなんかいられない。
「そうですか? それならば良いんですけど……」
「ハクさんが心配性なだけだよ。私は強いんだから」
ホント、他人の変化には敏感なんだから。
その気遣いを少しで良いから自分自身に回して欲しい。
自分自身に回して、そのまま練習してくれれば良いんだけど……。
どうやって練習してもらうかこそが、問題よね。
「昨日、ちょっとドジちゃってさ。どうやって克服しようか考えていただけだよ」
かといって、折角心配してくれたし、ちょっとだけ相談。
ドジったのは本当だし、こっちはこっちで解決しないといけない。
ラスト1曲。みんなでの合唱。1番の見せ場だったのに。
多分、気付いたのはウチの家族でも少数だと思うけど……音の延びが悪かった。
ハクさんに練習してもらう前に、私自身がやらないとね。説得力ないよ。
「そう、ですか……」
「そんな落ち込まないでよ。失敗したのは私なんだから、ハクさんは何も悪くないんだし……」
落ち込まれても困るよ。
昨日だって、ハクさんは全面的にバックアップして送り出してくれたのに、私が失敗したんだから。
繰り返さない為には、練習を重ねるしかない。練習で出来たことは、本番でも出来るはずなんだから。
けど、合唱の練習なんて1人じゃ無理。
誰かに頼むには、昨日の失敗を話さなきゃいけないし。そんなの恥ずかしくて言えないよ。
カイト兄さんとか気づいていそうな人なら――そっか、そうすれば良いんだね。
「あの、ハクさん。お願いがあるんですけど」
多分、お願いできる人で最適なのは彼女。
そして、このやり方ならもしかして……。
「はい。私でお手伝い出来ることでしたら」
「その、これはハクさんにしかお願い出来ないんです」
押しに弱いハクさん。
けど、歌うことだけは拒否され続けてきた。
どんなに頼んでも、どんなにお願いしても良い返事は貰えなかった。
「私にしか、お願い出来ないですか?」
「はい、やっぱりハクさんに指導して頂くのが1番なんです」
だから、今回はやり方を変えてみる。
歌って欲しいとお願いするのではなく、歌わなきゃいけない状態にする。
通常の指導であれば、発声とノビ、感情表現について教わるだけ。
演奏して貰い、指導を貰うだけ。
でも、今回はそれだけで終わっちゃ意味がないの。
「……分かりました。でも、頑張りすぎないで下さいね」
いつも通りの笑み。
困ったような、遠慮をしているような、相手を気遣った笑顔。
その笑顔で見つめられていると、ちょっとだけ心が痛かった。
◇
「らー、らー、らー」
お腹の底から声を出す。体全体で表現する。
小細工に頼るのではなく、歌として習得していく。
ハクさんの指導は必ず基本的なところから始まる。のんびり、ゆっくりと進行していく。
ちゃんと聞いてくれて、上達するように指導してもらえる。
自分1人で努力するのも必要かなって思うけど、やっぱり誰かと一緒に頑張れるのは楽しい。
「その調子で、最後まで力を抜かないように」
相手に届くように、相手の心まで届くように。
繊細に、ダイナミックに、感情的に歌い上げる。
「ん~、もうちょっと声量を上げてみましょうか」
「はい、ハクさん」
ただの発声練習。されど発声練習。
たかがなんて思っているうちは、上手になれない。誰の心にも届かない。
何事も積み重ねが大切なんだ。急に上手くなることなんかないし、例え上手くなったとしても続くはずがない。
「……違います。声を大きくしただけでは意味がありません。もっと心を込めて、あなたの伝えたいことを思い浮かべて」
「は、はい」
指導をして貰っていてなんだけど、日頃とは比べ物にならないぐらい厳しいよね。
ちょっとしたミスも見逃してくれないし、要求されることだってシビアだ。
「はい、そのままの調子で続けて下さい」
その分だけ上手になれる。その分だけ、力になっているのが分かる。
もっと上の世界を、目指すことが出来る。
そして、今回の練習なら――
「ところで、今日は失敗した曲の練習ですか?」
こうなるのは当然だよね。その為にお願いしているんだし。
そうでなければ、彼女任頼む意味がない。
「そうなんです。昨日失敗した、曲をもっと上手く歌えるようになりたいんです」
「良い心掛けです。私も全力でお手伝いします」
全力で。今、全力で手伝ってくれるって言ったよね?
