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「まだ暗いねー」
凍えるような風が吹き、頬を叩いていく。外灯には光が灯ったままで、日の光は見当たらない。
そんな寒い中、私となのはは初日の出を見る為に、出掛けていました。
「太陽が出てないからね。はぐれないように、手をつなごうか?」
太陽も昇らない早朝からのお出掛け。それ自体は楽しいけど。
ちょっと、寒さが厳しいな。
「にゃはは、フェイトちゃんに先に言われちゃった」
「え? あ、ごめんね」
少しでも寒さをごまかしたくて、ただそれだけで言ったんだけどね。
なのはと手を繋げば、心だけでも温かくなるから。
「なんで、謝るのかな? フェイトちゃんが格好良くて、眩しかっただけだよ」
……格好良いとか、眩しいとか。なのはに褒められるのは嬉しいけど、ちょっと複雑。
「そんなことないよ。私は、なのはの真似をしているだけだから」
私は、ただ真似をしているだけ。
なのはにしてもらって嬉しかったことを、そのまま真似しているだけだから。
「えー、なのはそんなに格好良くないよ。どちらかといえば、可愛いを目指しているのに」
「そうだったんだ」
SLBを撃っている時とか、私に手を差し伸べてくれた時とか。凄く、格好良かった。
真っ直ぐで、澄んでいて。とても惹かれたのを覚えている。
「でも、大丈夫だよ」
「ほよ? なんで?」
けど、可愛くないなんて一言も言っていないから。
格好良いだけなんて、言った覚えはないんだけどなぁ。
「なのはは今のままでも、可愛いから」
本当に気付いていないのだろうか? もし、そうだとしたら、なのはは罪作りだね。
こんなにも私を惹きつけているのに、ズルいよ。
「側にいて、隣にいて。抱き締めたくなるほど可愛いから」
「けど、フェイトちゃんに抱き締められてないよ?」
それを言われると弱いんだけどね。今は出来ないよ。
初日の出を楽しみにしている人が大勢いるのに、その中で抱き締めるなんて。そんなの、恥ずかしくて出来ないよ。
「それは、その……人がいっぱいいるから」
「にゃはは、嘘だよ。ありがとう、フェイトちゃん」
「あぅ、なのはのいじわる」
からかっていただけなんだね。いじわるしているだけだったんだね。
私は、なのはに嫌われちゃうかもしれないって、不安になっていたのに。
あ、でも、今回が初めてじゃないし。そろそろ慣れないといけないなぁ。
「違うよ、なのはが意地悪なんじゃないよ」
嘘だよ。
なのは、みんなには優しいのに、私にだけ時々いじわるなんだ。
私は不安で泣きそうになっているのに、いじわるで済ませちゃうんだ。
「フェイトちゃんが、いじめたくなるぐらいに可愛いのが悪いんだよ」
「そんなことないよ。なのはの方が可愛いよ」
可愛いからいじめたい。そうなの? 本当にそうなの?
もし、そうだったとしても、私はなのはには適わないよ。
なのはみたいな可愛らしさは、私にはないよ。どちらかと言えば、格好良いになるみたいだから。
それについては少し不満もあるけど、みんなの意見だったし、間違ってはいないんだよね?
「分かってないなぁ、フェイトちゃん」
そんな私の悩みを放置して、なのはは笑顔で話しかけてくる。
あぅ、お話してくれるのは嬉しいけど、もう少しゆっくりでも良いんだよ?
どうして、そんな嬉しそうな顔で見つめてくれるのかな?
「フェイトちゃんの格好良さはみんなが見てるけど、フェイトちゃんの可愛さを知っているのは、なのはだけなんだから」
そして、こんな時に告げられる言葉は、決まって恥ずかしい台詞。
なのはにはとても似合うんだけど、私は恥ずかしくて顔を見れなくなってしまう。
「だから、なのはにとってのフェイトちゃんは可愛いんだよ」
「やっぱり、なのははズルいよ」
なのはは、私の弱いところを知っている。
なのはは、私の嬉しいところを知っている。
知っていて、受け入れてくれて、褒めてくれるんだ。
「えへへ、フェイトちゃんが可愛いからいけないんだよー」
だから、私はこの笑顔が大好きなのかな?
安心させてくれて、守りたくなって、抱き締めてくなる笑顔が――
◇
「曇りだね」
「うん。初日の出、見れないかもしれないね」
初日の出。その絶好のスポットである鳴海臨海公園は、生憎の曇り空。
とてもではないが、太陽なんて見えそうにない。
折角ここまできたのに、ちょっと残念だな。
「どうしよっか?」
「んー、このままここにいても仕方ないし、少し歩こうか?」
ここにとどまっていても、海風が寒いだけ。それなら少し歩いて、体を動かす方が良いだろう。
人気の無い所に行けば、なのはと2人になれるし……私って、何考えてんだろう。
「そっか。フェイトちゃん、ちょっと耳を貸して♪」
「良いけど、どうしたの?」
突然、何かを思いついたなのは。何か良いアイディアが浮かんだのかな?
