【艦これ】不知火ちゃん、出撃する

不知火が可愛いです

・ｗ・）　可愛いは正義だから、いいのです
　　　　　この２人、ノンケの方が楽しいかもしれない

　寄せては返す、波。その流れは全てのものを攫ってしまいそうで、幸せな日々すら壊してしまいそうで、眺めていると寒気がする。

　別に、悪い思い出があるわけではない。大切な人をさらわれた、そんな過去があるわけでもない。

　ただ、この先も今の関係でいられるとは限らないから、何かを奪われないとは限らないから。私は、最大限の警戒をしておくべきでしょう。

　特に提督という、誰かに命令を下す立場である以上、彼女達を失わない為にも、慎重になりすぎて恥じることなど何もない。失ってから気づいたのでは、そこに意味なんて見出せないのだから。

「不知火ちゃん、大丈夫かな？」

　今日送り出している艦隊の中で、とりわけ心配なのが彼女。秘書艦を勤めてくれるし、大きなミスをしたこともない。ただ、真面目過ぎるから、思いつめて大胆な行動に出ないかと、心配しているだけ。

　他人に厳しいが、自分にはそれ以上に厳しい。求めうる理想の姿に近づけるようにと、日々の中で努力しているのを私は知っているから。彼女の苛烈な性格が、命取りになっていなければいいのだけれど。

「大丈夫だと信じたい。また会えると、信じたい」

　他の艦娘が心配でないのかと問われれば、心配だとは答える。私はみんなの面倒を見ているつもりだし、誰一人として失っても良いなんて考えてはいない。誰も傷つくことなく、笑顔で戻ってほしいと願っている。

　不知火ちゃんは、不安要素が多いだけ。他のみんなより、心配することが多いだけ。

　いつもであれば、執務室に引きこもって書類と格闘している時間だというのに――心配のし過ぎで、何も手につかないのだから困ったもの。

　提督としてこの鎮守府に配置されているはずなのに、どうして私は要領が悪いのかしら？　心配はしていても、ちゃんと執務をこなしているべきなのに。こんなことでは、戻ってきた彼女に逆に心配されるかもしれない。ただでさえ迷惑をかけていて、ずっと頼っているというのに、

　もっとしっかりしないと、彼女がその身を任せられるくらいにならないと、提督とは呼べない。

　情けない話ではあるけれど、事実である以上隠しようもない。

「出撃していた艦隊が、帰還しました」

　だから、帰港した彼女達を見つけた途端に、私は走り出してしまった。一応、被害状況の確認もしなければいけないし、場合によってはすぐに入渠の指示をしなければいけないから。

　軍艦といえども、女の子だ。その身体に傷を残すようなこと、私は許さない。戦争を言い訳にして、戦いを言い訳にして、そこに目を瞑るような、ズルい大人にはなりたくない。

　まぁ、みんなに言わせれば、私が１番そこら辺が出来ていないといわれるのだけれど――いえ、これも事実ですね。はい、直すようには努力します。実らないかもしれないけれど、努力します。

「出迎えは必要ありませんと、伝えていたはずですが。このようなところで何をしているのですか？　書類、終わっていないのでしょう？」

「心配で、何も進みませんでした。バツとして、不知火ちゃんは私の仕事を手伝って下さい」

　戻ってきて早々、こちらの心配をする不知火ちゃんは出来るオンナ。そんな彼女にお願いしか出来ない私は、ダメな子なのでしょう。くぅ、年下にしか見えない彼女に頼りっきりだなんて、私情けない。

　現実って、切ないわね。

「秘書艦として、補助することに異論はありませんが。そこまで心配されるのは、心外です。不知火とて、軍艦なのです。この命、散らす覚悟は出来ています」

　覚悟？　覚悟って何？　死んでも良いと、割り切ることなの？　死んでも、任務を果たすという責任感なの？

　そんなもの必要ないわ。私の可愛い子達に、そんな覚悟はいらないわ。

「そんな覚悟、ここにいる間は捨てて下さい。私は、そんな命令出しません」

「司令、戦局がそのようなわがままを、いつまでも許すとお思いですか？　時には犠牲を払う覚悟も必要です」

「犠牲なんて必要ありません。それに、不知火ちゃんに嫌われないのなら、いくらでもわがままになってあげますよ。上層部の指示通りに動いて、大切なあなた達を失いたくはないから、安心して」

