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寒かったです (・M・)
エイラーニャ テーマ;雨 です
小さな楽しみ幸せを、重ねていけばいいんです
「雨、か」
明け方杉から降り始めた雨は、そこらじゅうに水溜りを作り本降りとなった。
天気予報では、雨だって言ってたのにな。なんで、今日降るかな?
昨日とか、明日ならいくらでも我慢できたのに。
「止みそう?」
「んー、無理だな」
現在占ってみても、結果は変わらず。どうやら、1日中降り続けるみたいだ。
「ごめんな、サーニャ」
1ヶ月も前から計画し、やっと許可が取れたのに。ミーナ中佐、明日も休みをくれたりはしないよな。
部屋の隅に転がるシートやバスケットも悲しそうだ。
「どうして、エイラが謝るの?」
「ピクニックに行きたいって、そう言ったのは私だろ?」
それに、昨日の占いでも良い結果自体は出ていたんだ。ただ、私がその結果を天気だと、そう勘違いしただけの話。
外れたのか、それとも別の意味だったのか。どっちにしても、今は意味がない。
「折角、2人で休みが取れたのに」
最前線であるブリタニア。そこに基地を構えている私達は、常に警戒態勢を強いられている。
そんな中で、やっと許可が取れたのに。サーニャとの外出許可が、やっと下りたのに。
「エイラ、落ち込まないで」
「サーニャは悔しくないのか?」
確かに、落ち込んでも現実は変わらず、雨は降り続けている。
サーニャが励ましてくれているんだし、私としては元気になりたいんだけど……ごめん、今は無理だな。簡単には立ち直れそうにない。
今日の為の計画を入念に練り、何度もシミュレートを重ねたんだ。今日こそ、ちゃんと告白する為の練習を重ねたんだ。
それなのに、雨だぞ? 落ち込むどころか、へこみそうだ。
「私、雨の日も好きだから」
元々が内向的で、昼間に出歩くことは少ない。そんなサーニャにとっては、久しぶりの外出になるはずだったのに。
折角手に入れたチャンスだったのに。
どうして、天気なんかに邪魔されるんだ?
私か? 私が悪いのか?
「ありがとな、気を使ってくれて」
だけど、いつまでも落ち込んではいられない。時間は有限なんだ。
ピクニックに行けなくなった以上、それに代わることをしなければ時間が勿体無い。
そうだよ。折角、サーニャと一緒にいるんだ。
たかがピクニックに出かけられなかっただけで、それだけのことで落ち込んで溜まるか。
「……はぁ」
まぁ、そうだよな。心が沈んだままなのに、簡単に復活できるわけもないか。
サーニャの前では笑顔でいたいのに、楽しい時間を満喫していたいのに、それすらできないのか。
情けないな――
◇
「ら~、ら~♪」
暗く、沈んでしまった私の心。それを救い上げてくれるのは、やっぱり彼女の声だった。
「サーニャ?」
歌っているのか? 私の為に、歌ってくれるのか?
いつもなら、嫌がるのに……。
「エイラ、雨に負けないで。雨を楽しむの」
「雨を楽しむ?」
ピクニックに行けなかった、サーニャの休日を潰してしまった。そんなふうに悩んでいても、何も進展しない。
ただ思考の渦に囚われ、ぐるぐると同じ場所を回っているだけだ。
それなら、雨を楽しむようにすれば良いって、サーニャはそう言ってくれているのか?
「外出できないのは残念だけど、仕方のないことよ」
悲しそうに笑うサーニャ。
だけど、その顔に陰りはない。事実を受け止め、その上で何をするか決めた顔だ。
「だけど、心まで沈めてしまう必要はないわ」
外出は出来ない。ピクニックには行けない。
これは変えようのない事実。
ただ、その事実を受け止めるのか、押しつぶされてしまうので、今後の行動は大きく変わってしまう。
「今、2人でここにいる。それを大切に、ね?」
そう、何よりも大切なのは、私達2人で一緒にいられること。
サーニャの傍に私がいられることなんだよな。それを大切にしないと、何の意味もない。
「それに、雨の音を良く聞いてみて」
そう言って、窓の外を振り返るサーニャ。その仕草が綺麗、思わず見惚れてしまいそうになる。
銀色の髪、白い肌。彼女のイメージにぴったり過ぎる。
「色々な音があるでしょ? その1つ1つを聞いて、歌にするの」
サーニャに促されて、集中してみる。雨の音、1つ1つを聞き分けようとしてみる。
窓に当たる音。屋根に落ちる音。水溜りではねる音。
壁を伝って流れる音。草むらに落ちて、葉っぱを揺らす音。
1つ1つは小さいけれど、これだけの音が集まればオーケストラにも負けない豊かさが感じられる。
「ね? この部屋がステージになるでしょう?」
太陽の光が届かないせいで、さっきまではただ薄暗かった部屋。
移動したわけでも、晴れたわけでもない。
なのに、どうしてだろう? さっきよりも色鮮やかで、見ているだけで心が躍るような、凄く素敵な部屋に感じられる。
「その中で歌うのも、素敵だと思わない?」
そっか、サーニャのこの歌は、雨の音を数えたものだったっけ?
私としたことが、そんなことも思い出せなかったなんてな。ダメだなぁ。
静かな雨の音に、主張することなく綺麗に添えられたサーニャの声。その2つが溶け合って、綺麗なハーモニーを奏でている。
観客は私だけ、なんて豪華なコンサートなんだろうな――
◇
「ごめんな。本当なら、私が元気付けるはずだったのに」
拍手と共に漏れてしまう謝罪。
多分、サーニャはこんな言葉を求めてはいないんだろうけど、言わずにはいられなかった。
「ありがとう、素晴らしい歌だったよ」
本当は、これだけで良い筈なんだ。これしか、贈っちゃいけない筈なんだ。
私はバカだから、上手く立ち回れないだけ。
私は素直になれないから、伝えるのが下手なだけ。
「……最近、忙しくて夜間哨戒に一緒に行けてないだろ? だから、今日くらい一緒にいたかったんだよ」
一緒にいられるなら、傍にいられるならそれで良かった筈なのに。いつの間にか、高望みをしてしまった。
サーニャが望むことを、サーニャに笑顔を。そんなふうに思い込んで、焦っていたんだ。
本人が望んでいるのか、望んでいないのか。そんなことすら、考える余裕がなかったんだろうな。
「一緒にいるよ。私はエイラと一緒にいる」
「そうだな」
何かをする為に一緒にいるんじゃない。一緒にいる為に、何かを頑張っているんだ。
それを忘れないようにしないとな。
――雨が降ったら、部屋にいれば良いだけなんだ