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ここは「魔法少女リリカルなのは」の2次SSをメインとしています。 ※ 百合思考です。 最近は、なのは以外も書き始めました。
ヽ(*´∀`)八(´∀`*)ノ
プロフィール
HN:
らさ
年齢:
37
性別:
男性
誕生日:
1986/07/28
趣味:
SS書き・ステカつくり
自己紹介:
コメントを頂けると泣いて喜びます。
リンクフリーです。
ご報告頂けたら相互させて頂きます。


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yakisoba_pan◇hotmail.co.jp
◇を@に変えて下さい
当ブログ内のSSは無断転載禁止です。 恥ずかしいので止めて ^^;
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次の記事:力と想いを繋ぐもの

前の記事:夢への軌跡
ムーンライトさんが無双する、そんな話を書きたかった。仕事人的なムーンライトさんの話が書きたかった。
(・w・) まぁ、頑張った気はします。


 月光に冴える一輪の花。
 そう聞いて、みなさんが思い浮かべる花は何でしょうか?
 冷たいとも言える光の中で、神秘的に揺れている花。闇をバックにしても褪せることなく、輝くように咲く花。
 そういった、綺麗な花を想像されることでしょう。
 それが間違いだとは言いません。いえ、確かに”綺麗”という部分のみで考えるのであれば、彼女には十二分その資格があると思います。
 しかし、1つだけ忘れてはいけないことがあります。綺麗な花には、トゲがあるのです。
 特に、僕の知っている花は極上とも言えるトゲを持ち、自らの意思でもって外的を排除しようと活動を続けます。
 彼女の名前はキュアムーンライト。歴代のプリキュアの中でも高位の戦闘力を持ち、孤独と共に戦い続ける戦士です。
『ムーンライト・シルバーインパクト!』
 彼女は正義の使者であり、みんなの心の花を守る為に戦ってくれている女の子です。優しさと、自信を併せ持った僕の最高のパートナー。
 これは、そんな彼女を妖精視点から見つめた、短い物語。
 
 
   ムーライト伝説 ~妖精日記 その1~
 
 
 視界を埋め尽くすほどの数で襲い掛かってきたスナッキー達。しかし、その全ては彼女の一撃により意識を刈り取られ、物言わぬオブジェクトとして、そこら辺に転がっている。中には砂が漏れ出している者もいるが、見なかったことにしよう。
 今回攻めてきているのは、戦闘要員であるスナッキーだけではない。僕が気を抜いていたせいで、負けたり、彼女が怪我をしたりするのはごめんだ。
「何度来ても無駄よ。私がいる限り、あなた達の好きにはさせないわ」
 まぁ、彼女の反則気味な強さに抗えればの話だろうけれど。この前までただの中学生だったはずなのに、彼女の強さはどこから来ているのだろう? 怖かったりしないのだろうか?
 最近は泣き言を言うことすらなく、以前にも増して優しくなってきた彼女。
 どこか無理をしているような、戦いに没頭しようとしているような、少し不安定さが感じられる。
 気のせいであれば良い。僕が心配し過ぎているだけであれば、それで良い。ただ、もしも違った場合は力になれるのだろうか? 僕を助けてくれている彼女を、世界を守る為に戦ってくれているムーンライトを、僕は助けることが出来るのだろうか?