　軍属か、確かに間違いはない。ただし、それを言い訳にして考えるのを放棄するようなこと、許したつもりも、教えた覚えもないわ。事実を理由にすれば、自分の心を決められるだなんて、私を誤魔化せるなんて思わないことね。

　私にはなんの力もない。だからこそ、手を伸ばせばやれることまで諦める様な潔さ、持ち合わせた覚えはないわよ？

「安心できる材料が、どこにあるのでしょうか？　私も、司令も軍属なのです。個人の感情より、戦果を重要視すべきではないでしょうか？」

　むぅ、こういったところはどれだけ話し合っても、折り合いがつかないわね。真面目なところと、今の世の中を反映したような台詞だわ。その考え方に、不知火ちゃんなりの誇りが見て取れるのも、こちらとしては辛いところ。

　もっとも、それ自体は良いところだし、私も好きなんだけどね。使命感に突き動かされて、早死にしちゃダメよ？

「何度でも言います。戦果の為に、誰かを犠牲にするような作戦は執りません。私の幸せを崩そうとする、そんな作戦は却下です」

　艦娘は消耗品ではない。自分達のことを、そんなふうに考えて欲しくない。戦争の道具として消費されるようなこと、あってはならない。

　考え方を変えて欲しいとか、言わない。ただ、これだけは理解してもらわないと困るよ。私は、今の生活が気に入っているの。

「……不知火も、他の艦娘も無駄に命を落とそうとは思いません。ただ、司令の為であるならば、散ったとしても惜しくないだけです。あなたで良かったと思えるからこそ、司令の日常を守る為に不知火は死ねるのです」

「そっか、ありがとう。そこまで慕ってくれてるとは、正直なところ思ってもいなかったよ。けど、そんなのは許さないから。綺麗に散って終わろうだなんて、格好良いことさせないよ？　地べたを這いずる様な、情けない姿を晒してでも、生き残ってもらうから。覚悟しといてね」

　生きていてくれるのであれば、どのような状況に陥っても、生きることを諦めないでいてくれるのなら、私がどうにかしてみせる。生きていたいと伝えてくれる、その願いを散らせはしない。

　私は、その為に提督になったはずなんだから。

「軍属の不知火にそのようなこと……いえ、それが命令であれば従います」

「命令じゃないよ。私からの、お願い。私の日常を守る為の、わがままに付き合ってよ」

　命令は、彼女の思考を奪ってしまえるのかもしれない。考えるのを否定して、従わせられるのかもしれない。ただ、それは私のやりたいことではない。出来ることなら、彼女の理解を得た上で、協力して欲しい。

　けれど、遠まわしに言っても彼女には通じない。綺麗ごとばかり言っても、彼女の心には届かない。感情の篭っていない言葉では、彼女の心に触れることすら出来ない。

　これ以上ないほどに、私のダメなところを見せてしまっている彼女。だからこそ、伝えようとする時に、遠慮なんてしない。

　不知火ちゃんが分かってくれるように、この上なく直接的に伝えるよ。

「どこかで刺し違えてないかって、そんな心配させないで。不知火ちゃんに会えなくなるかもしれないって、そんな心配させないでよ。冷たい不安を抱えたままで、待っていることなんて出来ないよ。私が泣き虫なの、不知火ちゃん知っているでしょ？　執務なんて、出来るはずないでしょ？」

「……はぁ。まったく、困った司令ですね。そのようなわがまま、いくら不知火と言えども付き合えませんよ」

　困ったように、呆れたように、彼女は深い息を吐く。うん、これは予想通り。不知火ちゃんは私を分かってくれるけれど、受け入れてくれるわけではない。弱いままでいることを、許してくれるわけではない。

　そんな彼女だからこそ、私は本音で伝えられるし、彼女の言葉を受け入れようと思える。かなりわがままな意見だとは思うけれど、やっぱり信頼できる人が私には必要なんだよ。

「ただ、不知火とて好んで沈みたいわけではありません。刺し違えるような、そのようなことはしないと、ここに誓いましょう」

　彼女の言葉は、その１つ１つに重みがあり、私のような小娘では飲まれてしまいそうになる。それこそが、以前の大戦で散った、駆逐艦　不知火としての誇りなのでしょう。

　けれど、私が求めているのは不知火ちゃんとして生きてくれることであり、沈んでしまった船に追随することではない。

「何より、日常的にそのようなことをしては、疲れてしまいますし。轟沈以外の未来が見えませんからね」

「本当かなぁ、本当に自分を大切にして、その上で戦ってくれてる？」

　結果的に無事であったことを、当然として欲しくはない。傷つかないように、自分を大切にした上で、その結果を引き寄せて欲しい。無事でいること、生きていることを、戦果の付随品のようには見て欲しくない。

