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そんな感じで、ここ最近は書いてます
欧州各地に聳え立つ山々。人々の生活に影響を与えてきたそれらは、今やネウロイの侵攻を防ぐ天然の要塞と化している。
地上勢力が超えるには多大な労力が要り、また消耗も激しい。その上、上空からの襲撃にあった時には、諦めるしかない。
まぁ、そんな場所でも、私達ウィッチには関係ないけどな。ネウロイに襲撃される心配の少ない、恰好の休憩場所となっている。
「サーニャ、寒くないか?」
「ううん、私は平気だよ」
唯一の難点といえば、高所ゆえの寒さと雪。魔法力で補助していなければ、休憩には適さない。
空を飛んでいるのよりはマシだし、何よりこの景色を楽しめるのなら、訪れてみる価値はあるだろう。
一面銀色の世界。遠くに見える山の造詣もすばらしく、ため息が出てしまいそうだ。
「暗い顔すんなよ。きっとすぐに見つかるさ」
ただ、私の同行者のため息は、感動によるものではない。
「うん、ありがとうエイラ」
旅の目的が達成されないことの憂鬱と、心労によるものだろう。
何しろ家族を探し始めて1ヶ月以上が経過しているのに、手がかりすら掴めないんだもんな。
少しでも早く会いたいはずなのにな。
「サーニャのご両親だって、サーニャの心配をしているんだからさ。きっと大丈夫だよ」
だからと言って、私までが落ち込んでいては意味がない。
私はサーニャの心を支える為に、この旅に同行したんだ。こんな時こそ、頑張らないとな。
「気持ちが通じ合ってるんだし、心配することはない」
それに、サーニャには笑っていて欲しいから。少しでも、元気になって欲しいんだ。
「うん、ありがとう。エイラ、芳香ちゃんみたいな励まし方だね」
「え……私、宮藤みたいなのか?」
私が宮藤に似ている? 私が、宮藤みたい?
勿論、あいつだって悪い奴じゃないけど。何だか、複雑だ。
「あ、うん。芳香ちゃんみたいな励まし方だなって」
信じる気持ちがあればどうにかなる。努力すれば何でも出来る。
そう真っ直ぐに信じられる強さは、凄いと思う。目的の為に努力し続けられる、そんなところは凄いぞ?
「うーん、宮藤かー。悪い奴じゃないけど、一緒にされるのはちょっと」
「どうしてなの?」
あの手癖の悪さと、無節操なところ。それに、遠慮を知らないところは真似したくないな。
行動力と引き換えているのかもしれないが、もう少し落ち着いても言いと思うんだが……。
「いや、さ。別に宮藤が嫌ってわけじゃないぞ? ただ、宮藤みたいだって言われるのが、褒め言葉だと思えないだけなんだ」
私は、私の言葉でサーニャを元気付けようとした。
私は、私の気持ちでサーニャを勇気付けようとした。
それなのに、宮藤と比べられたのはちょっと寂しいな。
「まぁ、良いや。サーニャが褒めてくれているなら、私はそれで良いや」
なんにしても、サーニャが褒めてくれたんだ。その事実を受け止めて、素直に喜ぼう。
「褒め方や、感じ方なんて人それぞれだろ? だったら、色んな表現があって良い筈なんだ」
それに、サーニャはサーニャの言葉で私を褒めてくれているんだ。
私が私の言葉で伝えたのと、同じことをしてくれている。
「難しく考えなければ良いんだよな。サーニャが褒めてくれるんなら、私はそれで嬉しいんだから」
「うん」
励まそうとしていたはずなのに、私が喜んでどうするんだか。意味ないじゃないか。
そんな感じで、心のどこかから聞こえてくる声には同意するけど、嬉しいものは嬉しい。難しく考えずに、喜ぼう。
「それにしても宮藤の名前が出てくるなんて、もしかしてサーニャ寂しいのか?」
宮藤や坂本少佐は、扶桑皇国に帰ったんだよな。距離もあるし簡単には会えないから、サーニャは懐かしんでいるのだろうか?