「キーッ、何よ何よ。どうしてアタシ達の邪魔をしてくれるのかしらぁん?」
「邪魔をしない理由はなくても、邪魔をすべき理由は山のようにあるからよ」
 体だけなら、強くなれるかもしれない。プリキュアに変身することで、強くなれる。
 だけど、彼女の心は、彼女の繊細な心はそのままだ。ガラスのようなもろさを抱えたまま、戦い続けるしかない。
 僕は彼女の傍にいることしか出来ない。パートナーとして、彼女を支えることしか出来ない。砂漠の使徒がもう少し考えてくれるなら、節度を持ってさえくれれば、彼女の負担を減らすことも出来るというのに。
「心の花を枯らし、地球を砂漠にしてしまう。そんな計画に賛同出来るわけないでしょ?」
 随分とストレスも溜まっているのだろう。どうしようもない、戦うしかない現実にフラストレーションも溜まっているのだろう。
 幸いにして、スナッキー達は死ぬことがない。当たり所が悪かったとしても、浄化されることはあったとしても、死ぬことはない。
 だから、思いっきりやりたまえ。君の心の叫びをぶつけ、彼等の野望を阻止するんだ。君の持つ強大な力で、悪しき計画を叩き潰してくれ。
「みんなの笑顔と、心の花を守るのがプリキュアである私の使命。デザトリアンの存在を許すわけにはいかないわ」
 その余力で幹部と戦ってくれるのであれば、サソリーナ達の命が脅かされることもないだろう。伝説の戦士であり、正義の見方でもあるプリキュアが、一方的に勝利したとなっては、敵の幹部を攻撃し続けたとあっては、歴代プリキュアにもパートナーである妖精達にも、僕が顔向け出来ない。
 お願いだ、ムーンライト。全力を出すなとは言わない。手加減してくれなんて怖いこと、僕の口からは言えない。
 僕は臆病者だから、君の優しさを信じるしかない。愛で戦う君が、みんなを守ろうとしている君が、浄化してくれることだけを切に願っているよ。
「あなた達が悪の存在である限り、この地球を狙い続ける限り、私は立ち塞がるわ」
 砂漠の使徒が地球の砂漠化を企む限り、僕達は退くわけには行かない。
 みんなの笑顔と、心の花。そして、心の大樹を守るのが僕達の使命だ。
 ムーンライトはそこらへんを、ちゃんと心得てくれている。多少やり過ぎなところもあるけれど、それは彼女が一生懸命になってくれている証しで、責めるべきものではない。
 彼女は優しいから、自らの優しさを甘さだと認識しているから、過剰とも言えるような攻撃を仕掛ける。
「野望を砕き、改心させる為であれば、多少の犠牲も仕方ないわ。あなた達が、その無意味な計画を諦めてくれれば済む話でしょ?」
 本当はそんなことはないんだけどね。プリキュアの使命を果たそうと頑張っている彼女を、妖精である僕が止めることは出来ない。パートナーとして、共に歩んでいくことこそが、彼女の隣で応援し続けることこそが、僕の役目なのだから。
 直接的な戦闘力は皆無かもしれない。隣にいるだけで、何の役にも立っていないのかもしれない。
 そうだとしても、例え意味が無いのだとしても、僕くらい見届けなければ、彼女の涙が無駄になってしまう。
「簡単には諦めないわよぉん?」
「そう、ならここで朽ちてみる? スナッキーは既に壊滅状態よ?」
 まぁ、敵とはいえサソリーナには、若干なりとも同情はするよ。
 スナッキーを引きつれ地球にやってきた直後、待ち伏せをしていた僕達に迎撃されたんだ。何も出来ない内に、壊滅状態に追い込まれてしまったんだ。
 恨み言の1つくらい言いたいのだろう。
 ただ、僕個人の意見として聞いてもらえるのであれば、恨み言を言う暇があるのであれば、命乞いをするべきだろう。ごめんなさいと、反省するべきなんだ。
 彼女が聞き入れてくれるとは限らない。聞く耳すら持たず、攻撃されるかもしれない。それでも、ちょっとくらいは加減してもらえるかもしれないんだよ?