　私は提督の立場で促すことは出来るけれど、実際は彼女が意識を持ってくれなければ、何の意味もなさない。

　うーん、やっぱり何かご褒美的なものでやる気を引き出すしかないのかなぁ？

「しつこいですね。今日も、不知火は無傷です。小破すらしていません」

「小破してなくても、怪我はしてるんじゃないの？　どこか痛かったりしない？」

　小破していないなら無傷。その言い訳、昔の軍隊とか、他の提督になら通じるのかもしれない。

　けれど、私はそんなことは望んでいないし、小破未満の傷であれば無傷だなんて考え方を持ち合わせるつもりも無い。

　本当なら、出撃させるのですら控えたいのだけれど――それは、艦娘としての彼女達の存在意義を奪いかねないこと。簡単に口に出すわけにはいかない。日常を守る為には、まず自分自身の発にこそ、気をつけなければいけないのだから。

「避けることも、駆逐艦の戦いの１つです。そんなに簡単に当たったりはしません」

「随分と自身があるのね？　まさか、強がりだったりしないよね？」

　傷ついている時だからこそ、強がって見せる。女の子としてはあまり考えられないことだけれど、不知火ちゃんであれば無いとは言えない。

　彼女は、軍艦として正しくあろうとしているだけなのだから。提督として臆病過ぎる、私の常識の中には納まらない。

　ただ、だからこそ可愛い。その強がっている姿勢が、私を惹きつけてしまう。

「どうして、そこまで心配されるのでしょうか？　分かりました。良いでしょう、今ここで不知火が無傷であることを、司令に証明します」

「どうやって証明するの？」

　そのまま聞き返すのは、ちょっとだけ恥ずかしい。想像出来ないとはいえ、一応上官なんだし、もう少し威厳を保っておきたいんだけどなぁ。今更の話しだし、意味は無いのだろうけれど。気分的なものはあるんだから。

「簡単な話です。ここで脱ぎます。そして、この身体に傷がないことを確認して頂きます」

　そういった彼女は早速スカートを落とし、ブラウスを脱ぎにかかる。外見は幼いと言え、羞恥心というものが少ないであろう彼女ならではの、証明方法かもしれない。確かにこれなら、簡単に分かるのかもしれない。ただ、他の艦娘に見つかってしまった場合、どうやって説明するつもりなのかしら？

　ただ、不知火ちゃんであればやりかねないと、可能性には気づいていたはずなのに。止められなかったことは、悔やんでも良いはず。もっとも、制止したところで聞いてくれるとは限らないけどね。

「不知火ちゃん、あなたの自信は理解できたわ。あなたが自分の戦い方に、誇りを持っていることも理解したわ。だから、スパッツまで脱がなくても大丈夫よ」

「そうですか。ならば、不知火は無傷で生還したということで、よろしいですか？」

　無傷か。どうしても、そこにこだわるのね。言い出したのはこちらだけれど、不知火ちゃんも結構頑固なところがあろよなぁ。

　んー、刺激すると過剰に反応しそうだし、本当ならここでうなずいて流してしまいたい。

　ただ、そうすることは彼女の為になるのかしら？　彼女自身に気づいてもらう為にも、ここは事実を指摘した方がいいんじゃないかしら？

「そうね、問題がない程度の損傷で帰還したと、そう報告を受け取っておくわ」

　どうするべきなのかを悩んでいる間にも、私の口は自然と言葉を発してしまう。

　それには、悪意を込めているつもりは無い。ただ、不知火ちゃんが心配なだけ。ちゃんと、自分の状況を把握して欲しいだけ。

　小さな傷ならいいと、妥協しないことを覚えて欲しいだけ。

　気づいてくれるかどうかは分からないけれど、行動しなければ何も変わらない。嫌われることを恐れて、嫌がられることを恐れて、何もしないのであれば、私は必要ない。

「……どういうことですか？　不知火に、何か落ち度でも？」

「左腕に裂傷、右膝裏に傷痕。小さな傷かもしれないけれど、無傷ではないわ。小破していないといっても、無傷ではないのよ」

　血が滴っているわけではない。明らかに、損傷と呼べるものでもない。指摘しても、平気だと言われるのが関の山でしょう。

　けど、被弾には間違いない。直撃ではなくとも、そこには確かなダメージを受けている。その傷のタイミングがズレていた場合、不知火ちゃんの轟沈につながってしまう。

　油断と慢心にこそ、轟沈の危険性は潜んでいるのだから。傷を負ってしまったことを、普段から意識してもらうことに、意味がある。大丈夫だなんて言葉で、誤魔化して欲しくない。