それとも、感じていた寂しさが、ポロリとこぼれたのだろうか?
「どうして、そう思ったの?」
「部隊が解散して、大体1ヶ月たっただろ? そろそろ懐かしんだり、恋しくなったりする季節かなって」
「そうだね。ちょっと、懐かしいかもしれないね」
時期的には、丁度良いのかもしれない。あそこでの生活、思い出。それを振り返るには、ベストだろう。
だけど、懐かしんでいるだけなのだろうか? 寂しいんじゃないのか?
「なぁ、サーニャ。私と2人だけは寂しいか? どこかの部隊に所属して、もっと大勢と一緒にいる方が良いか?」
私はサーニャと2人きりでも、寂しくなんてない。邪魔されることもないし、からかわれる心配もない。
だけど、それは私の都合だ。
もっと広い範囲を探す為にも、部隊に所属するのはあるだとは思う。
まぁ、ストライクウィッチーズに所属したままみたいだから、応援という形になるだろうけどな。
「ううん、私は平気。エイラが傍にいてくれれば平気」
「我慢する必要はないぞ? 今この場には私とサーニャしかいないんだから」
寂しいなら素直に言って欲しい。私だけで物足りないなら、遠慮せずに伝えて欲しい。
サーニャはいつでも私を気遣ってくれるんだから、こんな時くらいは力になりたいんだ。
「本当に大丈夫。私はエイラと一緒にいられるなら、それで良い。エイラと2人でいられるなら、寂しさも薄れるから」
それは、本心からの言葉だろうか? それとも、私を気遣っての言葉だろうか?
サーニャの瞳を見つめていても、私にはそれが読めない。
「ふーん。まぁ、サーニャが良いなら、問題はないんだけどな」
読めないのなら、サーニャの言葉を信じよう。サーニャは寂しくないんだって。
私と2人でいられることを、喜んでいてくれるって――
◇
「ねぇ、エイラ」
「ん、どうかしたのか?」
先程のやり取りも終わり、ゆったりとした時間が流れている。
そんな中、サーニャが熱を帯びた瞳で私を見つめている。
一体どうしたのだろう?
「エイラは、もっと我侭になって良いのよ?」
「どうしたんだよ、いきなり」
何を言われるのか、告白でもされるのかとドキドキしていたのに……。
いや、サーニャにとっては一大決心をして、言ってくれているのは伝わるんだけど、な。
どう返事をすれば良いのか、分からないぞ。
「私のことばかり気遣わずに、エイラのしたいことをしてくれれば良いの」
私のしたいことか。特にないんだよな。
戦争中だし、ついでに軍属だし。サーニャみたいに、将来のことを考えているわけでもないしなぁ。
やってみたいことがないとは言わないけど、そこまで強く望んでいるわけでもない。
「ぼーっとしているところがあるから、心配なのは分かるけど」
確かに、サーニャは時々ぼーっとしていることがあるよな。
けど、ナイトウィッチなんだから、昼間に眠いのは仕方ないと思うぞ?
それに、眠たそうにしているサーニャは、最高に可愛いんだ。私の肩に頭を預けて寝ている時なんて、もう。言い表せる言葉がないくらいなんだ。
「私だってウィッチなんだから。エイラ程ではないけれど、戦えるわ」
おいおい、別にサーニャは弱くないだろ?
魔力針にフリーガーハマー。索敵と火力なら、お任せじゃないか。
私なんて、単機での戦闘はそこそこだけど、集団戦じゃいまいちだぞ?
「この旅だって、1人でも平気よ?」
1人でも平気なんて、そんな寂しいこと言うなよ。
それに、元々は私が勝手に……そっか、そうなんだな。
「もしかして、私は邪魔か? それなら、もっと早く言ってくれて良かったんだぞ?」
サーニャにとって、私は邪魔だったんだ。騒がしくて、五月蝿いから、離れたかったんだな。
それなのに、私は勝手についてきた。サーニャの力になるんだって、1人空回りしていたわけか。
「そんなことない、そんなはずはないよ。エイラが一緒にきてくれて、エイラが一緒にいてくれて、私は嬉しいから」
それなら、どうして遠ざけるようなことを言うんだ?
