【艦これ】幕引きは静かに【ちとちよ】

・ｗ・）　需要がないから誰も書いてくれない。
　　　　　だから、私が書くのです。

そんなわけで、ちとちよの続いているほう、３話目です。
カテゴリ的には「恋愛病」とかすると可愛いですよね。実際は　病んでる愛情　なんですが。

千代田さん、暴走しそうに見えるんですよ。個人的に
千歳さん、行動に移しそうにないんですよ。個人的に
だから、ちょっとしたイベントをプレゼントしただけだったんですが

・ｗ・）　どうして、こうなった。一応、幸せな未来見て書いてるのになぁ

　暗く、そこにあるのかさえ定かではない水面。誘うように、引き込むかのように、寄せ返す波。

　昼とは異なった様相を見せるそこは、私の知っている海ではない。穏やかな気持ちで漂えた、優しい海ではない。

　ただ、これほどまでに寂しい場所ならば、眠るには悪くないのでしょう。

　

　

　　　　　幕引きは静かに

　

　

　私は許されない。私は許さない。信頼してくれた姉を裏切り、泣かせ、そして傷つけた自分を。

　私は振り返れない。楽しかった昨日を、笑顔に溢れていた日常を。

　もう、ここで終わりにしよう。私のような不良品は、千歳ねぇの傍にいてはいけないんだ。もっと早く、離れてしまうべきだったの。

　いつまでも隣にいて良いだなんて、努力もせずに信じていた。悩むことさえなく、千歳ねぇの傍にいられるのだと、信じていた。

　その考えこそが間違えだから、現実は今になって目の前に広がっている。私を逃がすこともなく、私を縛ることもなく、ただあるがままに存在し、私の心をゆっくりと潰してく。

　消えたいと願っている私の願いを、静かに叶えようとしてくれる。千歳ねぇを傷つけた、最低の妹を罰してくれる。

　こんなことをしても許されないのに、止まることもできないだなんて、本当に私は駄目な子だったんだね。自分のことも分からないのに、千歳ねぇが振り向いてくれるわけないのよ。甘えていただけなの。

「いつか伝わるなんて、ありえない可能性だけにかけていた。だから、失敗したの」

　想いは伝わる。綺麗な想いなら、伝わるはず。

　そんなふうに妄信していたから、今回みたいなことになったの。奥深くにしまっているだけで、伝えてもいない気持ちを、抑えていたものを全てぶつけてしまった。勝手に暴走して、迷惑をかけて、傷つけて。そのまま飛び出してくるなんて、救いようがないとしか言いようがないわね。

「まだ、いない海域なの？」

　今は戦時中だから、除隊するものも、轟沈するものも珍しくはない。うちの提督が嫌うから、この鎮守府では発生していなかっただけ。もちろん、今回のことだって、千歳ねぇが話さない限りは行方不明扱いで終わるはず。

　あんなことをされて、思い出したくないはずだから、私のことは誰も知らない形になるの。そうすれば、提督の経歴に傷を付けることもなく、多分戦えなくなる千歳ねぇがこれ以上傷つくこともないはず。

　私以外の人と一緒にいる千歳ねぇを想像するのは嫌だけれど、もう痛い思いをしなくても良い筈だから。ごめんね、こんな形でしか終われなかったの。このまま消えてしまうことしか、私には方法がないの。

「ごめんなさい、千歳ねぇ。今まで、ありがとうございました」

　誰にも届かない謝罪。誰にも聞かれることのない感謝。

　これでいいんだ。千歳ねぇに私はふさわしくない、これ以上妹でいることも駄目なんだから。この夜の海で、何も出来ないこの世界で、終わりを迎えよう。海の底まで全てを持っていけば、これ以上嫌われることもないはずだから。

　適当に進んできたけれど、鎮守府から随分と離れてしまったことだけは、何となく分かる。明かりの中にいられないほどに、空の星しか分からないくらいになってきたから――もうすぐ、深海棲艦に見つかってしまうはず。夜戦では役立たずの軽空母だもの、すぐに沈めてくれるに違いないわ。

　普段ならエンジン音にかき消され、聞こえないはずの音が聞こえる気がする。水中を泳ぐ魚に混じって、もっと大きなものが私を見ている。魚雷のスクリューが回転を始め、水面近くまで上昇するのだって、ちゃんと聞こえている。

　海を掻き分け、波を切り裂き、白い糸のようなラインが私へと向かってくる。それが魚雷であり、どれだけの被害をもたらすのか、知らないわけではない。脚にもらえば吹き飛ぶし、おなかに貰えば大穴が開いてしまう。頭部に命中したなら、顔の判別さえ付かないでしょう。

　私だって女の子だし、本当なら顔を傷つけるようなことをしたくはない。ただ、深海棲艦として出現する可能性がある以上、顔を潰しておかないと困るのよね。

　姉を傷つけただけでは飽き足らず、これ以上の迷惑をかけるような真似はしたくないから。魚雷が１本ということはないでしょうから、次の分を顔に受けてしまえば、全てが片付く。

　空母としての千代田も終わり、妹としての千代田も終わる。最後まで、何も残せなかったのは心残りだけれど、仕方ないわよね。

　遠かったはずの線が近くなり、魚雷の先端を視認出来ているような気さえする。のんびり進んでくるように感じられるのは、走馬灯と呼ばれるものせいなのか、それとも怖がっている私が逃げようとしているのか。生きていても仕方がないのに、戻れる場所なんてどこにもないのに、避けてどうするのよ。

　もうスグ訪れる終わりを、邪魔しないで。私はもう、死んでしまいたいの。

　

――夢の中でなら、一緒にいても良いよね？