 その可能性を自ら捨ててしまうのは、残念だ。
「なんでこう、攻撃的なやつがプリキュアなのよぉん。普通、説得しようとするものじゃないのぉん?」
「あなた達が話し合いに応じる姿勢を見せてくれるなら、考えても良いわ。ただ、今の状態では不可能ね。お互いの意見は対立したままで、話し合いが出来るほど余裕はないわ」
 ムーンライトだって、話し合いを諦めたわけではない。傷つけ合うこと以外の解決方法を、探していたこともある。
 だけど、その殆どが砂漠の使徒によって却下されたしまった。話し合う必要も、その理由もないと、聞き入れてもらえなかった。
 僕としては随分と腹が立ったし、少しくらい効いてくれても良いのではないかと悲しくもなった。ただ、ムーンライトは断られた理由を正確に把握していたんだ。
 僕達と、砂漠の使徒は対等ではない。組織としての規模も、戦力も全ては砂漠の使徒が上回っている。今までなんとかわたり合い、心の大樹を守り続けてこられたけれど、それは守りに徹していた結果なんだって。
 対等でないものは、話し合いに応じない。応じなくとも、圧倒的な戦力で潰してしまえば良い。悔しい話ではあるけれど、僕達は弱いんだ。砂漠の使徒の本拠地に乗り込む力もなければ、攻め込んできた使徒を全て撃退出来ているわけでもない。
 だから、彼等は交渉の場に着く必要性がない。ただ1人しかいない、キュアムーンライトさえ倒してしまえば、砂漠化を止められるものはいない。
「もう良いわよぉん。今日のところは諦めて帰ってあげるわぁん。次こそは、我等砂漠の使徒が勝利するわぁん」
 ただ、そのままで終わるほど、僕達は弱くなかった。そのままで終われるほど、絶望していなかった。
 弱いなら強くなれば良い。対等でないのなら、対等になれるように努力すれば良い。出来る限り短い時間で力をつけ、彼らと同等、それ以上の存在になれば良い。
 そうすれば、話し合いに応じてくれるかもしれない。戦っても、攻め込んでも無駄だと理解してくれれば、話し合いに応じてくれるかもしれない。
 争わなければ、誰も傷つかないのであれば、新たな悲しみは生まれない。
 悲しみと、憎しみの連鎖を断ち切るのも、僕達の役目のはずだから。
「帰るの?」
 ただ、現実はそこまで甘くなかった。
 僕達がどれだけ強くなったとしても、どれだけ効率的に防衛し続けたとしても、戦えるのはムーンライトだけだ。
 だから、彼等は諦めない。たった1人倒せば叶えられる野望の為に、全力で襲い掛かってきた。苛烈な攻勢を仕掛けてきた。
「何で不思議そうな顔するのよぉん。スナッキー達を壊滅させたのは、アンタでしょう? デザトリアンの元になりそうな、心の花もないし、今日は引き上げるのよぉん」
 コフレ達もいるし、1人で孤独な戦いをする必要はないと、新しいプリキュアを探し仲間になってもらおうと、ムーンライトに提案したことがある。
 結果的には却下され、彼女は孤独な戦いの道を突き進むこととなった。
 あの時の彼女の言葉、あの時の彼女の声、そしてその表情を、僕は忘れることは出来ないだろう。
 孤独な戦いを続けていく辛さも、1人きりで守っていく厳しさも、彼女は正しく理解している。いつかは負けてしまう、命を落としてしまうかもしれないことを、彼女は冷徹なまでに理解していた。
「私の話は終わっていないわ。それに、見逃すなんて言った覚えはないわよ?」
「……悪役が逃げようとしているのに、それを引き止めて説教でもするのぉん?」
 キュアムーンライト、月影ゆりは優し過ぎる。とても簡単な話だ。
 彼女は自分と同じ苦しみを、誰かに経験させたくなかっただけ。みんなを守るというプレッシャー。強大な敵と戦わねばならない恐怖。何より、命を失うかもし危険性。
 それらを、誰かと共有することを良しとしなかった。
「お説教をした程度で、どうにかなるわけないでしょ? このムーンタクトで浄化してあげるわ」
「アンタ、浄化するつもりなんてあったのぉん? てっきり、私達を痛めつけて楽しんでいるものだと思っていたわぁん」
 それを理解し、彼女の考えを理解した時、僕は決めたんだ。一切の加減をしない、彼女の戦い方に込められた本当の意味を。
 彼女のパートナーとして存在している、僕のするべきことを。