サーニャが何を言いたいのか、私には分からない。
「けど、私の我侭にエイラを巻き込みたくないの。エイラがやりたいことを邪魔してまで、私の傍にいて欲しいとは言えないの」
どうして言えないんだよ。サーニャが望むなら、私はずっと傍にいるのに。
傍にいて良いんだって、安心できるのに。どうして、教えてくれないんだ?
「エイラは優しいから、私を心配して付いてきてくれているんでしょ?」
サーニャが心配なのは事実だけど、それは頼りないからではない。
サーニャのことが大切だから、心配なんだよ。傍にいて、支えたいんだよ。
「けど、それではエイラのしたいことが出来ない。エイラは、エイラ自身の望む未来の為に、やりたいことをして欲しいの」
私の望む未来。それはサーニャの隣にいること。
私のしたいこと。それこそ、サーニャと一緒にいることだ。
「私の我侭に付き合うのではなく、エイラ自身の夢に向かって頑張って欲しいの」
私は、サーニャの我侭に付き合っているわけじゃない。私自身がいたいから、ここにいる。
私自身が望んで、サーニャの傍にいるんだ。
「ふーん、だったら私はこのままだな」
「このまま?」
「このままサーニャと一緒に旅をするさ」
だから、私のやることは何も変わらない。
私のいるべき場所も、変わらない。
「どうして? エイラはやりたいことがないの?」
「んー、私にもやりたいことはあるぞ?」
やりたいことがあっても、望んでいることがあっても、それはサーニャの隣で実現すること。
サーニャの隣にいる為に、実現させることなんだ。
「けど、それ以上にサーニャの傍にいたいんだ」
「そんなに私が心配? 私は頼りにならない?」
だけど、そのまま伝えたら、サーニャは遠慮するだろ?
私に迷惑をかけないようにって、無理をしてしまうだろ?
「違うよ、そうじゃない。私が傍にいたいと思っているから、ここにいるんだ。私自身が、サーニャの傍にいたいから。離れたくないから、一緒に旅に出たんだよ」
自分の心を偽るほど、私は器用じゃない。だから、それなりの隠し方しか出来ないんだ。
「私はもう、十分に我侭を叶えてもらっているさ」
そのせいで迷惑をかけたはずなのに。サーニャ、笑ってくれたよな。
恥ずかしいって照れていても、怒らなかった。私を拒絶しないでいてくれた。
「本当?」
「ああ、本当さ」
そんなサーニャだから、傍にいたいんだよ。
傍にいて、支えて、守ってあげたいんだ。
「エイラは、傍にいるだけで良いの? それだけで、本当に良いの?」
「サーニャ、どうしてそんなこと聞くんだ?」
「だって、エイラ、私のこと大好きなんだよね?」
私は、サーニャが大好きだ。目を見つめながら言うことはできないけど、大好きなんだ。
宮藤にも言われたし、練習はしているんだけどなぁ。
「それなのに、傍にいるだけで満足なの? 大好きなら、傍にいること以上を求めないの?」
それは、キスとかデートとかを言っているのか?
いや、間違いなくそのことなんだろうけど。まだ、ちょっと勇気が足りないんだよ。
「分からない。この先は変わってしまうかもしれないけど、今はそばにいること以上を求めようとは思わないんだ」
それに、今はそこまで求めようとは思わない。
サーニャがいて、私がいる。傍にいることが出来るだけで、私は満足なんだ。
「ごめんな。折角サーニャが聞いてくれたのに、気の利いた答えを返せなくて」
「ううん、エイラがそうしたいなら、それで良いよ。私もエイラが好きだから、その気持ちが分かる気がする」
私が告げる好きは、勢いのあるものなんだけど。サーニャの好きは静かなんだな。
「そっか……ありがとうな」
静かで、安心出来て、温かい。そんな、凄いものなんだな。
私の好きも、いつかはサーニャを安心させられるようになるかな?
――私の夢は、サーニャの隣にある