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ぶ、文章が思いつかんですたい
昨日の分の、リバですたい
お暇でしたら、どうぞ~
「これは違うなぁ。……こっちもなにか、足りない気がする」
鏡の前で、服をあてては取り替える。さっきから何度も繰り返している行動だ。
別に観客がいるわけでもないし、こんなふうに1人でファッションショーをする趣味はない。
そんな私が、鏡の前で悩んでいる理由は1つ。
「明日は、フェイトちゃんとのデート」
久しぶりに重なった休日。その事が嬉しくてデートに誘ったら、2つ返事でOKをくれた。
フェイトちゃんにとっては久しぶりの休日だし、もしかしたら他に用があったのかもしれないけど……。折角だから甘えさせてもらおう。こういう時は、我侭な方がお得なんだよね。
「うぅ、回想している時間なんてないんだよ」
私は、フェイトちゃんをデートに誘った。それ自体は事実だし、OKをもらえたのは嬉しいこと。
だけど、内容は少し考えておけば良かったかも知れない。
「街中を歩くだけなんて、フェイトちゃんつまらなくないかな?」
中学生になり、もうすぐこの鳴海市から離れる日がきてしまう。私の住み慣れた、思い出の沢山あるこの町を離れる。
そう思った時、フェイトちゃんと歩きたくなった。何をするわけでもなく、ただ一緒に歩いてみたかった。
フェイトちゃんに出会って、フェイトちゃんとぶつかって、フェイトちゃんと友達になって。彼女との思い出の沢山ある、この町を。
それ自体は良いアイディアだと思ったし、だからこそフェイトちゃんを誘ったんだけどね。
「ただ歩くだけとなれば、ずっと手をつないでいられると思ったんだけど」
フェイトちゃんと歩くのなら、それだけでも楽しい。手をつないでいられるのなら、幸せになれる。
それは予想でもあり確信でもある。
だけど、一緒にいるのなら、ずっと傍にいるのなら。いつも以上に服装に気をつけないといけない。
「フェイトちゃん、大人っぽいんだもん」
隣に並んで歩く。それ自体はとても嬉しいこと。だけど、2人並んで比べられるのはちょっと遠慮したい。
格好良くて、綺麗で。憧れるからこそ、隣に立つのは難しい。
「って、そんなこと考えている時間ないんだよー」
デートは明日。時間は既に深夜。あと8時間もすれば、フェイトちゃんとデートに出掛けるんだ。
急いで準備しなくちゃ――
◇
うぅ……これはちょっと失敗かなぁ。
昨晩の内に服装は決まったのだけど、ちょっとだけ寝坊してしまった。
顔を洗ったり、髪をセットしたりする時間はあったけど。手袋も、マフラーも忘れちゃった。
「き、昨日まで暖かかったのにね」
風が吹き抜ける度に身体が震え、ちょっと情けないことになっている。
そう言えば、この前雪が降ったこともあったよね。寒くて当然か。
「そうだね。急に寒くなるから驚いたよ」
フェイトちゃんの傍にいるのに、ガタガタ震えることしか出来ないなんて。なんだか、やりきれないよ。
デート中なのに、フェイトちゃんの傍にいるのに。
「うぅ……寒いよぉ」
寒さで何も考えられない。いや、寒い意外何も考えられない。
これぐらいの寒さなら大丈夫なんて、ちょっと甘かった。全然、平気じゃないよ。
「――マフラー、貸そうか?」
「良いよ、私が取っちゃったらフェイトちゃんが寒いでしょ?」
忘れた私が悪いんだし、フェイトちゃんが寒い思いをする必要はない。
それに、ちょっとだけ待ってくれれば、もう少しましになるはずだから。ちょっとだけ、待って欲しいな。
「手袋もしているし、平気だよ。ほら、こっちにおいで。巻いてあげるよ」
まぁ、ここまで震えていたら説得力はないよね。寒いのは本当なんだから、どうしようもいないの。
風が吹けば体温が奪われ、どんどんと冷たくなっているような気がする。足が重くなっているような、そんな勘違いをしてしまう。
「良いもん、なのはは平気だもん」
「そんな意地、張らなくても良いのに」
意地は、張る為にあるんだよ。特に、フェイトちゃんが相手なら譲れないんだよ。
マフラーを貸してもらえるのは、嬉しいしありがたい。フェイトちゃんの匂いに包まれそうだし、貸してくれるのはとても嬉しいんだけど。
そこまでは甘えられないよ。
「違うよ。本当に平気なんだから」
私の限界が来るまで、フェイトちゃんがしびれをきらすまで、我慢比べするしかないの。
ごめんね、私の我侭なのに。フェイトちゃんにも、辛い思いさせちゃうんだよね?
