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エイラーニャ テーマ朝日
暗闇をたたえていた夜空に光が差し、お日様が顔を出す。
冷たい空から、暖かい空へとバトンタッチするこの瞬間、私はいつも不思議な感情に囚われてしまう。
「どうして、かな?」
夜間哨戒の終わりを告げる、この時間帯。いつも目にしているはずなのに、この思いが消えることはない。
地上に降りた後も、私の胸にくすぶり続け。私の心に残り続ける。
泣きたいような、笑いたいような、複雑な感情。
だけど、それは私を苦しめることはない。何かを教えてくれるように、諭してくれるように私の心に残り続けるの。
「私はどうすればいいの?」
この心に残り続けている思い。それとどう向き合えばいいのかな?
真っ直ぐにそのまま受け入れるには、何かが分からない。分からない以上、私はそれを受け入れられない。
悪い気持ちではないはず。泣きたくはなるけど、悲しい気持ちではないはず。
なら、どうして私には分からないの?
空を見つめて、空を飛んで。今ここにいて感じていることなのに、感情の正体が分からない。
みんなも、こんな気持ちになったりするのかな?
それとも、私だけしか感じていないの?
「エイラ、どうなのかな?」
私と同じように、朝焼けの空を飛んでくれる彼女。エイラであれば、同じようなことを感じていないかな?
夜が足早に去っていき、朝がゆっくりと広がっていくそら。この空で、同じようなことを感じていてくれないかな?
もしも同じことを感じてくれていたら、嬉しいな。
「眠い……」
だけど、これ以上考えるのは寝てからにしよう。今日は高高度の偵察だったこともあり、いつもより疲れた。
幸いにしてネウロイは見当たらなかったけれど、寒かったから魔力の消費が激しかった。
もしもあの状態で遭遇していたら、かなり厳しい戦闘になっていたはず。寒さから身を守り、ネウロイのビームをシールドで防ぎ、攻撃をしなければいけない。
それら全部を同時に行えば、あっという間に魔力を消耗しきってしまう。
「1人では無理、かな」
そんな極限ともいえる環境で、1人で戦うのはとても怖い。温かさから離れた、そんな世界で戦うのはとても怖い。
今の私で、どれくらい戦えるのかな? ちゃんと、みんなを守れるのかな?
「おーい、サーニャ。お疲れ様ー」
「エイラ?」
魔力の運用方法と、回避方法を考え出した頃、私の耳に元気な声が聞こえてきた。
思わず周りを見渡してみたけれど――流石に姿はない。基地から、かな?
「夜間賞秋は終わりだろ? 一緒にご飯食べようよ」
「……エイラ、また起きていたの?」
基地に帰る前にエイラの声を聞けた。それはとても嬉しいことだけど、高高度は通信が入りにくいはずよ?
一体いつから、通信室で待機していたの?
何より、エイラが私を心配してくれていたのなら、徹夜しているかもしれない。
待っていてくれるのは嬉しいけれど、それが原因でエイラが苦しむのはイヤ。前に伝えたよね?
エイラは、もっと自分自身のことを心配してほしい。私は、元気なエイラが好きだって。
「ち、違うぞ。今回は、その……早起きをしたんだ。ほら、扶桑の言葉に早起きは三文の得ってあるだろ?」
言葉に混ざった棘を感じたのか、慌てて言い訳をするエイラ。
怒るつもりはないけれど、本当にどうにかしないと、いつか倒れちゃうよ?
エイラが私を心配してくれるように、私もエイラを心配しているのだから。この気持ち、ちゃんと知って欲しいな。
けど、押し付けるのではなく、受け入れてもらおうと思ったら、どうすれば良いのかな?
どうやって伝えれば、エイラの負担にならないように出来るかな?
◇
「そっか。だから、私は……」
エイラへの説明、説得を考えていた私。その心に残り続けていたものが、私に答えを教えてくれた。
朝焼けを見て感じた感情が、不思議な思いが私に教えてくれている。
どうして、泣きそうになったのか。
どうして、笑い出しそうになっていたのか。今の私になら全部分かる。分かってしまった。
「エイラに伝えたかった」
私の気持ちを、心配している、愛しく思っている、この気持ちを上手に伝えたかった。
きちんとエイラが受け止められる形で、そのまま伝えられる形で伝えたかった。
無理やりでもなく、促すのでもなく、ただ受け入れられるように伝えたかった。
「答えが、見つかった。そこにあった」
だから、私は泣きそうになったの。
探していた答えがあるから、目に見える形であったから、泣きそうだったの。
「嬉しかったんだ」
言葉だけで伝えるのではなく、思いが伝わるまで傍にいればいい。
そう、教えてくれるから。
言葉だけで、気持ちだけで説明するのではなく、エイラが私の心を感じられるほどに傍にいればいい。
そう、見せてくれたから。
時間がなくて難しくても、努力すれば必ず伝わる。ずっと繰り返していれば、エイラに届く。
それを感じさせてくれるものが、朝焼けにはあったの。
夜が反発することなく朝を受け入れ、朝も強制することなく夜と入れ替わる。
そして、時間が立てば昼は夜を受け入れ、夜は元々いた場所へと帰ってくる。
季節によって変動し、雲に隠れて分かり辛いことはあるけれど、それでも私には凄いことだと思う。
自分のいる場所、自分のいた場所を相手に譲れるなんて。それをずっと繰り返しているなんて――
「すぐには、難しいかもしれない」
「サーニャ、どうかしたのか? よく聞こえないんだけど」
「なんでも、ないわ」
朝と夜。昼と夜。そして、太陽と月。
それらが長い年月をかけて作ってきた関係を、短い間で取り入れるのは難しい。
だから、私達も同じように、長い間傍にい続ければ、いつか心が伝わるはずだから。
――焦らずに、ゆっくりいこう