そのセリフを待っていたんだ。
「その、ですね。最後に歌った合唱なんですけど……」
「が、合唱ですか?」
予想通り、うろたえているハクさん。
今まで、発声方法は教えてくれた。
でも、歌ってはくれなかった。
感情の込め方だって、ビブラードも教えてくれた。
でも、歌ってくれたことはない。
だけど、合唱の練習なら――一緒に歌うしかないよね?
「ダメですか?」
「そ、その、合唱ということは、私も歌うんですよね?」
「は、はい。是非一緒に歌って、教えて欲しいんですけど……」
予想通りというべきか、ハクさんは途端に逃げ腰になる。
そんなに辛そうな顔をされると、私の胸がチクチク痛むんだけど、ここは我慢。
彼女に歌って欲しいのも、彼女と一緒に歌いたいのも、私の我侭だから。
勿論、最後にはハクさんの夢が叶うと信じてのことだけどね。
「その、誰か別の方ではダメですか? 私なんかよりカイトさん達の方が、お上手ですし」
「それは意味がないんです」
「う、歌うなら私では役不足だと思います」
やんわりと、それでいてしっかりと逃げるハクさん。
ここで諦めちゃダメだ。考えろ、考えるんだ。
彼女でなければならない理由を。
彼女である、弱音ハクに指導して欲しい理由を!
「……カイト兄さんやメイコ姉さんは、歌手としては一流です。私なんかよりも経験豊富だし、教わることは沢山あります」
「そ、それなら、お呼びしてきましょうか?」
私なんかと比べるのが嫌になるぐらい、2人は経験を積んでいる。
私達の前身がいたのよなんて、メイコ姉さんは言っていたけど。それでも凄いことだと、尊敬している。
ヴォーカロイドの名前が売れていない頃から、ずっと歌い続けているんだもん。
「でも、今回は違うんです」
尊敬はしているし、教わることは沢山ある。
それでもカイト兄さん達に指導してもらっては意味がない。
全く意味がないって訳でもないけど、それだとハクさんに歌ってもらえない。私自身の成長も少ない。
「私が失敗したのは音の延びと、みんなとの調和なんです」
音の延びは自分自身でもどうにかなる。
基礎練習を積み重ねれば、ちょっとずつだけど改善できる。
でも、調和は1人では分からない。1人で練習してても、分かるはずがない。
「自分のパートだけを主張しちゃって、合唱というものの楽しさ、意味を忘れかけているのかもしれません」
そして、カイト兄さんは多分合わせてくれる。
失敗して落ち込んでいる私を傷つけないようにって、合わせようとするはず。
でもね、今回はその優しさはいらないの。
辛くても、痛くても、私は上を目指したいから。
「ただ、私が下手なだけかもしれませんが……」
下手なだけ、そうかもしれない。
それでも、かまわない。上手になるまで、上達するまで練習を続ければ良いんだ。
「だから、今回は歌手としてではなく、合唱に参加する者として指導を頂きたいんです」
ハクさんなら、指導してくれている時のハクさんなら、大丈夫。
遠慮も、容赦も全部なくなってしまい、とても厳しいけど、今の私にはそれが必要なの。
飴を与えてくれる人ではなく、鞭で叩いてくれる人が必要なの。
勿論、この鞭は私だけではなく、彼女にだって響くだろう。
「ハクさんが歌うのを苦手とされているのは、よく知っているつもりです」
それが分かっているから無理強いは出来ない。するわけにはいかない。
私はあの場にいた者として、お願いはしても強制するような真似は出来ない。
「でも、お願いです。私と一緒に歌って、私を指導して頂けませんか?」
「その……私が、ですか?」
私の歌の練習と、ハクさんが歌うチャンスを作る。そんな一石二鳥のアイディアだと思うんだけどな。
それに、彼女と歌いたいと、私の心が叫んでいるから。
「お願いします! どうしても、ハクさんに指導して頂きたいんです」
ハクさんは押しに弱い。
そして、何よりもお願いに弱いんだ。
それを知っててお願いするのは、ちょっとズルいかもしれないけど、許して下さい。
「……仕方ないですね。ミクさんの練習にお付き合いしているのですから。ここで降りてしまっては、私がこの家にいる意味がありませんから」
やったぁ♪
ちょっと引っかかる部分もあったけど、これで彼女の歌声を聴くことが出来る。一緒に歌えるんだ。
そのまま指導を続けていれば誰かが来るだろう。
そこで協力してもらえば、継続的に練習してもらうことだって不可能じゃないはず。
「下手で申し訳ないですが、ご一緒させて頂きます」
「よ、よろしくお願いします」
ハクさんの困った顔とは対照的に、心の中でガッツポーズを作る私。
ずーっと考えていた甲斐があったね。
こんなにも早く叶うなんて思ってもみなかったし、私は浮かれていた。
合唱の練習という名目ではあるけれど、ハクさんと歌える事実に浮かれ過ぎていた。
そう、だから、忘れていたんだ。
ここは音楽室であり、家族が日常的に使っている部屋であることを――。
「あ、いたいた。ミクー、ちょっと良いかい?」
これから、あとちょっと、もう少し。
ハクさんに伴奏をつけてもらい、歌う一歩手前まで来ていたというのに!
