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前の「テーマ 友愛」の第2話です
マリアリでございます
なんとか、1月16日中にUPできたぉ~
幻想郷の一部にある『魔法の森』。そのまた一部である『霧雨邸』。
家主が滅多に掃除をしないこともあり、また魔導書や怪しげな道具のせいで独特の存在感を出している、ぼろい屋敷。
普段は訪れる者などなく、時折聞こえる爆発音さえなければ、静かな場所。
そんな寂しい場所に、珍しくも来訪者の姿があった。
「魔理沙ー、生きてる? 生きているなら、返事をしなさい」
まぁ、格好つけたとしても、訪れているのは私なんだけどね。
久しく姿を見ていないし、また変な実験にのめり込んでいるんでしょうけど――放っておくと、死にけかるまでやるから。
食事も取らず、睡眠も取らず。ただひたすら研究のみに没頭する。
魔の道を目指している者としては、尊敬しても良い姿だし。別段、悪いことをしているわけではない。
「それでも、餓死なんてされた日には、気分が悪くなるわ」
彼女は、けして料理が下手なわけでもない。上手とはいえないが、それなりには作れるのだ。
それなのに、材料があったとしても料理をしない。そこまで頭が回っていないのだ。
まったく、無駄なことをしている暇があれば、使い魔との契約でもしてしまえば良いのに。
私だって研究中は人形達に頼るのだ。別に、恥ずかしいことでもなんでもないでしょうに。
……いや、魔理沙に恥ずかしいなんて感情があるとは思えないけど。
「私よ、アリス・マーガトロイドよ。いるんなら、ここを開けなさい」
とにかく、ここ数日姿を見かけていない以上、彼女が研究に没頭しているのは間違いない。
ついでにいえば、没頭している彼女がまともに食事を取っているはずがないのだ。
「仕方ないわね。魔理沙、勝手に入るわよ!」
ノックしても、反応がない。実験をしているはずなのに、爆発音が聞こえない。
本当に、餓死してないでしょうね?
「魔理沙、どこ? 生きてるなら返事しなさい」
まったく、私はあなたの保護者ではないのよ?
いくら『魔法使い』になる可能性があったとしても、私とは違うのだから面倒をみてやる必要なんて、これっぽっちもないんだからね。そこのところ、理解しているのかしら?
「ア、アリスぅ。私はここだぜ……」
声がかなり怪しいけど、生きてはいるみたいね。心配して損したわ。
――いや、一歩って前ってところかしら?
「魔理沙、生きているのよね?」
「ああ、かなり怪しいが生きてるぜ」
大の字になり、床の上に転がっている彼女。
どうやら、空腹に耐えかねて倒れた様子で、自分自身が研究資料を潰していることにも気付いていないみたいね。
「まったく、毎度のことながら良くやるわね」
「そんなに褒めるなよ。照れるじゃないか?」
「何も見なかったことにして、帰っても良いかしら?」
折角、人がきてあげたというのに、その態度は何かしら?
例え私が人でなかったとしても、少しはしおらしくして見せるものではないの?
「冗談です。お願いします、帰らないで下さい。ついでに、その食べ物を私に下さい」
「相当ヤバいラインなのね。あの魔理沙がこんなに可愛らしくなってしまうなんて」
素直にお願いできる魔理沙。人の言う事を聞ける魔理沙。
ダメだわ、気持ち悪くてこれ以上耐えられない。
「まぁ、もともと渡す予定で持ってきたから。ほら、これ食べて少しは元気になりなさい」
「助かるぜ。流石は通い妻、アリスだな」
「何よそれ? 私は誰かさんと結婚した覚えはないわよ?」
親切に様子を見にきて、挙句に弁当まで持参してあげたと言うのに、私に対する賞賛はその程度なの?
いや、そもそも通い妻って響きからして、褒め言葉とは思えないわね。
「そっか、まだ結婚していなかったんだな」
「いや、将来的に結婚する予定もないわよ? そもそも、なんで魔理沙と結婚しなければいけないのかしら?」
魔理沙の妻だなんて、願い下げよ。人間だから寿命は短いし、何より女じゃない。
私もそれなりの研究はしているつもりだけど、女同士では子孫は作れないはずよ?