「失礼なことを言うわね。私はプリキュアよ? 憎しみや怒りではなく、愛で戦うの。あなた達すら救う為に、戦っているのよ?」
「いや、塵にするつもりはあるかもしれないけど、救う気なんて欠片もないでしょぉん。アンタの攻撃、手加減てものがないのよぉん」
「手加減なんて、失礼なことはしないわ。私はいつでも全力で、持てる力の全てを撃ち込んでいるわ」
 彼女が万全の状態で戦えるように、少しでも負担を減らせるように。砂漠の使徒が出現する場所を、絞り込む作業に没頭した。
 彼等の癖。デザトリアンとなりえる可能性のある人間が、多く集うところ。
 それらを全て監視する方法。僕へと情報が流れ込んでくるシステム。
 心の大樹の協力もあり、彼等の出現地点をある程度の箇所に絞ることに成功した。
「それ、正義の味方としては問題なんじゃないのぉん? もう少し優しさがあっても良いんじゃなぁい? 慈悲ってものを知らないのぉん?」
 元々が、自分達が住みやすいように地球を改造しようとしているのだから、どこにでも現れることが可能なわけではない。
 ある程度、条件が整った場所でなければ出現することは出来ない。
 ソレさえ分かってしまえば、その上で監視を怠らなければ、今回のように待ち伏せに近いことさえ可能だ。
「ごめんなさい、上手く伝わっていなかったようね。次からは伝わるように、意識が残る程度に弱めるわ」
「そんなこと、謝られても困るわよぉん。ついでに、少しは人の話を聞きなさぁい」
 もっとも、ムーンライトであればある程度ずれたとしても、外したとしても、問題が起きる前には治めてくれる。
 そう信じられるからこその、方法だ。
「先ほど、話し合いが出来る状態ではないと言った筈よ? か弱い女子中学生が、たった1人で立ち向かっているの。巨大な悪の組織である、砂漠の使徒にたった1人で戦いを挑んでいるの。あなた達と分かり合おうとする余裕は、こちらには一切ないの」
 若干、悲劇のヒロイン化しているところはあるけれど、これくらい許してくれるよ。
 ムーンライト。君の頑張りに比べたら、これくらいはみんなが許してくれる。何も問題はない。
「どうしても話し合うというのであれば……あなたを倒し、捕虜とした上で交渉を行うわ」
「それ、人質って言うのよっ! どう考えても、悪役のやることでしょぉん? 正義の味方のアンタがやって良いことじゃないでしょぉん」
「持てる力と、使える手段を全て使うだけよ。選択肢の1つとして考えるのであれば、ありえる話ね」
 僕達には手段を選べるだけの、余力はない。敵に情けをかけているだけの、余力はない。
 余裕を持ったまま、戦いを楽しめるのは強者のみ。僕達弱者には、そんな考え方すら不要なんだ。
 目の前の敵を撃退し、少しでも時間を稼ぎ、次に戦う時にはもっと強くなっている。それこそが、弱者である僕達の戦い方。
「そもそも、アンタごときに私が捕まると――『プリキュア・シルバーフォルテウェーブ!』
 会話中であろうと、敵の登場シーンであろうと容赦しない。当てられるタイミングで、確実に当てていく。
 僕達は大切なものを守る為、命がけで戦っている。危険な橋をいくつも渡り、みんなの笑顔と明日を守り続ける。
「安心しなさい、峰打ちよ」
 その上で、最後の優しさだけは忘れない。正義の味方である僕らにとっての、約束ごと。
 うん、流石はムーンライト。今日も完璧だよ。
 君のおかげで世界は守られた。
「コロン、お疲れ様。今回も危なかったわね」
「お疲れ様、ムーンライト。頼りになる相棒がいて、僕は助かるよ」
 サソリーナを縛り上げている彼女に、ねぎらいの言葉をかける。
 ごめんね、ムーンライト。僕には、こんなことしか出来ない。それが悔しい。
 悔しいからこそ、僕に出来ることが全力でやる。
「これ、どうすれば良いかしら?」
「そうだね。丁度近くに廃ビルがあるし、その一室に閉じ込めておこう」
「それだけで良いの?」
 幹部であるサソリーナなら、交渉の材料になるかもしれない。彼等と話し合いを設ける為の、材料になるかもしれない。
 だけど、砂漠の使徒はそんなに甘い組織だろうか? 永きにわたり地球を欲している彼等が、幹部1人の為に止まるだろうか?