「……何か御用ですか?」
どうして邪魔するの?
今この状態を見て、私達が何をしようとしているのか分からないの?
「うん、ちょっと用事があってね、悪いけどミクを借りていくよ?」
分かってないのね? そうなんでしょ!
それに、借りて行くよ、じゃないわよ!
「あ……ご用事でしたら、ご一緒にどうぞ。私はお掃除に戻らせていただきます」
どうして邪魔するの?
ねぇ、私何か悪いことした?
「悪いね。じゃぁ、いこっか」
うぅぅ……カイト兄さんのバカ。
◇
「もー! あと少しだったのに、どうして邪魔したの?」
「ごめんよ。まさか、そんなことになっているなんて思わなかったから」
あと少しで歌ってもらえたのに、邪魔をした。
その上、用件が次のステージで着る衣装決めだなんて……全く、もう!
そんなの後でも良いでしょ?
「いや、あのハクが歌う気になっていたなんて思わなくて」
「どーして、後少し待ってくれなかったの? そうすればうまく行っていたのに」
カイト兄さんをあてにしていたんだよ?
あの状態を見れば協力してくれるって、誰よりも分かってくれるって。
それなのに、カイト兄さんなら空気を読んでくれると思っていたのに。
「いや、本当にごめん。俺が悪かったよ」
「……そこまでしなくても良いよ。悪気があった訳じゃないんでしょ?」
流石に土下座までされたら、頭が冷えるよ。
カイト兄さんだって、悪気があったわけじゃないんだし。
「それは当然だけどさ。惜しいことをした」
ハクさんに歌って貰う。
それは、カイト兄さんだって、メイコ姉さんだって望んでいるはずの。
もー、他の家族なら、放っておいても歌いだすのになぁ。難しいよ。
「それにしてもハクを歌う気にさせるとは、ミクもやるなぁ」
「べ、別にそんなんじゃないよ。私がただ聞いてみたかっただけだから……」
前にちょっとだけ聞いた歌。ギターを弾きながらつむがれた歌。
誰にも聞かれることなく、消えるはずだったそんな歌。
でも、私達は聞いてしまった。その歌の存在、意味に気付けた。
静かで、盛り上がることもないけれど、優しく仕上げられた曲。
傍にいて、見守ってくれるような柔らかい歌に仕上げてくれた、彼女の想い。
勘違いかもしれない。
でも、彼女が歌っていたのはなぜ?
彼女が楽しそうに見えたのはなぜ?
「よし、そういうことなら俺に考えがある」
「……どうするの?」
いけない、いけない。今はカイト兄さんと話してるんだったっけ?
私が書いた詩を歌ってくれているハクさん。
以前に見た姿を思い出していたら、すっかり忘れそうになってたよ。
「ハクに歌の練習をするように仕向けるんだ。強制でも、お願いでもなく、必然的にね」
カイト兄さんは何を思いついたのだろう?
現状を打開する案だと嬉しいけどなぁ。
「時期的にも丁度良い筈だし、どうにかなると思うよ。えーと、アレはどこにいったかなぁ?」
あっちを探し、こっちを探し、ごそごそと引き出しを漁るカイト兄さん。
日頃から整理していないから、出てこないんだよ。
「確かここらへんに……あった、あった。これを探してたんだよ」
そう言って、1枚のチラシを見せてくる兄さん。
えーと、市民コンサート開催のお知らせ?
