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エーリカ&バルクホルン 譲れないもの-2
ええ、昨日の続きですね
今後は1つのテーマで2~3話を書くスタイルにしようかと……
(・w・) ネタが尽きたわけじゃないのよ?
テーマ:○○ って考えるのが面倒なわけじゃないよ?
「取り返す、か」
先日の宮藤との会話。私の心にある目標にして、譲れないもの。
あの時は勢い余って、カールスラントの奪還なんて答えてしまったけど。本当のところは、あまり興味がない。
ウチは幸いにして被害がなかったし、ウィッチとしての需要があったからこそ、今ここにいられる。
なによりも、501にいて得られるものを考えれば、今の状況が消して悪いとは言えない。
「ハルトマン、朝だ。目を覚ませ!」
「まぁ、いいことばかりじゃないけどね」
口うるさい同居人が出来てしまい、のんびりと寝る事ができなくなってしまった。
何よりも、今まで以上に迷惑をかける形になってしまっている。
うーん、トゥルーデは忙しいんだし、私ばかりに構っている暇はないはずなんだけどな。
「何でもいいから起きろ。既に起床のラッパはなり終わったぞ」
「そーなの? 私はなにも聞こえなかったよ?」
昨日は遅くまで本を読んでいたから、多分寝ぼけていたんだと思う。
何より、宮藤と話した内容が心から離れなくて、目を閉じても眠ることが出来なかった。
いつもの睡眠時間ですら起きられないのに、これは中々に辛いものがあるね。
「聞こえていようと聞こえていなかろうと、既に朝食の時間だ。素早くベッドから出ろ」
「んー。なら、今日は朝食は抜くよ。本当に眠いんから」
いつもであれば、何もしたくないから寝転がっている。
無駄に訓練をしなくても、今の状況でも戦果は挙げられているし、そこに関しては文句は出ないはずだから。
現状で対応できなくなる敵が出てくるまで、強くなる努力はしない。このスタイルのままでいる。
「……なぁ、ハルトマン」
「どうかしたの?」
訓練バカになり、常に強くなる事を考えている。失敗を悔やむ事はあっても、立ち止まる事はない。
私の知っているトゥルーデは強い。こんな心配するような声を出す人間ではない。
何かあったのだろうか?
「何か、悩みでもあるのか? 私で良ければ聞くぞ?」
「……トゥルーデこそどうしたのさ。いつもの勢いがないよ?」
いつも通りの勢いがあるなら、既にベッドから引きずり出されているはずだ。
何よりも規律を重視し、乱れることを嫌うはずなのに。私はまだベッドの中にいられている。
いや、正確には床の上で毛布を被っているだけなんだけどね。そこは小さな問題だから、無視して良い。
今重要なのは、トゥルーデに勢いがないこと。せめて原因だけでも探り当てないと、落ち着いて昼寝も出来ない。
「私はいつも通りだ、おかしなことを言うな」
「実力行使に出ない時点でおかしいよ。朝食のメニューに苦手なものでもあったの?」
そんな単純なことでへこんだりはしない。落ち込むわけがない。
ただ、分かりきっていることでも確認するのは大切だから。これを抜いて考えるのは得策じゃない。
「そんなことで私が変わると思っているのか? 馬鹿馬鹿しい、早く起きろハルトマン」
「んー、なら、訓練か何かで詰まった?」
「……訳の分からないことを。真面目に訓練をしないやつがいる以外に、悩みはない」
それって、私のことだよねー。流石に手を抜きすぎたのかな?