うん、分かっているんだけど、素直に借りるわけにはいかないんだ。
「本当に平気なんだからね! フェイトちゃんのマフラーを貸してほしいなんて、全然思っていないんだから」
本当なら、貸して欲しい。暖まれば、フェイトちゃんともっと笑えるはず。
必要のない意地なんか張らずに、素直に借りていれば、もっと楽しめるはず。
それは分かっているよ? フェイトちゃんの気持ちを受け取るべきなのも、ちゃんと分かっているよ?
それでも、譲ることは出来ないんだ。
「フェイトちゃんのを借りたら暖かそうだなーとか、良い匂いがしそうでドキドキしていることなんてないんだから」
フェイトちゃんのマフラー。フェイトちゃんが、今の今まで首に巻いていたマフラー。
フェイトちゃんの首元を暖めて、体温が逃げるのを防いでいたもの。
それを巻けば、私は暖まるだけでなく、フェイトちゃんの体温と1つになれるけど。
「いっそのこと、一緒のマフラーに巻かれたいなんて思っていないし。もう少し余裕を持って起きるべきだったなんて、そんなこと思っていないんだから」
そんなことしたら、フェイトちゃんまで冷えてしまうよ。
私の体は冷え切ってしまっているから、フェイトちゃんが風邪をひいちゃうよ。
「私は、何も言っていないよ」
うん、言われていないんだけど、先に言わないとするでしょ?
私の為なら風邪なんてひいても良い。そんなふうに言っちゃうでしょ?
嬉しいけど、それは私が悲しいから止めて欲しい。フェイトちゃんまで寒くなっちゃうのは、嫌だから。
うう、けど本当に寒いよ――
◇
「……くしゅん」
「えーと、寒いんだよね?」
くしゃみが出ちゃいました。良い訳が出来ないほど、はっきりと。
くしゃみが出てしまいました。
「寒くなんて、ないもん」
それでも、ここは譲れないんだよ。
お店の中に入れば暖かいはずだし、あと少しの間だけなんだ。頑張ろう。
「あはは」
もう、笑わないでよー。これでも、頑張ってるんだからね。
フェイトちゃんに心配をかけないように、フェイトちゃんが笑っていくれるように、他にも色々頑張っているんだよ?
「ちょっとだけ暑くなったから、使っててくれると嬉しいな」
ふわりとした感触と、優しさに包まれるよな暖かさ。
「あ……その、ありがとう」
さっきまでの態度を貫くのなら、首から外してつき返さなきゃいけないのに。
さっきまでの意地を張り続けるなら、マフラーを今すぐ返さなきゃいけないのに。
私の口から出たのは、お礼だけだった。
「私こそ、ありがとう。なのはのお陰で、元気になれるよ」
あぅ、その笑顔は販促だよ。意地を張っていたのが恥ずかしくて、正面から見ることが出来ないよ。
私の大好きな笑顔なのに、私が求め続けている笑顔なのに、正面から見ることが出来ない。
私はフェイトちゃんに謝らなければいけないのに、その笑顔を見せられると口に出せないよ。
「なのは」
私の全てを包んでくれるような、笑顔。
私の全てを認めてくれるような、笑顔。
そうだよね、つまらない意地を張る必要なんてなかったんだ。
ずっとずっと、教えてくれていたはずなのに。
何度も、いつでも、教えてくれていたのにね。
ありのままの私でいれば良い。無駄な意地を張って、フェイトちゃんから逃げてはいけない。
全てを受け入れてくれるのだから、私は全てを伝えればよかったんだね。
「なのはが寒そうにしていると、私も寒いんだ。私の為に、マフラーを着けて欲しいな」
知っているよ。良く知っているはずだったんだよ。
フェイトちゃんは優しいから、誰かが泣いていたら傷ついてしまうんだ。
誰かの傷を、一緒に背負ってしまうんだよね。だから、私は笑っていようと決めたはずなのに。
私が意地を張れば、それがフェイトちゃんを悲しませてしまうんだね。
「むー、なんかフェイトちゃんズルいよ」
けど、ちょっとだけズルいな。その優しさが、仕草が。
ちょっとだけズルいよ。
「え? 私、なにかズルいことしたの?」
「どうすれば、私が素直にマフラーを借りるのか? どうすれば、私が寒くなくなるのか? そんなふうにずっと考えていたでしょ」
ただでさえ気を使わせてしまったのに、心配までかけてしまった。
本当なら楽しいはずのデートで、必要のない負担をかけてしまった。
これだと、私と一緒にいることが辛くなってしまうよ?