「開催まで期間も短いし、辞退しようかなと思ったんだけどね。今度、開かれる市民コンサートのお知らせだよ」
「それは見れば分かるけど、これがどうハクさんの練習に繋がるの?」
期間としては1ヶ月程。
確かに余裕はないし、次に控えている仕事を考えると出場するのは難しい。
「本来ならね、こいうったコンサートは俺達みたいなのはお断りなんだけど。今回だけは出場依頼が来ているんだ」
「まぁ、普通は出れないよね」
お金を貰って歌う。まぁ、これでもプロだから。
こういったコンサートからはお断りされちゃう。
そもそも触れ合いとかがテーマになっているはずなので、私達みたいに仕事にしているグループは出場出来ない。
ちょっと寂しいけど、私達を呼んでくれる主催者さん達のプライドを守る為にも、仕方がないんだ。
それなのに、どうして今回だけは依頼がきているのかな?
「今回はね、お客さんとして入院している子供達が招待されているんだ。外で遊ぶことも出来ず、つまらない毎日を過ごしている子供達さ」
そうなるとチャリティーコンサートってことかな?
いや、入院中の子供達自身を招くのなら、ボランティアかな?
「でも、私達の歌って楽しいのかな?」
「まぁ、病室でぼーっとしているよりはマシなんじゃないか?」
入院かぁ。したことはないけれど、暇なんだろうな。
それに楽しいことが少ないなら、塞ぎ込んじゃうだろうし……。
「成る程。だから、ハクさんなのね」
見た目的には心配される側のはずなのに、彼女は困っている人を放っておけないタイプ。
冗談みたいなホントの話で、ハクさんは誰かの為に何かをするのが趣味みたいな人だ。
そんな彼女なら、このコンサートを無視出来ないだろう。
「まぁ、あくまで可能性であって、どうなるかは説得次第だとは思うけどね。他のコンサートなんかより、可能性はあると思うよ?
「流石はカイト兄さん。失敗した分だけは、取り戻すね」
これならいけるかもしれない。
無理にお願いするわけでもなく、自然に練習に加わってもらえるかもしれない。
「当然、彼女にお願いしてあった家事を分担するから、忙しくはなるよ? それでも、良いかい?」
「カイト兄さんの意地悪。断るなんて思ってないくせに、聞くんだから」
「ははは……一応ね。俺の可愛い妹ですから」
ハクさんと一緒に歌う。ハクさんと一緒に歌えるんだ。
その為のなら、家事と仕事の両立なんて簡単よ。
ふっふっふ。みんなが驚くくらい完璧にこなしちゃうんだから、見てなさいよー。
彼女の夢は、家族の夢。
――頑張ろうね、ハクさん。
どうしたら、私も一緒に歌えるのかな?
「分からないよ……」
目の前で忙しそうに動き回っている彼女見つめ、私はそっとため息をこぼす。
ハクさんと一緒に歌うんだ。そう、意気込んだのは良かったんだけど……。
実際にはどうすれば良いのか、全く分からない。
掃除、洗濯、買い物に料理。
1日の大半を家事につぎ込んでいる今のままでは、練習する時間なんてとれるはずはない。
夢はあるはずなのに、諦めてはいないはずなのに。
私達が邪魔しているのかな。彼女の時間を奪っている。
私が、邪魔してるんだよね。家事を全て、押し付けてしまっているから。
だから、負担を減らせば練習する時間は確保出来る。
けど、ハクさん勘が良いんだもん。私が急に態度を変えたりしたら、気付かれてしまう。
気付いてしまったら、きっと話も聞いてくれないよ。
「それだと、意味ないよ」
私はハクさんに歌って欲しい。歌を聞かせて欲しいから、手伝うのに。
どうにかしないと、どうにかしたいのに――良いアイディアが思い浮かばないよ。
彼女と歌う為の、とっておきのアイデアはどこにあるの?
家事なら手伝えば良い。
花嫁修業とか言えば、断られることはないはず。料理とか出来れば、将来の役に立つし。
他の家族達も協力を申し出てくれているから、彼女に時間を作ってあげること自体は難しくない。
でも、時間を作っても歌ってくれないと意味がない。
楽器を演奏しても、衣装を作っていても、事務仕事をしていても、それだと意味がないよ。
どうにか、彼女に歌ってもらう方法はないだろうか?