「アリス、他に好きなやつでも出来たのか? 浮気か? 浮気なのか?」
「前提が間違っているわ。私達は恋人でもなんでもないのよ? 浮気なんてしようがないでしょ」
時々会話が通じない時があったけど、今回は時にひどいわね。空腹でおかしくなったのかしら?
「ふっ、任せておけ。アリスは私の恋人だって、あの烏天狗に記事にしてもらったからな」
「あのねぇ、いくら暇だからってそんなことを記事にするほど、あれもバカじゃないはずよ?」
というか、魔理沙気付いていないのね。
この幻想郷には、意外なほどにあなたを好いている者が多いことを。
あなたに好意を寄せ、隙あらば擦り寄ろうとしていることに。
「……そういえば、霊夢達はきてないの? あの子なら、あなたの様子にも気付いてそうだけど」
「ふっふふ。アリスがきてくれるからって、全員追い返したぜ。3日程前にな!」
「あなた、何気にひどいことするのね」」
私がこなかったら、どうするつもりなのかしら?
今日だって、たまたま研究とメンテナンスの合間に出掛けてきただけなのよ?
「アリスの手料理が食べられるんだ。それぐらいしないと失礼だろ?」
「何に失礼なのよ。理解できないわ」
たかだか、私の料理を食べる為に追い返したって言うの?
まったく、そこまで真直ぐに好意を向けられても困るわ。
――私には恋愛なんて、分からないのだから。
◇
「ご馳走様。相変わらず、アリスの料理は上手かったぜ」
「そう、なら良かったわ」
あっという間に、それでいて料理を褒める事を忘れることなく、弁当は空になってしまった。
作ってきた手前、美味しそうに食べてくれるのは嬉しいけれど。そこまで褒めてもらっても、何も出ないわよ。
「ま、これで用事は済んだし、私は帰るわよ?」
「えー、もう少しゆっくりしていけば良いじゃないか」
「私だって暇じゃないのよ。いつまでも魔理沙に付き合っていられないわ」
今の時間はあくまで、休憩。余り長く取っていると、意味がなくなってしまう。
この家の周辺に生えている、変わったきのこさえ採取してしまえば、用事は終わるのよ。
「ふーん。なら、わざわざ私の為に来てくれたのか?」
「別にコレだけが目的ではないわよ? あくまで、目的の1つ程度よ」
生存を確かめること。食事を与えて、延命すること。それを主目的として、動くほど私は安くないわ。
「何にしても、ありがとうな。お陰で今回も生き残れたぜ」
「魔理沙が死ぬと、こっちとしても不都合があるだけよ」
「なにぃ!? も、もしかして、告白できないから困るとか、そういったことか? すまん、私としたことが気付いてやれなくて」
何暴走しているのよ?
というか、どう解釈すればそうなるの?
「任せろ。式場は、私達にピッタリなところを抑えてあるんだ。参加者ってすぐに集めてみせるぜ」
「少し落ち着きなさい。私は、実験台がいなくなると困る、そう言ったのよ」
符の調整にも、人形の調整にも、実験台が必要。
だからこそ、それに最適である魔理沙には死なれては困る。それだけの話なのに。
「はは、アリスは照れ隠しが下手だな。大丈夫だ、私は全部分かっているから任せとけ」
「はぁ、寝てないせいでおかしくなっているのね?」
連日の徹夜に、餓死寸前の空腹。そこから回復したばかりで、正常な判断力を求めるのが間違いだったわね。
ふぅ、睡眠不足の解消に、少々強引にでも眠らせる必要がありそうね。
「魔理沙」
「なんだ、アリス。告白なら大歓迎だし、愛の言葉はいつでも受――
『蒼符 博愛の仏蘭西人形』
馬鹿なことを言う前には、眠ってなさい。いい加減、鬱陶しいのよ。
「まったく、これしきも避けられないんじゃない」
手加減をしたのに気絶してしまうなんて、余程疲れが溜まっていたのね。
今だけでもいいから、少し眠りなさい。
そして、起きた時には賑やか過ぎる笑顔を振り撒いて頂戴。
騒々しく、迷惑をかけにきなさいな。
――恋人にはならないけど、魔理沙の笑顔は見たいのだから