【艦これ】温室のバラ【ちとちよ】

幸せが見えたくらいになりましたので、こんにちは

・ｗ・）　なんとか幸せになってくれそうだよっ

６話くらいまで進めないと、片鱗も見えないという、個人的に珍しい展開になってしまいましたが
まぁ、いいでしょう。笑える未来を目指せるならOKってことしにしましょう

一度にUPすると読み辛いって、クレームもらいました
定期日時とか決まってなくて、申し訳ありません
３話分ほどあるんですが、今日は１本にしときますので、許して下さい

　私は気付くのが遅い。気付けたとしても、行動に移す前に、何かに邪魔されてしまう。大体、そんな感じ。

　リードしているつもりだったのに依存して、守っているはずが守られて、私の心と現実は裏表。理想を見ていただけで、なにも残せていない。満足のいく結果になったことなど、何もない。

　ただ、今回だけは諦めるわけにはいかないの。今度は、必ず間に合わせてみせる。

　

　

　　　　　温室のバラ

　

　

　千代田が出て行って、朝日が登り、身体がだるさを訴え始めた頃、私の意識も戻ってきた。正確には意識を飛ばしていたわけでも、眠っていたわけでもないのだから、戻ってきたという表現はおかしいのかもしれない。ただ、動ける状態になかったという意味に絞るのであれば、変わりがないというだけ。

　そう、単純に体を動かせなかっただけ。泣くことを治められず、胸に渦巻く気持ちのままに、感情を発散させた。嗚咽以外が口からこぼれることはなく、震える以外の行動を、身体が拒否していただけのこと。

　おかげですっきりはしたし、自分のやりたいことも分かった。ついでに、千代田の謝罪になにも応えられなかった自分への怒りも貯まって、ちょっとイライラしてる。

　だから、怒りに任せて、追いかけているの。あの子がどうするのか、大体分かってしまうから。傷ついて、罪悪感にまみれている千代田が、何をしようとしているかなんて、手に取るように分かるから。

　それにしても、擬装も着けずに飛び出していくなんて、帰ってきたときにどう言い訳をするのかしら？

　それともまさか、帰ってくる気はないと、私が見つけられないと、本当に思っているの？

　提督だって、他の艦娘だって、私達のことを気に掛けてくれているのに。私が動いていないだけで、とっくに公認の仲になっているのに。もう少し、大人になりなさい。周りを見られる程度に、大人になりなさい。

　そうしてくれれば、私も素直に言えるから。あなたが好きだと伝えられるから。安心して、この身を任せられるから。

「まだ、早いでしょ？」

　恋を実らせることもなく、妹を失うだなんてごめんよ。大切な人を失って、私が平気だとでも思ってるの？ 後を追いかけないって、本当に思ってるの？

　そうだとしたら、買いかぶり過ぎよ。私だって、弱いところあるんだから。千代田がいないと、弱くなったゃうんだから、勝手に離れないでよ。

　傷だけ残して、いなくなるなんて妹のすることではないわ。残していく悲しみなんて、知らなくていいのよ。千代田には、笑顔が一番似合うのだから、ずっと笑って欲しいのに。

「どこにいるの、千代田」

　それにしても、まだ見つからないのかしら？ 鎮守府を飛び出して、そろそろ一時間ほどになるけれど。ここまでくれば、潜水艦も見かけるはずよ？

　誘き寄せて、安全圏内で戦う。そういった指揮の元、一定距離以上には攻め込んでいない。派手な戦果ではなく、着実な守りの布陣。それに異を唱える艦娘がいないわけではないけれど、提督に泣きつかれてしまっては、従うしかない。

　ただ、そういった戦闘指揮だからこそ、鎮守府の担当海域の外は危険。穏やかに見える海ほど、危険が潜んでいる。自沈という道をとれない以上、深海凄艦と遭遇し、轟沈することを選ぶでしょう。

　もちろん、実現させる気なんてないけれど、ここまで見つけられないと不安にもなるわ。心のどこかにある、間に合わなかった時の光景が、目の前に広がってしまいそう。

　軽空母になったとはいえ、擬装は置いてきてるし、さっきまでは夜戦の時間だから、なにも出来ないでしょうし。逃げ回っているだけの空母なんて、余程の操舵技術を持っていない限り、ただの的にしかならない。

「見えない、でも遠くはない。どこかの波間に隠れている？」

　感覚的には遠くはないはずなんだけれど、どこかしら？　お姉ちゃんが見つけるまで、怪我してたりしたら許さないんだから。私達が船の記憶を持っているのは、戦いの為だけではない。経験値を少しでも底上げする為に、誰かを守る為に授かったのも。

　機関を停止させ、周りの音を探る。ソナーなんて積んでないし、電探なんて積んでない。私が頼れるのは、自分の耳と水上機だけ。

　けれど、必ず見つけてみせる。あなたを日常へ連れ帰る。そうしてこその、姉でしょ？ 千代田が好きになった私でしょ？

　波は穏やかで、戦闘が行われている気配はない。大規模な移動も感知出来ない。ただ、千代田を感じることもない。

　どこにいるの？　どこで泣いているの？

　迎えにきたの、一緒に帰りましょう。あなたに伝えなければいけないことがあるの。私の気持ちも知って欲しいの。

『千歳ねぇ』

　ええ、そうよ。呼んでちょうだい。私の大好きな声で、私を虜にしてちょうだい。私の足は、あなたを求めて走り出すから。

　あなたの魅力を伝えて、あなたの想いも伝えて。今度はちゃんと受けとるわ。あなたを独りになんてしないわ。私の腕は、あなたを求めているの。

『ごめんなさい』

　どうして謝るの？ あなたは正しいことをしたわ。自分に素直になって、私に出来ないことも教えてくれたわ。

　愛しいの。今、あなたが愛しいの。すぐにでも抱き締めさせて欲しいの。逃がさないから、私の手を離すのなんて許さないから。

　残される者の悲しみなんて知りたくないし、先に逝く者の哀しみを知って欲しくないから。

『好きなの、どうしようもないの。どうして、千歳ねぇを好きになって、傷つけなきゃいけないの？』

　あなたの心の叫びは届いてるの、あなたの叫びを受け入れられるの。泣かないで、私は傷ついてなんかない。あなたの愛が強くしてくれた。あなたの愛が、諦めないことを教えてくれた。

　もう、隠したりなんてしない。自分の気持ちから逃げたりしない。見つけた時には、嫌になるくらい私の気持ちを教えてあげる。

　千代田が教えてくれて、嬉しいから。私を想ってくれているのが、止まれないくらい大きな気持ちを持ってくれてることが、嬉しいから。

　私の口からも、伝えさせて。あなたの心へと、届けさせて。

　千代田を求めて、あなたの抜くもちを求めて走り出した、この足が運んでくれるから。あなたの元へと、必ず追いつくから。

　ちょっとだけ、待っていて。

――千代田は、私のものなんだから。誰にも譲らない