一緒に歌おうって誘えば、断られる。私は歌えないって逃げられちゃう。
どうすれば、彼女に歌ってもらえるだろうか?
無理やり歌わせても、意味がない。ハクさん自身が、歌うことを望まないと続かない。
ぐるぐると回る思考。費やされていく無駄な時間。
こんなことしてる時間も、暇もないのに――答えはどこにあるの?
◇
「ミクさん、調子でも悪いのですか?」
「えっ? そ、そんなんじゃないよ」
考えごとをしていた私の耳に飛び込んできたのは、女性の声。
弱々しく自信なさげに震えている声。
「ちょっと、ぼーっとしてただけだから」
そんな声の持ち主、ハクさんに心配されてしまった。
まさか、あなたに歌ってもらう為にはどうすれば良いか考えていました。なんて、素直に答えられるはずがない。
「昨日のコンサートで疲れたのではないですか? あまり、無理をなさってはいけませんよ」
「あはは……そんなんじゃないんだけどさ」
あんまり追求しないでー。答えられないんだから、困っちゃうよ。
それに、昨日のコンサートは大きかったしお客さんだって多かったけど、あれだけで疲れるほどヤワではない。
生意気を言うなって怒られちゃいそうだけど、私だってプロだよ?
リンやレンだって頑張っているんだし、へばってなんかいられない。
「そうですか? それならば良いんですけど……」
「ハクさんが心配性なだけだよ。私は強いんだから」
ホント、他人の変化には敏感なんだから。
その気遣いを少しで良いから自分自身に回して欲しい。
自分自身に回して、そのまま練習してくれれば良いんだけど……。
どうやって練習してもらうかこそが、問題よね。
「昨日、ちょっとドジちゃってさ。どうやって克服しようか考えていただけだよ」
かといって、折角心配してくれたし、ちょっとだけ相談。
ドジったのは本当だし、こっちはこっちで解決しないといけない。
ラスト1曲。みんなでの合唱。1番の見せ場だったのに。
多分、気付いたのはウチの家族でも少数だと思うけど……音の延びが悪かった。
ハクさんに練習してもらう前に、私自身がやらないとね。説得力ないよ。
「そう、ですか……」
「そんな落ち込まないでよ。失敗したのは私なんだから、ハクさんは何も悪くないんだし……」
落ち込まれても困るよ。
昨日だって、ハクさんは全面的にバックアップして送り出してくれたのに、私が失敗したんだから。
繰り返さない為には、練習を重ねるしかない。練習で出来たことは、本番でも出来るはずなんだから。
けど、合唱の練習なんて1人じゃ無理。
誰かに頼むには、昨日の失敗を話さなきゃいけないし。そんなの恥ずかしくて言えないよ。
カイト兄さんとか気づいていそうな人なら――そっか、そうすれば良いんだね。
「あの、ハクさん。お願いがあるんですけど」
多分、お願いできる人で最適なのは彼女。
そして、このやり方ならもしかして……。
「はい。私でお手伝い出来ることでしたら」
「その、これはハクさんにしかお願い出来ないんです」
押しに弱いハクさん。
けど、歌うことだけは拒否され続けてきた。
どんなに頼んでも、どんなにお願いしても良い返事は貰えなかった。
「私にしか、お願い出来ないですか?」
「はい、やっぱりハクさんに指導して頂くのが1番なんです」
だから、今回はやり方を変えてみる。
歌って欲しいとお願いするのではなく、歌わなきゃいけない状態にする。
通常の指導であれば、発声とノビ、感情表現について教わるだけ。
演奏して貰い、指導を貰うだけ。
でも、今回はそれだけで終わっちゃ意味がないの。
「……分かりました。でも、頑張りすぎないで下さいね」
いつも通りの笑み。
困ったような、遠慮をしているような、相手を気遣った笑顔。
その笑顔で見つめられていると、ちょっとだけ心が痛かった。
◇
「らー、らー、らー」
お腹の底から声を出す。体全体で表現する。
小細工に頼るのではなく、歌として習得していく。
ハクさんの指導は必ず基本的なところから始まる。のんびり、ゆっくりと進行していく。
ちゃんと聞いてくれて、上達するように指導してもらえる。
自分1人で努力するのも必要かなって思うけど、やっぱり誰かと一緒に頑張れるのは楽しい。
「その調子で、最後まで力を抜かないように」
相手に届くように、相手の心まで届くように。