まぁ、良いや。トゥルーデが悩んでいる事は大体分かったし、そこを中心に攻めてみようか。
「別にいいじゃん。結果は出てるでしょ?」
「確かに、結果だけを見れば文句はない。しかしだな、お前には士官として、示すべき手本になる義務があるはずだ」
「そんなの面倒だから、トゥルーデに任せるよ。別に、なりたくて中尉になったんじゃないよ?」
私が中尉になったのは、気まぐれだから。
撃墜数を稼ぎすぎたことと、軍として宣伝用のマスコットが欲しかっただけ。
私の受けた試験はボロボロのはずなのに、落ちたことがないのが良い証拠だよ。
医療関係の勉強に比べれば簡単なんだし、それなりの点数で受からないように調整したはずなのになぁ。
「馬鹿なことを言うな。お前にはお前のやるべき事があるだろ」
「トゥルーデの僚機を勤める、それ以上の仕事はないはずだけど?」
撃墜数を稼ぐ意味でも、突破力を得る意味でも、私達のバーディは解散されないはずだ。
まぁ、別々の任務についている時なんかは仕方ないけどさ。それ以外なら、1番重要視されるべき任務だ。
「それを否定はしないが、もう少し強くなろうという姿勢はないのか? 良くも悪くも、お前は有名人だ。少しは自覚を持った行動をしたらどうなんだ?」
「そうは言ってもねー」
戦場に出れば、それなりの撃墜数は稼げる。これ自体は意識してやっているわけではなく、ただ生き残る為の手段。
日常を守る為にも、居場所を守る為にも、夢を見る為にも、これ以上ネウロイに進行されるわけにはいかないから。ただ、それだけの話なんだよ。
まぁ、どれだけの撃墜数を稼いでいても、それは局地的な戦果に過ぎない。
私がどれだけ頑張っても、スオムスの助けにはならないし、アフリカの助けになるわけでもない。
欧州の西側に、ほんの少し余裕をもたらすだけ。それも、チームとして動いた結果だよ。
「我々の目標は、守ることだけではないのだ。攻めることも視野に入れ、強くあらねばならないんだぞ?」
「言われるまでもなく、それは忘れてないよ? ほんと、どうしたのさ」
暗くなるような話題は振らない。不安をあおる様な発言はしない。
トゥルーデはそういったタイプだよね? 弱いところを隠したがるタイプだよね?
どうして泣きそうな顔をいているのかな? 私には、それが分からないんだけど。
「まったく、朝から何を悩んでるの? 泣きそうな顔で悩むなことなんて、何かあったかな?」
別に何も感じるなと言わない、弱気になるなとは言えない。
トゥルーデにだって弱気になる時はある。泣きたい時だってある。それは、理解しているつもりだよ?
「みんなには言えないことでもさ、私になら平気でしょ? 話せば少しは楽になるよ」
私が解決してやる、なんて言えたらカッコイイんだろうけどさ。そんな大きなことは言えないよ。
私が守れるのは手が届く範囲だけであり、私が支えられるのはたった1人の背中だけだから――
◇
「ハルトマン、お前はいつも判ったように言うのだな」
「今回が分かりやすかっただけだよ」
毛布越しでも分かるほど、雰囲気が変わったからね。これで分からないほど、鈍感ではない。
トゥルーデとしては見逃して欲しかったのかもしれないけどさ、後悔したくないから。そんな状態のまま、戦場へ送り出すことは出来ないから。
私は私に出来るやり方でフォローして、後悔が残らないようにしないとね。
「クリスへの手紙を書いていたんだ。病状はどうなのか、欲しい物はないかって」
訓練バカである以上に、姉バカであるトゥルーデ。
そんな彼女が手紙を書いているのは珍しい事ではなく、それだけで悩むとは思えない。
恐らく、手紙を書いている内に別のことを思い出し、それが悩む原因になっているのだろう。
はぁ、損な性格だよねー。
「書いている途中でな、元気に走り回っている頃のクリスを思い出してしまったんだ。ネウロイの進行に怯えることもなく、自然と笑顔に慣れていたあの頃を」
「そっか……」
彼女にとって、妹であるクリスは戦う為の理由でもあり、命に代えてでも守りたいもの。
そのクリスとの思い出は、いつでも輝いているのだろう。
「無論、それが過去の出来事であり、戻る事の叶わない平穏だと理解はしている。だが、理解はしていても懐かしんでしまうことはあるんだ」
「良いんじゃない? それで戦い続けられるのなら、問題ないよ」
501に集った仲間達。それぞれの胸に、それぞれの守りたいもの、思いを秘めて戦いに赴いている。
過去に失ったものを追いかけているもの、現在のあり方を守りたいもの、未来を守る為に戦っているもの。最終的な目的は、みんなバラバラなんだ。
だけど、それで良いと思う。それだからこそ、良いんだと思う。