 ありえないとは言えないけれど、地球の未来を賭けられるほどの勝算は見込めない。
「敵だとは言えども、彼女を殺傷するわけにはいかないからね。それに、アジトに戻らなければ、次の幹部が来ることもないだろう」
「コロンて、時々過激なことを言うわね」
 僕としては事実を確認しているだけで、特別過激なことを言おうとしているわけではない。
 戦いに駆り出されていること、ただの女の子に重責を背を早稲手しまったこと、ムーンライトを巻き込まざるおえない現実。
 それらに対して、怒りがないと言えば嘘になってしまう。
「……こんな僕は嫌いかい?」
「いいえ、格好良いわよ。流石は私のパートナーね」
「褒めても、何もでないよ」
 こんな僕を褒めないでくれ。本当なら、君の笑顔と向き合う資格さえないはずの僕に、優しくしないで欲しい。
 君を戦いに巻き込んだのは僕だ。敵の目的を教えたのも僕だ。
 僕に戦う力さえあれば、君と同等の――いや、例え劣っていたとしても良い。1人でなんとか守れるだけの力と、何者にも負けない勇気と、みんなを思いやる優しささえあれば、君がプリキュアになることもなかったかもしれない。
 恨んでくれても良い、罵倒してくれても良い。僕は、それだけのことを君に押し付けたんだ。
 妖精だからとか、プリキュアだからとか。そんなどうでも良い理由で、君の運命を決めてしまっている。
 ごめんね、ムーンライト。
 
 
      ◇
 
 
「ダメよ、私には戦うことなんて出来ないわ」
 プリキュアになったばかりの頃、今のような攻撃性は彼女には備わっていなかった。戦うことを躊躇し、相手を傷つけることに戸惑い、戦わねばならない現実から逃げようとしていた。
 仕方のないことだろう。そもそも、彼女は争いからは縁遠いところにいたんだ。誰かを傷つけなければ、誰かを倒さねば生き残れない世界にはいなかったんだ。母と2人、静かに暮らしていただけ。
 友達が山のようにいたり、太陽のように明るかったり、そういった社交的な性格ではなかったかもしれないけれど。信頼できる友人と、優しい人達に囲まれて笑顔で暮らしていた。
「君は、何もせずに負けても良いと言うのか? 君の大切なものが壊されるのを、黙ってみているというのかい?」
 そんな平穏な暮らしの中に飛び込んで、無茶苦茶に掻き回しているのは僕。こころの大樹によって生み出された、プリキュアのパートナーとなるべき妖精。
 自分で言うのもなんだけど、見た目はけして悪くはなかったと思う。第一印象は、けして悪くなかったと思う。
 だけど、戦ってくれと告げた時、僕と一緒に心の花を守って欲しいと告げた時、彼女の瞳には悲しみの色が映った。あの時、既に彼女は理解していたのだろう。戦うというのがどういうことか。戦った結果、何を得てしまうのかを。
 ごめんね。君の辛さが分からないとは言わない。君の恐怖が分からないとは言わない。
 それでも、止まれない。止まるわけには、いかなかったんだよ
 僕は、こころの大樹を守る為に生み出された。世界を、地球を守る為に生み出されたんだ。
 だから、君にお願いするしかなかった。君を頼って、君に戦ってくれるよう促すのだけが、僕に出来たことだった
「大切なものを壊されたり、大切な人が傷つくのは嫌よ。それでも、私が戦わないといけないの? 格闘技をやったこともないのに?」
「怖いのは分かる。戦いたくないという、君の優しさも良く知っている。ただ、プリキュアは誰も良いわけではないんだ」