繊細に、ダイナミックに、感情的に歌い上げる。
「ん~、もうちょっと声量を上げてみましょうか」
「はい、ハクさん」
ただの発声練習。されど発声練習。
たかがなんて思っているうちは、上手になれない。誰の心にも届かない。
何事も積み重ねが大切なんだ。急に上手くなることなんかないし、例え上手くなったとしても続くはずがない。
「……違います。声を大きくしただけでは意味がありません。もっと心を込めて、あなたの伝えたいことを思い浮かべて」
「は、はい」
指導をして貰っていてなんだけど、日頃とは比べ物にならないぐらい厳しいよね。
ちょっとしたミスも見逃してくれないし、要求されることだってシビアだ。
「はい、そのままの調子で続けて下さい」
その分だけ上手になれる。その分だけ、力になっているのが分かる。
もっと上の世界を、目指すことが出来る。
そして、今回の練習なら――
「ところで、今日は失敗した曲の練習ですか?」
こうなるのは当然だよね。その為にお願いしているんだし。
そうでなければ、彼女任頼む意味がない。
「そうなんです。昨日失敗した、曲をもっと上手く歌えるようになりたいんです」
「良い心掛けです。私も全力でお手伝いします」
全力で。今、全力で手伝ってくれるって言ったよね?
そのセリフを待っていたんだ。
「その、ですね。最後に歌った合唱なんですけど……」
「が、合唱ですか?」
予想通り、うろたえているハクさん。
今まで、発声方法は教えてくれた。
でも、歌ってはくれなかった。
感情の込め方だって、ビブラードも教えてくれた。
でも、歌ってくれたことはない。
だけど、合唱の練習なら――一緒に歌うしかないよね?
「ダメですか?」
「そ、その、合唱ということは、私も歌うんですよね?」
「は、はい。是非一緒に歌って、教えて欲しいんですけど……」
予想通りというべきか、ハクさんは途端に逃げ腰になる。
そんなに辛そうな顔をされると、私の胸がチクチク痛むんだけど、ここは我慢。
彼女に歌って欲しいのも、彼女と一緒に歌いたいのも、私の我侭だから。
勿論、最後にはハクさんの夢が叶うと信じてのことだけどね。
「その、誰か別の方ではダメですか? 私なんかよりカイトさん達の方が、お上手ですし」
「それは意味がないんです」
「う、歌うなら私では役不足だと思います」
やんわりと、それでいてしっかりと逃げるハクさん。
ここで諦めちゃダメだ。考えろ、考えるんだ。
彼女でなければならない理由を。
彼女である、弱音ハクに指導して欲しい理由を!
「……カイト兄さんやメイコ姉さんは、歌手としては一流です。私なんかよりも経験豊富だし、教わることは沢山あります」
「そ、それなら、お呼びしてきましょうか?」
私なんかと比べるのが嫌になるぐらい、2人は経験を積んでいる。
私達の前身がいたのよなんて、メイコ姉さんは言っていたけど。それでも凄いことだと、尊敬している。
ヴォーカロイドの名前が売れていない頃から、ずっと歌い続けているんだもん。
「でも、今回は違うんです」
尊敬はしているし、教わることは沢山ある。
それでもカイト兄さん達に指導してもらっては意味がない。
全く意味がないって訳でもないけど、それだとハクさんに歌ってもらえない。私自身の成長も少ない。
「私が失敗したのは音の延びと、みんなとの調和なんです」
音の延びは自分自身でもどうにかなる。
基礎練習を積み重ねれば、ちょっとずつだけど改善できる。
でも、調和は1人では分からない。1人で練習してても、分かるはずがない。
「自分のパートだけを主張しちゃって、合唱というものの楽しさ、意味を忘れかけているのかもしれません」
そして、カイト兄さんは多分合わせてくれる。
失敗して落ち込んでいる私を傷つけないようにって、合わせようとするはず。
でもね、今回はその優しさはいらないの。
辛くても、痛くても、私は上を目指したいから。
「ただ、私が下手なだけかもしれませんが……」
下手なだけ、そうかもしれない。
それでも、かまわない。上手になるまで、上達するまで練習を続ければ良いんだ。
「だから、今回は歌手としてではなく、合唱に参加する者として指導を頂きたいんです」
ハクさんなら、指導してくれている時のハクさんなら、大丈夫。
遠慮も、容赦も全部なくなってしまい、とても厳しいけど、今の私にはそれが必要なの。
