テーマ；余裕 - 雨の降る日に

私はサーニャと相思相愛なんだ。告白出来ていないだけで、恋人も同然なんだ。
ただの仲間ではなく、もっと深い関係なんだよ。
だから、余裕を持たなきゃいけないんだけど。サーニャが他のやつと仲良くしてても、心配しなくて良いくらいにならないといけないんだけど……。
「サーニャを、そんな目でみんなー！」
やっぱり、我慢出来ない。今までと同じように、いや、今まで以上に反応してしまう。
そもそも宮藤がいけないんだぞ？
サーニャの肌は綺麗だとか、サーニャの肌は柔らかいとか――私でも、滅多に言えないことを平気で言うんだから。
なんでだよ、サーニャは私のことが好きなんだぞ？　私だって、サーニャが好きなんだぞ？
それはお前だって知っていることだろ？
「えー、少しくらい良いじゃないですか」
どうして、そこで講義すんだよ。どうして私達の仲を邪魔しようとするんだよ。
お前だって、応援してくれるんじゃなかったのか？
「いや、そう言われましても。綺麗なものは綺麗ですし」
「私は何も言ってない。勝手に心を読むなー！」
お前の固有魔法は治癒魔法だろ？　いつから読心術なんて身に着けたんだ。
ただでさえ手強い相手だったのに、増々やりづらくなったじゃないか。
「大丈夫ですよ。エイラさんの邪魔はしませんから。ちょっとだけ、ちょーっとだけ触らせてくれれば良いんです」
「宮藤。お前、そんなヤツだったか？」
軍と言うものを理解せず、感情のままに動く。前々から変わったヤツだとは思っていたけど、ここまで欲望に忠実だった覚えはない。
どちらかと言えば、こちらを気遣ってくれるような、そんなヤツだったよな？
私の記憶違いなのか？　それとも、これが本来の宮藤か？
「そんなこと、どうでも良いじゃないですか！　今重要なのは、サーニャちゃんが私を愛してくれているかどうかでしょ？」
「誰も、そんな話してねーよ。それと、サーニャは私のことがす……好きなんだから、勘違いするなよ！」
なんで、サーニャが宮藤を愛さなきゃいけないんだよ。私達は相思相愛なんだ。
今更、横から入ってこようとするなよ。私とサーニャの間に入ろうとしないでくれよ。
「えー、ついででも良いので私も愛して下さい。そして、エイラさんも私を愛して下さい」
「いや、待て。これ以上、話をややこしくするなよ。既に訳が分からなくなっているぞ？」
こいつは、本当に宮藤なのか？　姿形が同じだけで、まったくの別人じゃないのか？
そもそも、これは夢だろ？　いや、夢であってくれ。
いくらなんでも、こんなのが現実だなんてひどすぎる。
「私か？　私が悪いのか？　いつまでもサーニャに告白しないから、私が悪いのか？」
「何、訳の分からないこと言っているんですか？　そんなことより、愛しているってささやいて下さいよ」
「断固、拒否する！」
くそ、こんなのが現実であってたまるか。きっと、私はまだベッドの中で、これは夢なんだ。
もう、そう決めたんだ。ほっぺをつねって痛くても、両目からこぼれている雫も、全部夢なんだ。
「どうしたんですか、エイラさん？　みんなが愛し合えば、それで幸せになれるじゃないですか？」
「なんか、正論を言っているみたいだけど、そうじゃないんだよ。私とサーニャのは、恋愛なんだ」
夢の中で説明しても仕方ないのに。夢だから説明しても、何の意味もないのに。
どうして、醒めてくれないんだよ！
「甘いですね、エイラさん」
「いや、確かにサーニャには甘いかもしれないけど……仕方ないだろ、好きなんだから」
好きな相手には甘くなってしまう。甘やかしてしまう。
サーニャの笑顔を見たくてたまらないから、甘やかしてしまう。
「サーニャちゃんのことではありませんよ？　そんなの今更聞かなくても分かってますから」
「だったら、何だよ？」
「エイラさんの考え方が甘いんです」
いや、理想を押し通そうとするお前に言われてもな。
坂本少佐もそうだけど、扶桑のウィッチってみんなそうなのか？　どこか、変わっているものなのか？
「いえ、私達にとってはこれが普通ですよ。むしろ、変わっているのはみなさんの方です」
「だから、心を読むなって！　それに、聞きたいのはそんなことじゃないぞ」
夢とはいえ、心の中を読まれているのは気持ちの良いものじゃないな。
「そんなことじゃないって言われても、困りますよ。何が聞きたいのか、ちゃんと言葉にして下さい」
「……お前、心が読めるんじゃなかったのか？」
「あれ？　そういう設定でしたっけ？　んー、台本を確認するので、少し待ってください」
そういって、何もない空間をごそごそし始める宮藤。おい、まさか本当に台本出てきたりしないだろうな？
というか、お前には何が見ているんだ？　少し、怖いぞ。
「ひどいなー。見えるわけないじゃないですか。台本なんてあったら、怖いでしょ？」
「だったら、探すんじゃない！　少しだけ、ほんの少しだけ本気にしたじゃないか！」
「はぁ、これだから冗談の分からない人は……」
どうして、私がため息を疲れなきゃいけないんだ？
こんな、訳の分からない宮藤に呆れられなきゃいけないんだよ！
「まぁ、そんなことはどうでも良いんです」
「頼むから本題に入ってくれ。寝てるはずなのに、疲れた」
休息の時間だよな？　私は寝ているはずだよな？
なら、どうしてこんなにも疲れるんだ？　今にも膝をつきそうになっているんだ？
もう、誰でも良いから教えてくれよ。
「では、私宮藤芳佳軍曹がお答えいたしましょう」
「薄い胸を張らなくていいから、さっさと教えてくれ。ついでに、目覚める方法も教えてくれ」
「目覚める方法なんて知りませんよ？　自分で探して下さい」
……どうして、そっちに答えるんだよ。
私が知りたいのは、みんなが愛し合えば良いとか言ってる方なんだよ。
「良いですか？　みんながみんなを愛し合えば、好きとか嫌いなんて言う小さなことは気にならなくなります」
「まぁ、言ってることは間違ってないよな」
「そうなれば、エイラさんだって気軽に告白できるでしょ？」
――結局は、お節介を焼くのかよ。
まぁ、確かにそんな状況なら、私でも告白できるかも知れないけど。
「それじゃ、意味ないんだよ」
「どうしてですか？　告白できる環境が、整うんですよ？」
それはそれで、好都合なのかもしれない。いや、間違いなく、私にとっては好都合だ。
「私が、私自身がやらなきゃいけないんだ」
だけど、それでは意味がない。そんな形で告白しては、意味がないんだ。
「私が勇気を出して、きちんとサーニャに伝えることが、その行為に意味があるんだよ」
お膳立てを受けるのも、悪くはない。
だけど、全てを任せてしまったら、私は何を頑張るんだ？
何を乗り越えて、サーニャに気持ちを伝えるんだ？
「ありがとな。夢でまで心配してくれて」
またく、どんなギャグオチかと思えば、やることやるんじゃないか。
きちんと、応援してくれるんじゃないか。
多少間違えることはあっても、やっぱ宮藤なんだな。
「そうですか。では、頑張ってくださいね」
「言われるまでもないさ。私だって、この先の未来を見てみたいんだから」
今のままではない、そんな関係になった私達。
それを見てみたいんだ。そのときに見える光景を、知りたいんだ。
だから、もう少ししたら告白するさ。