瞳が映すもの - 雨の降る日に

先のＪＳ事件での刑罰が決まり、母子２人で隔離世界へと移された我が主ルーテシア・アルピーノ。
アチラ側での慌しい日々とは違い、穏やかな時間の流れるこちらの世界でのんびりと暮らす事にも楽しみを見つけたようだ。隔離世界に移され友と離れ離れになると告げられた時、主の心は悲しみと寂しさで満ちていたが、母親と共に暮らせる今はそれも薄れているようだ。
最近ノートに何やら書いているようだが･･･果たして何を書いているのか伺い知る由もない。

　　　　◇

･･･本当に色んな事があった。ドクターが逮捕されて、チンク他ナンバーズ達と一緒に海上隔離施設に送られた。そして、裁判を待たずに刑が決まり、目を覚ましたお母さんと一緒に辺境世界へ隔離された。
それだけの悪い事はしたし、罪を償えるというなら償いたい。インゼクトやガリュー達には悪い事をしたかなと思ったけど、みんな気にしないでって言ってくれた。キャロやエリオ達も友達のままでいてくれてる。
お母さんと一緒にこの世界で暮らし始めて大体１年程が経った。外の世界に出らない事以外は穏やかで楽しい毎日。
時間が経てば経った分だけ、自分のしてきた事が怖くなる。だからこそ、今日の日記はみんなへのお礼を書こう。どんなに言葉を並べても届く事は無いけれど、感謝をする気持ちが大切だって教わったから･･･。
キャロとエリオ、お友達でいてくれてありがとう。難しい話は良く分からないけど、いつか外に出れそうなので、その時は一番に会いに行くね。
機動六課にいたみんな、ありがとう。特に部隊長さん、あなたの力添えがあったから今のこの暮らしがあるんだって、教わりました。
ギンガさん、ありがとう。あなたが教えてくれたお陰で、外の世界に大きな魅力を感じました。
ナンバーズのみんな、ありがとう。みんなも大変なのに色んなお話をしてくれた。
アギト、ありがとう。すぐにシグナムさんのところに行けたのに、私の傍にいてくれたから寂しく無かったよ。
ゼスト、ありがとう。一緒に居られた時、大変だったけど楽しかった。安らかに眠って･･･。
ここまでは何度も書いた事があるお礼。これだけの人に支えられて、守られて生きていると思うと心の奥が暖かくなる。

そして、最後にドクターありがとう。あなたがやった事と、やろうとした事は許されない悪い事だけど、あなたが力をくれたお陰でみんなと出会えた。あなたの指示で動き、沢山の人に迷惑をかけて傷つけてしまったけど、恨んではいない。
あなたも寂しかったんだよね？あんな事をする為に生み出されたから･･･。
あなたも寂しかったんだよね？あんな事をしないと認めて貰えなかったから･･･。
私はこの力を間違ったことに使ってしまったけど、エリオやキャロと悲しい出会い方をしてしまったけど、ありがとう。
あなたがいてくれたから、生き抜くことが出来た。１人きりで寂しい世界の中でも、お母さんに会いたかったから、生きてこられた。そして、今の私がある。
だから、ありがとう。

　　　　◇

私の言葉が届く事は無いけれど、私の気持ちだけは届いているはずだ。そして、私自身もその事を忘れないように日記をつけていこう。
「ルーテシア、ご飯よ。戻っていらっしゃい」
「はい･･･お母さん」
日記をつけている間に近づいていたのだろう。私の目の前には優しく微笑むお母さんがいた。最近では体の方も完治し、私と一緒に森や海にも出かけてくれる。
差し出された手に、自分の手を重ね歩き出す。

どこまでも、未来へと続いているこの道を―――――