【艦これ】彼方よりの采配【ちとちよ】

幸せって何でしょう？
正しい恋人の形って、あるんでしょうか？

書いていく内に、好き勝手を始めるウチの娘達。
ある程度話が出来上がると、制御すら難しいのですが、色々と学ばせてくれます

・ｗ・）　とりあえず、可愛いは正義

千歳さんは特にいろんなことを教えてくれる、お姉さんです
けど、甘い物語ではないんですよねー

別の形で、甘ったるいだけの書いてみたいなぁ

　組織を統括する者は必要で、場合によっては２人以上によって治められることもある。

　規律を守ることを優先すれば、組織としての自由度を失い。個人を認めてしまうのならば、統制を執るのが難しくなっていく。そのさじ加減を上手く調整できたものが、名将と呼ばれる。どれだけ高い個人技能を有していても、連携の取れている集団を相手にするのは難しいのだから。

　今日もまた、苦悩する乙女の為に、提督達は走り回る。

　

　

　　　　　　彼方よりの采配

　

　

　千代田による一連の騒ぎは、すぐに鎮守府にいる艦娘達の間に知れ渡ることになり、新たなるカップルが生まれたと静かに祝福された。私達の認識はどうであれ、他のもの達から見れば痴話喧嘩がもつれただけであり、それほど騒ぐような問題ではないのでしょう。

　もっとも、余りにも騒ぎ立てるようであれば、提督とその秘書艦が黙っていないことは、今までの経験で理解しており、そのことが私たちを救ったと言えるのかしら？　後でお礼に伺ったほうが良さそうね。

　手を繋いだまま眠り、いつも通りの幸せそうな顔を晒している妹。今まで以上の関係になったとしても、今までの習慣が途切れるわけではなく、いっそう濃密になるだけ。世界はどこまでも続いていて、果てが見えないところへと進んでいく。

　その一角に、私達の居場所を作れるのであれば、深く考える必要は無いのかもしれないわね。私達に出来ることなんて小さなことでしかないし、私達が望むのも大きなことではない。

　楽園創りのついでに、世界平和を望む提督や、その提督を超えるような理想を掲げる秘書艦がいる限り、どこかにうずもれて、目立たなくなる。私達にとっては大事件だったし、ちょっとだけ寂しいのも事実だけれど、騒がれないのは良いこと。千代田も、明日辺りに思い知るはずよ。この鎮守府のみんながどれだけ温かく、仲間を大切にしているのかを。規律が乱れないのは、みんなが維持しているだけ。居心地の良い場所を守ろうとしているだけなんだって。

　その中で、私達が恋人になるのを、喜んでくれる人が大勢いる。姉妹だからって遠慮しなくて良いの、節度さえ守れるなら、どんな形で愛し合おうとも、誰も邪魔しないわ。

　沢山の愛があふれる場所。恋人に限らなくても、愛情は沢山の形を持っているから。以前の私達のような関係の子も、親友として肩を叩き合う者も、類友として手を繋いだ相手もいる。そんな中でも、少々ゆがんでいるのは理解しているつもり。全てを肯定するのは、甘やかしているだけであり、愛と呼んでいいのかは分からない。甘くて、どろりとして、絡みつくような愛情が、私の持つもの。いつか千代田の足かせになってしまわないかと、少しだけ心配しているのだけれど、今のこの子に相談してもダメね。

　私と同じように、頭の中には花が咲き乱れていて、今までの抑圧から解放された喜びで、満ちてしまっている。そんな状態で相談したとしても、まともな応えにたどり着けるとは思えない。ゆがんでしまっているのなら、これから変えていけば良い。愛の形を固定する必要なんて、どこにもなくて、私達はこれからも進んでいくのだから。千代田と一緒に、幸せを探せばいいだけの話よ。

「ちょっと、行ってくるわね」

　ただ、幸せの為とはいえ、誰かに怒られるのは気が進まない。正直なところ、行きたくはない。

　けれど、逃亡とも言える行為に及び、また無断での武装持ち出し、出撃をしたとあれば、報告の義務を放棄するわけにもいかない。

　ここは姉として、損な役回りを受け持ちましょう。千代田、何かの形で帰してもらうからね。忘れちゃ、いやよ？

　みんなが出払った後の空母寮は静かで、誰かの目を気にする必要性はない。それがありがたくもあり、相談すら出来ない事実は残酷だ。

　まぁ、あの提督のことですから、ひどいことを言われたり、意味もなく怒ったりする可能性は――あるわ。千代田、沈もうとしたんだから、そのことについては怒られそうね。命令を下す側にいるとは思えないほどに、あの提督は優し過ぎるから、秘書艦共々湯気が出るほどに怒るに決まっている。無駄に沈もうとしたことではなく、命が失われそうになったことについて、純粋に怒るでしょう。

　不知火さんだって、最初は随分ととがっていたはずなのに、秘書艦になって暫くしたら随分と丸くなってしまった。もちろん、それが悪いわけではなく、彼女にとっても、他の娘にとっても、良い結果に向かっているのは事実なんだけれど、こういう時に、味方がいないのは正直厳しい。反論できる余地など元々ないし、次がないということを嫌というほど思い知らされる。そんな時間が始まってしまうのね。

　会いたくないと願っている時、先に延ばしてしまいたいと思っている時、そういった時に限って、何事もなく執務室についてしまう。

　扉のところに、千代田の謹慎期間が書かれているのは、面会謝絶ということなのかしら？　傷の具合と、精神状態を考えればありがたい処置ですが、もう少し別の書き方がありますよね？　姉としては、毅然とした態度で抗議しますよ？