 彼女は戦いに向かない。彼女の優しさは、戦う上で命取りになる。
 そんなことは、分かっている。彼女の心にある優しさと、強さに惹かれたからこそ、プリキュアになって欲しいと、一緒に戦って欲しいとお願いしているのだから。
「戦い方は僕が教えるよ。戦場で生き残る術を、僕が教える。君の笑顔と、君の大切な人を守る為に、僕に力を貸して欲しい」
 分かっていても、理解していても、例え向いていないのだとしても。僕は諦めるわけにはいかない。
 プリキュアに変身して戦ってもらわなければ、戦う覚悟をしてもらわなければ。もう、時間がないんだ。
 やつらは、すぐそこまできている。こころの大樹を狙って、力を失ったキュアフラワーを狙って、すぐにでも攻めてくる。
 その時に対抗出来なければ、守ってくれる戦士がいなければ。地球は、砂漠になってしまう。植物はもちろん、動物も人も生きられない。そんな世界になってしまう。
 それが分かっていながら、その悲劇を理解していながら、何もしないなんてことは出来ない。知らないフリをして、目と耳を閉じることなんて、僕には出来ない。
 抗う方法があるのであれば、どれだけ厳しい道になったとしても、諦めるわけにはいかないんだ。
 人間は、強大な科学力を手にしている。人間以外にも、力を持っている生き物は存在する。
 けど、そのどれもが無意味だと思えてしまうだけの戦力を、圧倒的なまでの戦力を、砂漠の使徒は有している。
 スナッキーは何とかなるかもしれない。幹部は、犠牲を払いながらであれば撃退出来るかもしれない。
 だけど、デザートデビルやデューン、そして僕が知らない敵が出てきた途端、敗北してしまうだろう。砂漠の使徒に、地球を明け渡して滅びることになってしまうだろう。
 そんなのは嫌だ。僕は緑溢れる、笑顔の溢れる、この世界が好きなんだ。
「優しさと強さを、両方とも持っている君にしかなれないんだ。月影ゆり、君しかキュアムーンライトにはなれないんだ」
 本来、プリキュアとなった者を、プリキュアへと変身する者を、僕は名前では呼ばない。
 彼女達への敬意を表する為にも、僕自身の心を切り替える為にも、名前では呼ばない。
「お願いだ。これからもプリキュアとして、キュアムーンライトに変身して、僕と一緒に世界を守って欲しい」
 彼女がうなずいてくれるとは限らない。これからも、戦ってくれるとは限らない。恐怖に負けて、逃げ出してしまうかもしれない。
 その時、僕は支えられるのだろうか? 彼女の力になれるのだろうか?
 僕は、彼女の為に何をしてあげられるのだろう?
「コロン、1つだけ教えてちょうだい」
「君と僕は、運命共同体だ。僕に分かることであれば、何でも答えるよ」
 隠し立てする必要もなければ、隠し通す自信もない。彼女の信頼を得る為にも、嘘をつくわけにはいかない。
「あなたみたいな妖精は、他にもいるの? 他にもプリキュアを探そうとしているの?」
「ああ。僕以外にも、妖精はいるよ。他にもプリキュアの素質を持っている子がいないか、探そうとしているところさ」
 1人で戦い続けるのは、難しい。1人で戦い続けると、心が折れてしまう。
 孤独を抱え、何かを守るために戦うのは凄いエネルギーがいるんだ。孤独を抱えたまま、人知れず笑顔を守るのは凄く苦しいことなんだ。
 待っていて、もうすぐ見つかるはずだから。君と一緒に戦ってくれる、一緒に笑える仲間がいるはずだから。
「良かった。まだ、見つかっていないのね?」
「そうだけど、どうかしたのかい?」
 見つかっていないことに、安心している?
