テーマ：平和－２ - 雨の降る日に

我々は人類の存亡をかけて戦っている。戦えるものが限られている以上、各人にかかってくる期待と責任は非常に重いものとなる。
しかし、それを重荷と感じることはない。少なくとも、私にとっては重荷と成ることもない。
負けてしまえば自分も、大切なものも失ってしまう。そんな大切な戦争に、戦う者として参加出来る事は正直ありがたい。
何も出来ず、ただ怯えているよりは何倍もマシ。この手で大切なものを守り、未来へとつなぐことが出来る。
そう思っているだけで、どれだけ難解な局面であっても諦めることはなかった。
自分に出来る事を探し、必死になることができた。
仲間の背中を守り、笑顔を守ることが出来た。
それは確かに私の力となり、空を飛ぶための力をくれている。
この世界を守りたい、祖国を奪還したい。
そう願っている私に、力をくれる。
「クリス……」
写真の中の妹は、笑っている。
私の記憶の中にいる妹も、笑っている。
しかし、現実はどうだ？　クリスは今も笑っているのか？
ダイナモ作戦の際、私は傍にいてやることが出来なかった。軍人として、国を守るものとして、戦わなければいけなかった。
クリスなら分かってくれる。説明など必要ない。
そんなふうに思い込んでいた。
果たして、それは正しかったのだろうか？　本当に、クリスは分かってくれていたのだろうか？
私が思い込んでいただけで、私が勘違いしていただけで、本当のところは違うんじゃないのか？
そう、思えてならない。真実は、私の手など届かない。あまりにも離れたところにあるのではないか？
この手に力があるとかに違いして、人類を守るんだと思い込んで――本当にそうでないと、誰が言い切れる？
力には責任が伴い、義務が生じる。
私という個人の意思ではなく、ウィッチとしての、カールスラント軍人としての行動が求められる。
それに対し、応えているつもりだった。応えられているつもりだった。
スコアを重ね、勲章を授与し、軍での地位を得た。
これこそが証なんだと。私が積み重ねてきたものなんだと。これがあるから、私は必要とされているのだと。
そう思い込んでいたんだ。
確かに、軍人である以上は間違っていない。軍として、規律としては間違っているはずがないんだ。
だが、人間としてはどうだ？　人間として、個人での証はないのか？
軍人であること意外に、私がやれることはないのだろうか？
戦い以外で、私の力を役に立てることは出来ないのだろうか？
戦いが終わった後、戦争が終わった後、戦えなくなってしまった後。私に出来る事はあるのか？
料理くらいなら出来る、復興を手伝うことだって可能だ。
だけど、それは本当に私である必要があるのか？　私が留まって、やっていてもいいことなのか？
「分からない」
戦いを離れ、軍を離れた私に、ソコにいるだけの価値があるのだろうか？
クリスに多くのものを残す為にも、戦い続けるべきではないだろうか？
魔法力がなくなったとしても、成人したとしても、私にやれることはあるはずだ。
それを探し、そこへ行くための準備をしておくのも悪くはない。
まともにやっているだけはたどり着けそうもないし、多少の無茶で済むのなら問題ないだろう。
「問題があるとすれば、ハルトマンか」
やつにバレてしまった場合、面倒なことになるだろう。
１人で生活できるのか怪しいヤツではあるが、気遣いだけはそれなりに出来る。
同室である私がなんらかの行動を起こしていれば、調べて忠告ぐらいしてくるかもしれないな。
心配してくれるのはありがたいことだが、今回はそうも言っていられない。
私の信じる未来の為にも、自分自身を貫くためにも、譲るわけにはいかない。