「その程度、傷の内には入りません」

「だめよ、女の子の身体にこんな大きな傷をつけておいて、私を誤魔化せると思わないことね。今すぐに、入渠することを命じるわ」「作戦行動には支障がありません、これは無傷と同じです」

　作戦行動に支障がない。うん、不知火ちゃんらしい発言だし、軍部としてはその意見に賛成してくれるでしょう。

　ただ、それは不知火ちゃんの意見でしかないことを、忘れてもらってはいけない。私の考え方でないことを、無視されてはいけない。

　提督として、彼女に命令を下したものとして、彼女についた傷の責任は私が背負うべきもの。治るなら良いなんて、そんな考え方を自分に許すことはないよ。

「だめって言ってるでしょ？　私の可愛い不知火ちゃんを傷物にされたのよ？　即刻入渠してもらうわ」

「司令、発言が不適切ですし、過保護なのもいかがかと思います」

「過保護で結構よ。取り返しのつかないことになってから後悔するより、注意されているほうがましだわ」

　過保護のどこが悪いのよ。みんな私の可愛い子達なんですから、過保護になるのは当然でしょ？　一生懸命やってくれる、その気持ちに応えようとするのは、人として正しい選択なのよ。

　まったく、ここまで言って分からないだなんて、不知火ちゃんにはバツが必要ね。私の側にいて、私の気持ちを感じてもらわないといけないわ。

「駆逐艦　不知火、あなたが傷を完治させるまで、私はあなたの側を離れないこととします。また同時に、一切の執務に関しては、不知火との共同作業とし、私単独での処理を放棄します」

　目の前にある、いつの間にか触れてしまいそうになっている、そんな彼女の瞳が徐々に開かれていくのが分かる。

　それは驚きによるものか、それとも怒りによるものか。どちらにせよ、好意的な感情を向けられていないのは、視線から感じ取れてしまう。

「……本気ですか、司令？　言っていること、無茶苦茶ですよ？」

　そんなの、自分でも理解している。大の大人が、それも提督という立場にあるはずの私が、不適切な発言をしていることは、理解している。無茶苦茶である以前に、職務を放棄しているといっても過言ではない。

「不知火ちゃんが素直になってくれるまで、私はこの発言を撤回しないものとします」

　ただ、そこまでしてでも分かって欲しいことがある。このリスクと引き換えにしても惜しくない、そんな結果が待っているはずだから。不知火ちゃんへと、言葉と思いを紡ぐ。

「仕方ありませんね。大人しく入渠して、傷を癒すこととします」

　頑固者な不知火ちゃん。時々、照れている不知火ちゃん。真面目にしていないと、怒り出す不知火ちゃん。感情を抑えきれずに、コブシを握っている不知火ちゃん。

　その全てに共通していえることは、彼女が真面目であり、一生懸命にやっている結果であるということ。自分の使命も、他人の使命も、果たせるようように努力しているだけ。彼女自身、誰かを怖がらせるようなことはないし、不機嫌そうな態度をとっているのも、本位ではないのでしょう。

　そんな彼女だからこそ、何を言われても可愛いと感じてしまうのかもしれない。ひたむきに努力している子を笑えるほど、私は腐っていない。

「ええ、では一緒に行きましょうか」

「はい？　なぜ、司令がご同行されるのですか？」

　そんな中でも、時折見せてくれる素直な表情は貴重だ。見た目と相まって幼いものに見えてしまうし、彼女のことを守りたいと強く思わせる。

　まったく、その差もまた、私を楽しませてくれているということに、彼女は気付いているのかしら？　私が頑張る為の原動力、誰からもらっているのか気づいているのかしら？

「先ほど発言したように、私はあなたと行動を共にします。それは入渠中であろうと、就寝中であろうと、例外はありません。あなたが裸になり、入渠している様子を眺めて、自身の目で傷の有無を確認します」

　すぐに見つかった傷が２箇所でも、それ以上の傷がないとも限らない。入渠するのであれば、報告をその場でもらうことも出来るし、彼女自身への聞き取りも可能でしょう。

　それを今後の作戦に活かしていけば、より確実に、そして安全に。提督としての業務も捗るというもの。

　もちろん、うちの活躍だけで大きく戦況を変えることは、出来ないけれど。手の届く範囲にいる人の、笑顔を守ることにつながるはずだから。不知火ちゃんに負けないよう、私だって一生懸命になるよ。

