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ちゃんちゃん
「こんにちは。シャルロッテちゃんで良いのかしら?」
「巴マミ。あなたがそう呼びたいのなら、そう呼べば良いわ」
きゅうべえにより送り出された世界。そこは魔女の時と変わらない程にファンシーで、またお菓子のあふれた世界だった。
それにしても凄いわね。これって、全てこの子の想像力で構成されているのでしょ?
「……ごめんなさい。私はあなたを殺してしまったわ」
「忘れてくれて良いとは言えないけれど、私はあなたを許せるわ。きゅうべえから説明は聞いたから」
「そう、ありがとう」
自己紹介が終われば、すぐに謝罪する。こんな世界を作る子だから、凄くわがままだと思っていたけれど、素直で良い子じゃない。
「私だって、魔女とは言えあなたを攻撃したのよ? お互い様ということで、終わりましょ」
「巴マミ、あなたは優しいんだね」
「どうかしら? 怖い人間でいるつもりはないけれど、そこまで優しさ溢れる人間でもないわよ」
優しいかと問われれば、分からないと言う返答しか出来ない。
優しさなんて、求める人によってレベルが変わってしまう。受け取る人によって、大きく変わってしまうものだから。
だから、自分自身が優しい人間かと問われても、返答のしようがない。
「少し、昔話をするわね」
そんな私の心情を汲んでくれたのか、シャルロットちゃんは話をそらしてくれた。
戦って、敗北した挙句に殺された。そんな関係だと言うのに、彼女の優しさに触れる度、彼女に対する負の感情が薄れていく。
「私、シャルロッテはきゅうべえと契約して、魔法少女になったの」
魔法少女の穢れが限界を超えた時、グリーフシードが生まれ、魔女を産み出してしまう。
そのシステムを知ってしまえば、魔女と言えども恨むことは出来ない。彼女達だって、被害者なんだから。
「その時の経緯はあなたほど緊急を要するものではなかったけれど、命のかかわるような、そんなタイミングだったわ」
私がきゅうべえと契約した時、余裕と呼べるような時間は全くなかった。
生きるか、死ぬか。その2つしか、私の前には用意されていなかった。
「そんな時にきゅうべえに出会って、私は願った。生き抜くことを、そして好きなものを食べたいって」
緊急性がなかったとしても、シャルロッテちゃんも、私と一緒なのね。
生きる為、生き抜く為に、私達は魔法少女になった。
「2つ目の願いは、特別に叶えられるってことはなかったけれど。生きていたおかげで、自動的に叶ったわ」
好きなものを食べたい。自由に食事を取りたい。それは、けして特別な願いではないはず。
だから、それを願っている彼女は、やはり特別な環境にいたのでしょう。
「魔法少女になって魔女と戦いながら、私は普通の生活も手に入れたの」
魔法少女は、魔女と戦う義務を負う。自分の願いを叶えるために、命と引き換えた。
「他の人から見ればおかしいのかも知れないけれど、それなりに幸せだった」
その気持ちは、私には痛いほど分かる。
生きていけることの大切さ。生きていることによって味わえるもの。
それは、魔法少女になったからこそ、実感できた。
「だけど、私は弱かった。魔女に勝てる強さはあっても、自分の心に勝てるだけの強さはなかった。穢れが溜まり、手元にグリーフシードがなくなった時点で、あっさりと魔女を生み出した」
心の強さがあれば、少しの間は耐えることが出来る。
ただ、それには仲間であったり、守りたいもの。そういった心の支えが必要になる。
「最悪なことに、病院で魔女を生み出してしまったから、ひどいことになってしまったわ」
生命力の弱っている人の多い、病院。そこに取り付いてしまえば、沢山の人が犠牲になってしまう。
「まぁ、そんな私だけど、マミとさやかのおかげで魔女が滅ぼされた。もう、誰も傷つけなくて良くなったの」
その状況に悲しみを抱き、涙を流しているシャルロッテちゃんが、簡単に想像できてしまう。
優しさゆえに、自分の行動に苦しんでいる。そんな彼女の優しさが、私にまで届いてくる。
「ごめんなさい。マミは私に気付いてくれた大切な人だったのに、私はマミを殺してしまった」
そんな彼女だからこそ、私への謝罪を望んだのかもしれない。
自分が犯してしまった罪。それと真っ直ぐ向き合う為にも、彼女は逃げなかった。
「自分が魔女になっていることを忘れて、あなたと遊ぼうとしてしまったわ」
けど、彼女の心の底にあるものは無邪気で、触れたものが笑顔になれるような気持ちであふれている。
◇
「そう、あなたも辛かったのね」
「辛い? 私はお菓子を食べていただけだから、好きなものを食べていただけだから、楽しかったよ?」
自分自身にとっては、我侭。そういって通そうとする彼女。
「ふふ……本当に楽しかったのなら、どうしてそんなに辛そうな顔をしているの? 今にも泣き出してしまいそうよ?」
だけど、その顔は悲しみに溢れていて、けして自由奔放にやってきたわけでないことを物語っている。
「シャルロッテ、あなたは優しい子だわ。人を傷つけると同時に、自分も傷つけていたのね。だから、そんなにも苦しいのよ?」
人を傷つけたくないから、人を傷つけるのが嫌だから、魔女になっても苦しんでいたのよ。
「あはは……やっぱり、マミは優しいな。私はマミを殺してしまったのに、助けようとしてくれるんだね」
「当然でしょ? 私だって、魔法少女なんだから。無理しなくても良いわよ」
同じ境遇で、同じように頑張って。それなのに理解できないはずはない。
「そっか、そんなマミだから好きになったんだ」
「……えーと、どういうことかしら?」
私達、そんな話をしていたかしら? いや、そもそもそんな半紙の流れになる雰囲気は、どこにもなかったはずなんだけど……。
「僕、マミのことが好きなんだ! 大好きなんだよ」
見た目通りの幼い反応。隠すこともなく、恥ずかしがることもなく、嬉しそうに告げられる言葉。
だけど、それを私が受け取るには準備が足りなかった。いえ、準備をしていても受け取れたか分からないわ。
◇
「実はね、あの時だってマミにキスをしようとして、失敗しただけなんだよ」
キスをしようとした?