あまり、乱暴なものでなければ良いけれど。
「雲の上、行っちゃおうか?」
「雲の上? あ、そうすれば見えるね」
私達には魔法があり、空を飛べる。天気なんて、関係ないんだ。
ちょっとズルをしている気もするけど、たまには良いよね?
「ちょっとだけ寒いと思うけど、大丈夫?」
「うーん、フェイとちゃんと初日の出見たいもん。それくらい、我慢するよ」
「ありがとう、なのは」
誰もいない2人だけの世界で、なのはと初日の出が見られる。
それは、とても幸せなことだから。
「フェイトちゃん、嬉しそうだね」
「そ、そうかな?」
どうやら浮かれすぎていたみたいで、なのはから注意されてしまう。
悔しいから、空の上ではいっぱい抱きついちゃおう。
「ここら辺なら大丈夫かな?」
「うん。でも、最初は低いところを飛んで、公園から出ちゃお。見つかったら、大変だもんね」
「了解、高町教導官」
流石、なのは。私なんて、早く飛びたくて仕方がなかったのに、ちゃんと考えているんだね。
「ぶー、フェイトちゃんにはそう呼ばれたくないよ」
「え、そうなの? 一度呼んでみたかったんだけど」
褒め言葉のつもりで教導官て呼んだんだけど、気に入らなかったのかな?
いつも呼ばれているはずなのに、なんでだろう?
「フェイトちゃんには、なのはって。ちゃんと名前で呼んで欲しいな」
「うん、今度から気をつけるよ」
「では、それでお願いします。テスタロッサ執務官」
……成る程、なのはが嫌がるわけだ。
目の前にいて、手も繋いでいるのに。心だけ、離れてしまったように感じる。
いつもとは違う呼び名。それが孤独にしてしまう。寂しい気持ちに、させてしまうんだ。
ごめんね、なのは。
「そろそろ、高度を上げても良いよ」
「うん、一気に雲の上まで行こうか」
前を行くなのはを追い、私もどんどんと高度を上げていく。
見下ろす町はまだ暗く、所々で明かりがついている程度。
んー、お正月はのんびり過ごす人が多いのかな?
『フェイトちゃん、もうすぐ抜けるよ』
『了解。行き過ぎないように気をつけるよ』
町の景色に思案を浮かべていた私は、なのはからの念話で現実に戻される。
危ない、危ない。あまり目立ちすぎて、旅客機とかに発見されると大変なことになるもんね。
「うーん、まだ真っ暗だね」
「そうだね。けど、地上と違って星が良く見えるよ」
分厚い雲を抜け、まだまだ夜の気配が残る空へと出た。そんな私達を迎えてくれたのは、満天の星空。
「2人だけの特等席だね」
「そうかもしれないね。他には誰もこれないよ」
魔法を使える知り合い、友人はいるけれど、空の上で一緒にみるのはなのはだけだろう。
彼女の隣で、彼女と一緒に見る。それは特別なことだから。
「にゃはは、日の出まではもう少しかかりそうだね」
「うん。でも、なのはと一緒なら、いつまででも待つよ」
お互いに手を握り、ただ相手だけを見つめる。私の視界は、なのはでいっぱい。
空の上でなら邪魔も入らず、2人だけの世界に浸れる。
「なのは、今日は誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ。付き合ってくれてありがとう、フェイトちゃん」
ただ寄り添い、日の出を待っている時間。
辺りは暗く、風は冷たいけれど、私の心はとても温かい。
なのはと同じ物を見て、同じことを感じられる時間。とても貴重で、何物にも代えられないこの時間。
「フェイトちゃん、もうすぐ日が昇るよ」
「うん。大丈夫、なのはと一緒に見ているよ」
空の色が、藍色からオレンジへと変化していく。初日の出だ。
星々の輝きは静かになり、また夜を待つのだろう。
「朝焼け、綺麗だね」
「うん」
ぽつりと呟いたなのは。
輝いているように見えるその横顔は、凛々しさと綺麗さを持っている。
けど、同時に儚さも感じられて、私を不安にさせる。
「どうしたの、フェイトちゃん?」
「なんでもないよ。なのはが綺麗だから見とれていただけ」
私の大切な人。私の守りたい人。
けど、今の私では彼女を守ることは出来ない。
強くなろう。誰よりも強く、何にも負けない強さを。
――私は、なのはを守りたい