戦場でのみではなく、日常生活でもお互いを支えていける。そんな環境を作れているのだから。
「なぁ、ハルトマン。私達は母国を取り戻せるのだろうか? カールスラントの土を踏む事が出来るのだろうか?」
「その為に戦っているんだろ? なら、大丈夫じゃない?」
ただ、自分の目標であるものが揺らいだ時、弱くなってしまう。どれだけの実力を備えていても、心が不安定なら何も出来なくなってしまう。
まさに、今のトゥルーデだよね。
落ち込んでいる誰かを励ましたり、慰めたり。そういったことは苦手なんだけどな。
「誤魔化すな、ハルトマン。現実的に出来るのか、出来ないのかを聞いているんだ。希望的な観測に意味はない」
「そうは言ってもさ、現状だって良く分かっていないんだし。答えようがないんだけどね」
ウィッチとして空を飛べるのは、大体20歳くらいまで。
それを境にして急激な魔力の衰退が起こり、空を飛ぶことさえ難しくなってしまう。
そうなってしまえば、どんなトップエースも守る側から、守られる側へと移らざるえない。もう、戦うことは出来ないのだ。
多分、トゥルーデはそれが怖いんだ。祖国を取り返せぬまま年齢を重ね、戦えなくなってしまうのが怖いんだ。
祖国奪還作戦に参加できないことを、その場で戦えない事を恐れている。
「ウォーロックの助けがあったとはいえ、ガリアの開放は出来たんだ。それを実例として数えるのなら、不可能ではないはずだよ」
「ならば、どうして出来ると断言してくれない。何故、そのような曖昧な返事しかしないのだ?」
「トゥルーデだって分かっているでしょ? ガリアとちがってカールスラントは内陸部にある。ネウロイの勢力のど真ん中といえる場所に、存在しているんだよ」
複雑な経緯を辿ることにはなったけど、ガリアの開放は人類にとって大々的な勝利と言える。
ネウロイの巣を破壊し、安全圏を手に入れたのは間違いなく勝利だよ。
だからと言って、カールスラントを奪還できると決まった訳ではない。
ネウロイ側にも今までになかった動きが見られるし、もしもロマーニャの開放に失敗した場合、カールスラントの奪還は夢物語になってしまう。
私としても、そんな現実は認めたくないし、予想したくもない。
だけど、現実的には考えておく必要があるんだ。逃げていては、何にもならない。
「だから、焦っても仕方ないんだよ。私達は、私達に出来る範囲でやれることをやる。そして、後に継いで行く必要がある」
私達の世代で、ネウロイとの戦闘が終わるかもしれない。
今まででは考えられなかった可能性が出てきたせいで、みんなが焦り始めているのを感じる。
勝利の為に、奪還の為に、今まで以上の力をいれているのが分かる。
だけど、少し冷静になって考える必要はあるんだ。
運良くネウロイとの争いが終わり、ネウロイの巣も駆逐できたとする。
だけど、そこで止まれるの? 今まで戦い続けてきた世界が、平和をすんなりと受け入れられるの?
今現在だって、自国の利益を優先しようとしている人はいるんだよ?
その人達は、戦争がなくなったら、軍部は戦争を止められるのかな?
「何が出来るのかを考えているのは立派だし、トゥールでの考え方も分かるよ。だけど、焦り過ぎのはダメ。悲劇しか呼ばないんだから」
なんて、詭弁だろう。私が心配しているのは、そんなことじゃないのに。
トゥルーデを心配していたとしても、他の言い方だってあるはずなのに。
今の生活を守るのも大切だとか、クリスが心配するから無茶は良くないとか。色々と口実はあるはずなんだけどな。
「ハルトマン……」
「まぁ、そんなこと言って、頑張りたくないだけなんだけどね」
実際のところ、頑張りすぎているトゥルーではともかく、私はもう少し頑張るべきではある。
それ自体は分かっているんだけどね。やっぱり、面倒な事はやりたくないんだよ。
「お前、意外と考えていたんだな」
「言ったでしょ? 頑張りたくないだけだって、さ」
バランスを取る為にも、私はサボっているくらいが丁度良い筈なんだ。
何かあった時にすぐ動けるように、悩んでいないのが正しいスタイルのはずなんだ。
だから、そんなふうに思われるのは遠慮したいな。
「そんなことよりさ、朝御飯食べに行こうよ。今日の当番は宮藤でしょ?」
「ん? ああ、そうだったな。まったく、お前が寝坊しなければこんなことにはならなかったんだ」
「あはは、ごめんごめん。いつもの事なんだから、許してよ」
さっきまで考えていたことも、可能性の1つでしかない。いくつもある未来の1つでしかない。
だから、深く考える必要なんてないんだ。もしも程度の事に怯える必要はないんだ。
だから、今は朝食の事だけを考えようよ。その後には訓練も待っているんだし、ね?
――さて、今日も頑張りますか