　そんなふうに気概を固めてみても、結局のところ怒られるのは変わらないわけで。早く済ませて、千代田のところへ帰ったほうが良さそう。

「どうぞ、千歳さん。お入り下さい」

　ノックをするまでもなく、声がかけられてしまう。気配を読んだとかであれば、流石としか言いようがないのだけれど。提督、そんな技能持っていたかしら？　それとも、不知火さん？

　見た目まんまの武闘派である彼女なら、そういった技能を持っていたとしても、不思議はないのかもしれないわね。

　何にしても、呼ばれてしまった以上、ここで立ち止まっているわけには行かない。入室が遅くなるだけで、相手の心象も悪くなってしまうでしょう。

「お待たせして申し訳ありません。水上機母艦　千歳、出頭しました」

「呼び出したわけではないので、待ってはいません。それに、懲戒の言い渡しでもないので、出頭でもありません」

　細かいところは変わることなく、ついでに表情を変えることもなく、秘書艦である不知火さんが事実だけを告げてくる。

　私がくるまで執務室で提督と２人きりだったのに、恋人と２人きりだったはずなのに、どうして甘い空気が欠片も漂っていないのかしら？　執務時間に関しては、ただの秘書艦として接しているというの？　好きな人の側にいるのに？

　ダメね、私には想像出来ないわ。

「頭を振って妄想を消しているところ申し訳ありませんが、あなたへの改造命令が出ています。問題がなければ、ここにサインをして下さい」

「あら、私はてっきり怒られるものだと思って、ここにきたのよ？　何もお咎めなしなの？」

　こちらへと手渡されるのは、軽空母への改造命令と、指示に従う旨の署名。今の姿になるまでも改造を繰り返してきているし、別に今更ひるむようなものでもない。何より、これで千代田とおそろいに慣れるのかと思うと、ちょっと嬉しかったりもする。

　ただ、喜んだところへと水を差されるのは、歓迎したくない。どうせなら、先に怒られてしまうほうが気が楽。

「千歳さんを攻める必要はどこにもないわ」

「千代田に関する監督責任を逃れるつもりはありません。姉として、罰が与えられるのであれば、受けるつもりです」

　嫌そうに口を開く提督と、事実を受け入れてしまっている私のやり取り。それ自体には意味はなく、そして進展するものもない。確認のために必要だから、口に出したに過ぎないのだから。

　姉という立場である私は、千代田の行動に対しての責任がある。千代田のほうがレベルが上で、ここに着任したのが早かったとしても、私は姉だから。その役目を手放すような、愚かなことはしない。

「繰り返しますが、千歳さんに与える罰則はありません。今日は、改造の通知をするかどうか、それで悩んだだけです」

「改造に関しては、戦力の面から見ても妥当だと思います。ただ、私に懲罰がなく、千代田が責められるというのであれば、サインするわけにはいきません」

　サインをしなかったところで、上層部の決定が変わることはない。意味のない抵抗であることは、軍属である以上理解している。

　ただ、意味はなかったとしても、何もしなかったのであれば、私は自分に失望するから。何も出来ないまま、妹を差し出すようなまねは出来ないわ。

「千代田さんには、謹慎一週間という懲罰が下っています。これ以上のものは必要ないと考えますが、千歳さんは違うのですか？」

「謹慎程度で目を瞑っていただけるのはありがたいですが、今回の内容を考えると軽過ぎます。これで終わりといわれて、信じろというほうが難しいでしょう」

「私の鎮守府で、私の任されている部隊で、これ以上の懲罰は下りません。上層部への報告は問題ありませんし、艦隊の運用としても、問題は出ていません」

　提督がコネを持っているなど、聞いたことはない。いつも楽園のことしか考えていなくて、不知火さんの尻にしかれていて、その状況を喜んでいるような、かなり変わった人でしかない。

　それなのに、これ以上の罰則がくだらないと、そう断言する根拠は何でしょうか？

「安心して下さい。これでいて、上層部へのウケはいい方ですから。艦隊の運用に影響がないのは事実ですから、これ以上騒がれることはないはずです。大人しくしている限り、この件はすぐに忘れられますよ」

「不知火さんがそこまで言うなら、信じましょう」

「え？　私の言葉は信じてもらえてなかったの？　結構、かっこうよく言ったよ？　これぞ提督って感じで、頑張ったよ？　それなのに、決め手は不知火ちゃんなの？」

　この人――提督は、自分が信用されていると思っているのかしら？　可愛い子がいると聞けば、飛んでいき。艦娘が発見されれば、執務室から消え。不知火さんが肩を落としている頻度は、けして低くないというのに。そんな状況で、信じろというのは難しいと思わないのかしら？

「司令なりに、頑張っているのは分かります。しかし、周りの理解を得るのは難しいものです」

「そっか、不知火ちゃんがそう言うなら仕方ないよね」

　手懐けられていることは、２人の関係を見ていれば分かる。けれど、それが信頼関係によるものだと、理解するのは少し難しいかもしれない。

　不知火さんは、提督を信じているから手を抜かない。提督は、不知火さんを信じているから無茶をする。一方的なようで、バランスの取れている関係。

　私と千代田も、いつかこんなふうになれるのかしら？

　夫婦漫才をはじめ、こちらへの興味が薄れた２人を放置し、私は執務室を後にする。話が終わった以上、ここにとどまる理由はないのだから。

　

――私のいるべき場所へ、帰りましょう