飴を与えてくれる人ではなく、鞭で叩いてくれる人が必要なの。
勿論、この鞭は私だけではなく、彼女にだって響くだろう。
「ハクさんが歌うのを苦手とされているのは、よく知っているつもりです」
それが分かっているから無理強いは出来ない。するわけにはいかない。
私はあの場にいた者として、お願いはしても強制するような真似は出来ない。
「でも、お願いです。私と一緒に歌って、私を指導して頂けませんか?」
「その……私が、ですか?」
私の歌の練習と、ハクさんが歌うチャンスを作る。そんな一石二鳥のアイディアだと思うんだけどな。
それに、彼女と歌いたいと、私の心が叫んでいるから。
「お願いします! どうしても、ハクさんに指導して頂きたいんです」
ハクさんは押しに弱い。
そして、何よりもお願いに弱いんだ。
それを知っててお願いするのは、ちょっとズルいかもしれないけど、許して下さい。
「……仕方ないですね。ミクさんの練習にお付き合いしているのですから。ここで降りてしまっては、私がこの家にいる意味がありませんから」
やったぁ♪
ちょっと引っかかる部分もあったけど、これで彼女の歌声を聴くことが出来る。一緒に歌えるんだ。
そのまま指導を続けていれば誰かが来るだろう。
そこで協力してもらえば、継続的に練習してもらうことだって不可能じゃないはず。
「下手で申し訳ないですが、ご一緒させて頂きます」
「よ、よろしくお願いします」
ハクさんの困った顔とは対照的に、心の中でガッツポーズを作る私。
ずーっと考えていた甲斐があったね。
こんなにも早く叶うなんて思ってもみなかったし、私は浮かれていた。
合唱の練習という名目ではあるけれど、ハクさんと歌える事実に浮かれ過ぎていた。
そう、だから、忘れていたんだ。
ここは音楽室であり、家族が日常的に使っている部屋であることを――。
「あ、いたいた。ミクー、ちょっと良いかい?」
これから、あとちょっと、もう少し。
ハクさんに伴奏をつけてもらい、歌う一歩手前まで来ていたというのに!
「……何か御用ですか?」
どうして邪魔するの?
今この状態を見て、私達が何をしようとしているのか分からないの?
「うん、ちょっと用事があってね、悪いけどミクを借りていくよ?」
分かってないのね? そうなんでしょ!
それに、借りて行くよ、じゃないわよ!
「あ……ご用事でしたら、ご一緒にどうぞ。私はお掃除に戻らせていただきます」
どうして邪魔するの?
ねぇ、私何か悪いことした?
「悪いね。じゃぁ、いこっか」
うぅぅ……カイト兄さんのバカ。
◇
「もー! あと少しだったのに、どうして邪魔したの?」
「ごめんよ。まさか、そんなことになっているなんて思わなかったから」
あと少しで歌ってもらえたのに、邪魔をした。
その上、用件が次のステージで着る衣装決めだなんて……全く、もう!
そんなの後でも良いでしょ?
「いや、あのハクが歌う気になっていたなんて思わなくて」
「どーして、後少し待ってくれなかったの? そうすればうまく行っていたのに」
カイト兄さんをあてにしていたんだよ?
あの状態を見れば協力してくれるって、誰よりも分かってくれるって。
それなのに、カイト兄さんなら空気を読んでくれると思っていたのに。
「いや、本当にごめん。俺が悪かったよ」
「……そこまでしなくても良いよ。悪気があった訳じゃないんでしょ?」
流石に土下座までされたら、頭が冷えるよ。
カイト兄さんだって、悪気があったわけじゃないんだし。
「それは当然だけどさ。惜しいことをした」
ハクさんに歌って貰う。
それは、カイト兄さんだって、メイコ姉さんだって望んでいるはずの。
もー、他の家族なら、放っておいても歌いだすのになぁ。難しいよ。
「それにしてもハクを歌う気にさせるとは、ミクもやるなぁ」
「べ、別にそんなんじゃないよ。私がただ聞いてみたかっただけだから……」
前にちょっとだけ聞いた歌。ギターを弾きながらつむがれた歌。
誰にも聞かれることなく、消えるはずだったそんな歌。
でも、私達は聞いてしまった。その歌の存在、意味に気付けた。
静かで、盛り上がることもないけれど、優しく仕上げられた曲。
傍にいて、見守ってくれるような柔らかい歌に仕上げてくれた、彼女の想い。
勘違いかもしれない。
でも、彼女が歌っていたのはなぜ?