 どうして? 人間は、孤独には耐えられないはずだろう?
 どうして、安心しているんだい?
「ねぇ、コロン。私はプリキュアとして頑張るわ。私の持てる力を全て使って、この世界を守ってみせるわ」
「ありがとう、そう言ってくれると助かるよ」
 君の決意は嬉しいよ。君の言葉は、とても嬉しいよ。
 だけど、どうして思い詰めたような顔をしているんだい? どうして、そんなに硬い表情をしているんだい?
「けど、プリキュアになるのは私だけよ」
「どういうことだい?」
 プリキュアとなるのは、君だけ? 君が1人で戦うというのかい?
「プリキュアとして戦うのは、キュアムーンライトだけで良いって言っているの」
「……君は、1人だけで戦い抜けると思っているのかい?」
「思っているのではないわ。私だけで砂漠の使徒を撃破する、そう言っているのよ」
 撃破すると言ってくれるのは、僕としては嬉しいことだけど。君は、本当にそれで良いのかい?
 たった1人だけで、戦い続けると言うのかい? 孤独を友にして、砂漠の使途と戦えると思っているのかい?
 残念だが、意外と夢見がちな性格だったようだね。それは難しいよ。
「無茶だ。いくら強くても、どれだけ頑張ったとしても、1人だけで戦うなんて無茶だ。出来るはずない」
「コロン、やってみる前から諦めるのは良くないわ。それに、想像なんて出来ないほどに厳しい戦いになるのだけは、理解しているつもりよ?」
 僕の役目は、地球を守ること、こころの大樹を守ることだ。
 ただ、その為にプリキュアが命を落としているようであれば、何の意味もない。
 守ってもらう立場で言うのはおかしいかもしれないけれど、君も僕の守りたいものなんだよ? 傷ついて良い存在ではないんだ。
「何か、策はあるのかい? 頑張ればどうにかなるような、そんなものではないよ? 失敗は許されない。負けることは許されない。そんな戦いなんだよ?」
「当然よ。無策で提案するほど、私も夢は見ていないわ」
 多少の策を用意していたところで、実現出来るとは僕には思えない。王であるデューンはま、だ脅威と呼べる位置にはいないけれど、幹部だって弱いわけではない。集団で責められた場合、1人で守りきるのは不可能だろう。
「コロン、あなたが言うとおりであれば、人間の持つ科学技術は役には立つのでしょう? 戦い続けることは出来なくても、私の支援くらい出来るはずよね?」
「確かに。使い方によっては、対砂漠の使徒として十分に機能させることは出来るよ。だけど、それを扱える人を知っているのかい?」
「いいえ、知り合いにはいないわ。それに、プリキュアのことを話せないんでしょう?」
 それも、そうだ。彼女の言っていることは正しい。
 例え装置の発明と、操作が出来る知り合いが仮にいたとしても、プリキュアのことは話せない。余計な危険に巻き込まない為にも、話すわけにはいかないんだ。
 ただ、魅力的な提案であることは事実。実用レベルの設備をなんとか準備出来れば、的確に迎撃をすることが出来る。砂漠の使徒の出現と、その規模だけでも分かれば可能な限り安全な方法をとることは可能だ。
「砂漠の使徒の攻撃が、本格化する前に2人で覚えるの。初めは出現を探れるような、サーチ機能を持つ機械だけで良いわ。この町を中心にした、レーダー網を作るだけでも良いの」
 砂漠の使徒の攻撃は、この町に集中している。より正確に表すのであれば、こころの大樹とつながりを持つ、キュアフラワーの住んでいるこの町を狙っている。