「だって、一緒に出かけているのに、なのはだけ寒いのは嫌だから」
「でも、悪いのは私なんだよ? 朝寝坊をして、準備をする時間がなかっただけなんだから」
今日の服装を決めるのに時間がかかって、予定通りの時間に起きられなかった。
フェイトちゃんに迎えに来てもらうまでに、準備を完了することが出来なかった。
それは、全て私のミスなのに。。
「それなのに、フェイトちゃんまで寒い思いをするのはおかしいの。なのはが悪いのに、フェイトちゃんが寒いのはおかしいの」
フェイトちゃんは優しいから、マフラーを貸そうとしてくれていたことには気付いていた。
それでも、私には私の意地があったから、素直にはなれなかった。我侭を言っているのが分かっていても、素直になれなかった。
「――いや、そんなことないよ。私は暖かいよ」
どうして、答えるまでに間が空いたのかな? 考える必要のない、簡単な答えだったと思うんだけど?
「フェイトちゃん、今恥ずかしいこと考えなかった?」
「そ、そんなことはないよ。気のせいだよ」
嘘だね。分かりやす過ぎる嘘だね。
もう少し落ち着いていないと、誰も信じてくれないよ?
「本当かなぁ? フェイトちゃん、恥ずかしがって言葉にはしてくれないのに、心の中では乙女全開でしょ?」
「乙女全開って……そんなことないよ」
格好良い、綺麗。そんな大人な表現の似合うフェイトちゃん。
けど、実のところかなりの乙女であることを、私は知っている。
恋人だから当然と言えばそれまでなんだけど、かなり夢見る乙女であることは発覚しているんだよ。
「なら、今思ったことを口に出せる?」
「そんなの恥ずかしくて出来ないよ!」
口には出せないような、物凄く可愛い乙女チックな妄想だったでしょ?
そうじゃなかったら、白馬の王子様さえ裸足で逃げ出すような、そんな台詞を考えていたでしょ?
「ほら、やっぱり。フェイトちゃんは乙女全開なんだね」
「うぅ、なのはのいじわる」
まぁ、私はそんなフェイトちゃんだって、大好きなんだけどね。
乙女チックでも、白馬の王子様でも、極度の恥ずかしがりやでも。フェイトちゃんは、フェイトちゃんなんだから。
「わっ!」
自分の考えていたことに恥ずかしくなって、フェイトちゃんへの愛しさがあふれてしまいそうで、抱きついてしまった。
やっぱりこうすれば、もっと暖かくなるね。
「えへへ、いじめたお返しだよ。こうすればフェイトちゃんも暖かいでしょ?」
私だけでなく、フェイトちゃんだって暖めてあげられるはず。
私の体温で、私の気持ちでフェイトちゃんを暖めてあげられる。
それは、うれしいことだね。
「うん……なのはがとても暖かいよ」
「私は、フェイトちゃんが暖かいよ」
じんわりと、胸の中に広がってくる暖かさは、とても大切なもの。
大切で、愛しくて、手放せないもの。フェイトちゃんといるからこそ、手に入れられたもの。
フェイトちゃん、ずっと一緒だよ――