彼女が楽しそうに見えたのはなぜ?
「よし、そういうことなら俺に考えがある」
「……どうするの?」
いけない、いけない。今はカイト兄さんと話してるんだったっけ?
私が書いた詩を歌ってくれているハクさん。
以前に見た姿を思い出していたら、すっかり忘れそうになってたよ。
「ハクに歌の練習をするように仕向けるんだ。強制でも、お願いでもなく、必然的にね」
カイト兄さんは何を思いついたのだろう?
現状を打開する案だと嬉しいけどなぁ。
「時期的にも丁度良い筈だし、どうにかなると思うよ。えーと、アレはどこにいったかなぁ?」
あっちを探し、こっちを探し、ごそごそと引き出しを漁るカイト兄さん。
日頃から整理していないから、出てこないんだよ。
「確かここらへんに……あった、あった。これを探してたんだよ」
そう言って、1枚のチラシを見せてくる兄さん。
えーと、市民コンサート開催のお知らせ?
「開催まで期間も短いし、辞退しようかなと思ったんだけどね。今度、開かれる市民コンサートのお知らせだよ」
「それは見れば分かるけど、これがどうハクさんの練習に繋がるの?」
期間としては1ヶ月程。
確かに余裕はないし、次に控えている仕事を考えると出場するのは難しい。
「本来ならね、こいうったコンサートは俺達みたいなのはお断りなんだけど。今回だけは出場依頼が来ているんだ」
「まぁ、普通は出れないよね」
お金を貰って歌う。まぁ、これでもプロだから。
こういったコンサートからはお断りされちゃう。
そもそも触れ合いとかがテーマになっているはずなので、私達みたいに仕事にしているグループは出場出来ない。
ちょっと寂しいけど、私達を呼んでくれる主催者さん達のプライドを守る為にも、仕方がないんだ。
それなのに、どうして今回だけは依頼がきているのかな?
「今回はね、お客さんとして入院している子供達が招待されているんだ。外で遊ぶことも出来ず、つまらない毎日を過ごしている子供達さ」
そうなるとチャリティーコンサートってことかな?
いや、入院中の子供達自身を招くのなら、ボランティアかな?
「でも、私達の歌って楽しいのかな?」
「まぁ、病室でぼーっとしているよりはマシなんじゃないか?」
入院かぁ。したことはないけれど、暇なんだろうな。
それに楽しいことが少ないなら、塞ぎ込んじゃうだろうし……。
「成る程。だから、ハクさんなのね」
見た目的には心配される側のはずなのに、彼女は困っている人を放っておけないタイプ。
冗談みたいなホントの話で、ハクさんは誰かの為に何かをするのが趣味みたいな人だ。
そんな彼女なら、このコンサートを無視出来ないだろう。
「まぁ、あくまで可能性であって、どうなるかは説得次第だとは思うけどね。他のコンサートなんかより、可能性はあると思うよ?
「流石はカイト兄さん。失敗した分だけは、取り戻すね」
これならいけるかもしれない。
無理にお願いするわけでもなく、自然に練習に加わってもらえるかもしれない。
「当然、彼女にお願いしてあった家事を分担するから、忙しくはなるよ? それでも、良いかい?」
「カイト兄さんの意地悪。断るなんて思ってないくせに、聞くんだから」
「ははは……一応ね。俺の可愛い妹ですから」
ハクさんと一緒に歌う。ハクさんと一緒に歌えるんだ。
その為のなら、家事と仕事の両立なんて簡単よ。
ふっふっふ。みんなが驚くくらい完璧にこなしちゃうんだから、見てなさいよー。
彼女の夢は、家族の夢。
――頑張ろうね、ハクさん。
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