 本来、こころの大樹は一箇所に留まっている必要はない。安全性を考えれば、常に移動しているべきで、所在を突き止められないようにするのは当然の話だ。
 だけど、誰にも分からないのであれば、守ることすら難しい。プリキュアや妖精が駆けつけられる位置にいなければ、意味がないんだ。
「君の言いたいことが分からないわけでもない。ただ、簡単なことではないよ?」
「コロンに無茶だと言われた様なことをするのよ? 少しくらい難易度が上がったとしても、変わらないわ」
 僕は話した覚えがないし、君がそこまで深読みしているとは思わない。
 それでも、本能的なもので、プリキュアとして何となく気付いてしまったんだろうな。
 その聡明さが原因となり、君が傷つくことがないように祈るよ。
「本気、なんだね?」
「本気よ。そして、決定事項よ」
 君も苦労するのが好きなようだね。優しさと、強さと、厳しさと。
 僕は、誇れるパートナーに出会えたようだ。
「分かった。元々お願いしているのは僕なんだ。君の提案を受け入れない、却下する理由はない」
「ありがとう、コロン。そう言ってくれると、信じていたわ」
 お礼を言うのは、こちらのほうさ。君はただ、巻き込まれただけのはずなのにね。
 僕に力がないから、戦えるだけの力がないから、こんな形になってしまった。
「それにしても、どうしてダメなんだい?」
「何のこと?」
「なぜ、新しいプリキュアは必要ないと、1人で戦うなんて言い出したんだい?」
 せめてもの罪滅ぼしだ。君が望む形で、君の望むやり方で、戦って欲しい。
 僕はそれをサポートするよ。君が涙を流さなくても良い様に、孤独に震えることがないように、傍でサポートさせてもらうよ。
「簡単な話よ」
 そう言って振り向いた彼女は綺麗で、ずっと観察していたはずの僕ですら見たことがないような、素敵な笑顔で。こころの大樹にまで届いてしまいそうな、強くて綺麗な声で理由を教えてくれた。
「こんな辛いこと、他の子が知る必要はないわ。私が頑張れば、それで終わりよ」
 ムーンライト。やっぱり、君は優し過ぎるよ。危険なほどにね。
「分かった。君の気持ちを、僕は無駄にはしない。君だけでも守れるような戦い方と、システムの構築に全力を注ごう」
 僕は君のパートナーだ。君を助ける為であれば、なんでもしよう。世界を守る為に、最善の手を尽くそう。
 僕と君で、世界を守るんだ。
 
 
      ◇
 
 
「正直、どうにかなるとは思っていなかったんだよね」
 途中で音を上げても良い様に、候補となる子は探し続けた。少しの間なら、抵抗出来るだけのシステムも組み上げた。
 けど、現実には君が1人で戦い抜いている。十分な戦果を挙げ、被害を最小限に抑えながら戦い続けられている。
「僕は卑怯者だ」
 ムーンライトのことを、1番信用しなければいけない立場だったのに。僕が、1番に信用してあげなければいけなかったのに。彼女に隠れて、コソコソと準備を続けていた。
「君は、僕が思った以上の努力家だったね」
 僕が教えた戦術。敵の特徴と、攻撃方法。砂漠の使徒の目的と、組織の概要。
 君は、それを凄いスピードで吸収していった。僕が教えたこと以上に、吸収し続けた。
 そのお陰で、今がある。君の努力の結果として、今の平和がある。僕の望んだ平和が、続いている。
「これからも、頑張ろう」
 僕は、僕に出来ることを全力でやる。
 だから、君は君に出来ることを全力でやって欲しい。
 
――いつか倒れるその日まで、僕達は戦い続ける
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