「司令、失礼ながらほとんど変わらない体形ですので、何も面白いことはないと思いますが？　特に胸など、重巡洋艦のみなさんを見られた方が、楽しいのでは？」

「ひ、人が気にしていることを、率直に言ってはいけません。傷ついて立ち直れなくなることもあるんですよ？」

　発言はともかくとして、結構真面目なことを考えていたはずの私に、鋭いナイフが突きつけられる。いや、今までの反省点を活かして、表現にだって気をつけたよ？

「事実です。現実を受け入れて、強くなって頂くしかありません」

　ジト目になり、告げられる残酷な現実。それが突き刺さる私の心は弱く、容易く切り裂かれてしまう。

　まだ、成長の余地はあるはずだし、諦めには早いと思いたいんだから。

　その為に、リスクのない方法は全て試すべきであり、彼女に手伝ってもらえることなら、遠慮しなくても良いはず。

「……不知火ちゃんが揉んでくれたら、大きくなるかもしれないよ？　愛宕さんみたいになった私、見たくない？」

「そのような迷信、不知火は信じません。司令は、今のままで十分です」

　そのセリフ、赤くなりながら言ってくれれば、勘違いも出来るのに。どうして、そんなに冷たい目のままで言うのかな。

　ちょっとくらい優しくしてくれても、バチが当たることはないのに。不知火ちゃんは、夢がないなぁ。

「なら、私が不知火ちゃんの胸を揉んで、真実にしてみせるよ」

　これなら、どう？

　迷信だと思っていても、現実に起きたのであれば信じるしかないでしょう？

　私の胸であれば、虚偽の数値を教えることも出来るけれど、不知火ちゃん自身の胸なら誤魔化しようもないでしょ？

　なにより、この提案を受け入れてくれるなら、私は不知火ちゃんの胸を揉み放題という、天国が待っていることになる。

　可愛い子に囲まれて楽園だなんて喜んでいた、過去の自分に圧倒的な差をつけることが出来るわ。

「全力で遠慮いたしますので、ご自分の胸でお試し下さい」

　ですよね。ええ、分かっていましたとも。ちょっと妄想しただけです。

　そんな、害虫を見ているような、冷たい目で見ないで。殺気がこもったら、気絶しそうだよ。ついでに、連装砲を構えるのもダメだからね。冗談と本気くらい、聞き分けてよ。

「えー、自分のなんて揉んでも、何も楽しくないでしょ？　いいじゃない、ちょっとくら揉ませてくれても。減るものでもないし、どっちかと言えば増えるかもしれないんだよ？」

　つつましいサイズの不知火ちゃんも魅力的だけれど、大きくなった不知火ちゃんだって魅力的なはずだから。ありだと思わない？

　何より、私が見てみたい。ちょっと勿体無いけれど、大きくなった不知火ちゃんだって好きになれるから。

「そうではなく、羞恥心を持つようにと、促しているつもりなのですが？」

「人前で平然と脱ぐ、破廉恥な不知火ちゃんに言われたくありません」

「誰が破廉恥ですか。司令が証明しろといったから、脱いだまでです。別に、露出の趣味は持ち合わせていません。司令と一緒にしないで下さい」

　一緒にしないでって、私が露出の趣味を持っているとでも言うの？　そんなことしないよ。同姓の前で脱ぐのですら遠慮したいのに、どうしてそんなことしなければいけないの？

　いくら不知火ちゃんとはいえ、私を露出狂呼ばわりすることは、許さないよ？　一応、これでも上官なんだから。多少の敬意を払ってくれても、良いんじゃないの？

「うふふふふ。不知火ちゃん、ちょっと話し合う必要がありそうね？」

「不知火としては全力で遠慮したいところですが、命令とあらば従いましょう」

「ええ、これは命令よ。逃がさないわ」

　このまま逃がしてしまえば、露出趣味のある提督として認知されてしまう。それだけは阻止しなければ、ただでさえ不足している私の威厳が、海の底へと消えてしまう。うぅ、今でも冷たい子がいるというのに、これ以上蔑まれるようなことがあっては、とても仕事なんて手につかない。

　私の楽園は、この手で守るのよ。

――まずは、不知火ちゃんを愛でるところから始めましょう