えーと、どうしてそんなことをしようとしたのかしら。
「私がかぶっている物を壊してくれて、本当の私を出してくれたでしょ? だから、お礼にキスをしようとしたの」
お礼にキスをする。シャルロッテは、随分とおませさんなのね。
「だけど、僕はドジだから、歯がとても長くなっていることを忘れてたんだ」
――そのせいで、わたしは死んだの? シャルロッテのうっかりで、私は死んだの?
うーん、それは少しやりきれない気分ね。
「だから、そのままガブッてなったんだけどね。それに、頭をちぎったのはマミのソウルジェムが欲しかったからなんだよ」
病んでるの?
さっきからの会話。少し病んでない?
「ちょっと待ってね。少しで良いから整理する時間を頂戴」
「うん、良いよ。僕はマミが大好きだから、いつまでも待ってあげる」
「そ、そう。ありがとう」
落ち着きなさい、巴マミ。好きだと言われても相手は女の子よ? それにこんなに小さいんだから、友達として好きってことでしょ?
それなら、別に問題ないじゃない?
「でも、勘違いしないでね。僕はマミを好きなんだ。愛しているんだ」
「えーと、今日は何日だったかしら?」
確か4月1日は嘘をついても良い日だったわよね?
死んでから暫く経っているみたいだし、その日であれば問題ないわけでしょ?
「んー、なんか無理やり納得しようとしてない? 僕がマミを好きなのは、嘘じゃないよ? アイラブユーだよ?」
友達としてでなく、恋愛感情なの? 私は、シャルロッテをほれさせてしまったの?
「恋愛というものは、男の子と女の子ですることよ? シャルロッテちゃん、分かるかな?」
「けど、愛の前には性別なんて小さなことでしょ?」
言っていることに間違えはなくても、私自身が対象になると、少し気後れしてしまうわね。
「僕、見た目はこんなのだけど、魔女になってからは長いからさ。それくらいの知識は持ってるよ?」
「その上で、私のことを愛しているの?」
「うん、当然でしょ?」
そんなにあっさり言われても、困るのだけど……。
「――そっか、マミは大人だから言葉だけじゃ、信用できないんだね」
「中学校3年生は子供よ。少なくとも、私はそのつもりだわ」
その上おかしい方向に捉えられているし、どうすれば分かってくれるのかしら?
「ふっふふー。ここは僕に任せなさーい。ちゃんとベッドだって用意してあるんだよ」
そういって彼女が手を振ると、可愛い上に豪華なベッドが出現する。
天蓋がつき、フリルが垂れ下がる。どこかの御伽噺でお姫様が寝てそうなベッド。
「えーと、私に何を求めているのかしら?」
「信じて。私はちゃんとマミを愛している。けして、遊びじゃないのよ」
「……なに、この昼ドラ的な展開。私はどうすれば良いの?」
私達、こんな話をしていたかしら? いや、それ以前に私はどうすれば良いの?
聞くべき相手も、相談する相手もいないこの世界で、どうすれば良いのかしら?
「さぁ、マミ。愛し合おう」
「とりあえず、落ち着きなさい」
落ち着いて、迫らずに落ち着いて。そんなに迫られても、私には対応できないわ。
「別にあなたの気持ちを疑っているわけではないのよ。ただ、展開が急過ぎてついていけないだけだから」
「そっか……なら、デートしてキスをして、それからだね♪」
色々と間違っているし、前提条件が何も解決されていないのだけれど。
説明したら、シャルロッテは分かってくれるかしら? 説明したら、分かろうとしてくれるかしら?
「任せて、デートスポットだって作ってあるから」
「あの、私の話を聞いてくれるかしら?」
「もしかして、水族館とかが良かった?」
そもそも、私にはそんな趣味はないって、女の子と育む愛は持ってないって、どうすれば伝わるの?
いくらシャルロッテが可愛くても、私だって女の子なんだから。男の子との恋愛に憧れるのよ?
「マミ、遊園地とかは疲れるから、嫌でしょ?」
「そんなことはないけれど。私が言いたいのは、そんなことじゃないのよ」
「けど、テレビで言ってたよ? おっぱいって重いから、歩き回るようなところは疲れるって」
――お願い、私の話をまともに聞いて。途中で遮らずに、最後まで聞いて。
「あ、そっか。重いなら、僕が持ってあげれば良いんだよね。任せてよ、こう見えても僕は力持ちなんだよ。マミのおっぱいくらい、持ち上げられるよ」
「私が言いたいことは、それではないわ」
同級生と比べれば大きいのかもしれないけれど、慣れたから重たいって程ではないわ。
ついでに言えば、私の言いたいのは、そんなことではない。もっと根本的で、解決しておくべき問題よ。
「と、とりあえず、今日のところは考えさせてもらってもいいかしら?」
「そっか、残念だね。だけど、心の準備は必要だもんね」
「そうね。そんな感じでお願いするわ」
勘違いされているところはあるけれど、今の私では上手く説明できない。
だから、少し時間が欲しい。
――どうすればいいのかしら?