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コート+マフラー+手袋
冬の定番ですね☆
これだけそろえば、そこそこ暖かいものです
白く冷たい雪が舞い、風が吹きぬける。そんな冬が、鳴海市に訪れていました。
「昨日まで暖かかったのにね」
「そうだね。急に寒くなるから驚いたよ」
それでも、私は暖かい人の側にいられる。側にいて、元気を分けてもらえる。
町が白く彩られても、吐く息が白くなっても、私は元気でいられる。
「うぅ……寒いよぉ」
けど、私の側にいる彼女はそういうわけにはいかないようだ。
背中を丸め、寒そうにカタカタと震えている。
「――マフラー、貸そうか?」
私と一緒に帰っているなのはは、私と違って軽装だ。
コートは身に着けていても、マフラーや手袋は使っていない。
「良いよ、私が取っちゃったらフェイトちゃんが寒いでしょ?」
「手袋もしているし、平気だよ。ほら、こっちにおいで。巻いてあげるよ」
今朝、慌てていた様子だったし、寝坊でもしたのだろうか?
この寒空の下を歩くには、涼し過ぎる格好だよ。
「良いもん、なのはは平気だもん」
「そんな意地、張らなくても良いのに」
「違うよ。本当に平気なんだから」
やっぱり、こうなってしまった。
歩き始めてすぐ、彼女が身軽すぎることには気付いた。気付いてはいたんだけど……言い出せなかったんだよね。
なのはは意地っ張りだから、取りに帰るなんてことしない。寒いからといって、私のマフラーを使ったりしない。
うん、それは良いんだ。なのはがそんな女の子であることは、知っているのだから。
ただ1つ問題があるとすれば、寒そうにしているなのはを見ると、私が悲しくなってしまうこと。
私と一緒に歩いているのに、私と一緒にお出掛けしているのに、なのはが無理をしているこの状況。そんな中で自分だけが楽しめるほど、私は冷たくはない。
出来ることなら、なのはに笑って欲しい。一緒に笑いあいたいと思う。
その為にも、私のマフラーを使って、少しでも温まって欲しいのだけど……。
「本当に平気なんだからね! フェイトちゃんのマフラーを貸してほしいなんて、全然思っていないんだから」
寒そうに震えているなのは。それをじっと見つめているのが、助けてあげられないのが辛い。
私には、なのはを救うことが出来る。少なくとも、今の状況を改善することが出来る。
「フェイトちゃんのを借りたら暖かそうだなーとか、良い匂いがしそうでドキドキしていることなんてないんだから」
それでも、なのはに拒絶され続けていたら、マフラーを巻いてあげることすら出来ない。
側によって抱き締めることも、私自身で暖めてあげることも出来ない。
「いっそのこと、一緒のマフラーに巻かれたいなんて思っていないし。もう少し余裕を持って起きるべきだったなんて、そんなこと思っていないんだから」
「私は、何も言っていないよ」
何も言っていないし、何も言えていない。
なのはは頑固だから、失敗したらこうなることは判っていたのに。タイミングも計れないなんて、私ダメだなぁ。
なのはの側にいるのに、なのはの恋人なのに、判っていなかったんだ。自分自身が情けないよ。
――まぁ、なのはが混乱しているのは良く判ったけど。そこまで言わなくても、良いんじゃないのかな?
◇
「……くしゅん」
「えーと、寒いんだよね?」
我慢している端から、可愛いくしゃみをしている。うん、そんなところがなのはらしいよね。
しっかりしているはずなのに、どこかで可愛らしいミスをして和ませてくれる。
とても意志が強くてなんでも1人で出来そうなのに、私の居場所を残してくれる。
「寒くなんて、ないもん」
「あはは」
意地っ張りで、頑固者で、それでも優しくて。私を安心させてくれる。
もう、なのははこんなにも優しくしてくれるんだから、少しは私も頑張らないとね。
「ちょっとだけ暑くなったから、使っててくれると嬉しいな」
強引な時があっても良いと思う。それでなのはが笑ってくれるのなら、私は嬉しいから。
「あ……その、ありがとう」
「私こそ、ありがとう。なのはのお陰で、元気になれるよ」
側にいるだけで、私に元気をくれる君。側にいるだけで、心を暖めてくれる君。
とうしてなのかな? 君の怒った顔も、笑っている顔も大好きなんだ。
どうしてなのかな? 君の泣いている顔も、すねている顔も大好きなんだ。
全部見たくて、全部が愛しいんだ。
寒くて冷たいはずの、この道でさえ暖かく感じる。優しさで彩られていく。
なのは、君の優しさは不思議だね。
私を暖かくしてくれるだけではなく、私も優しくなれた気がするんだ。
なのは、君の笑顔は不思議だね。
私に嬉しいということを伝えるだけではなく、私も笑顔にしてくれる。
「なのは」
君の周りには、君を中心として不思議な優しさが満ちている。
笑うことが出来て、他の人の笑顔も見てみたくなる。笑顔を見る為に、努力をしてみたくなる。
愛しくて。暖かくて。柔らかくて。優しくて。
そんな、心地の良い場所を作ってくれる。
「なのはが寒そうにしていると、私も寒いんだ。私の為に、マフラーを着けて欲しいな」
私は、その場所を守りたい。私が大切だと思える君を、笑わせたいんだ。
だから、小さなことでも良い。大きなことでも良い。
君が笑顔でいられるように、努力しても良いかな?
「むー、なんかフェイトちゃんズルいよ」
「え? 私、なにかズルいことしたの?」
あら? 私の思いは通じなかったのかな?
んー、口に出していないから、伝わらなくて当然なんだけど。なのはなら、察してくれそうだったのにな。
「どうすれば、私が素直にマフラーを借りるのか? どうすれば、私が寒くなくなるのか? そんなふうにずっと考えていたでしょ」
「だって、一緒に出かけているのに、なのはだけ寒いのは嫌だから」
「でも、悪いのは私なんだよ? 朝寝坊をして、準備をする時間がなかっただけなんだから」
そっか、それで慌てていたんだ。
けど、そんなに早い時間ではなかったし、いつものなら問題ないはずなんだけどな。
「それなのに、フェイトちゃんまで寒い思いをするのはおかしいの。なのはが悪いのに、フェイトちゃんが寒いのはおかしいの」
「いや、そんなことないよ。私は暖かいよ」
なのはが寒そうにしているのに、私だけ暖かいなんて。
私は暖かいのに、なのはだけが寒いなんて。そんなのおかしいよ。
それに、なのはが暖かさを感じて笑顔を見せてくれれば、私の心がポカポカになるんだから。
「……フェイトちゃん、今恥ずかしいこと考えなかった?」
「そ、そんなことはないよ。気のせいだよ」
恥ずかしいことなんて、全然考えてないよ。口にも出してないし、考えてもいないよ。
考えていないよね?
「本当かなぁ? フェイトちゃん、恥ずかしがって言葉にはしてくれないのに、心の中では乙女全開でしょ?」
「乙女全開って……そんなことないよ」
確かに、恥ずかしくて口にしてないことも多いけど、乙女全開とまではいかないよ。
いっていないはずだよ。
「なら、今思ったことを口に出せる?」
「そんなの恥ずかしくて出来ないよ!」
あれ? 恥ずかしいことなんてあったっけ?
私、恥ずかしいことなんて考えていたっけ?
「ほら、やっぱり。フェイトちゃんは乙女全開なんだね」
「うぅ、なのはのいじわる」
私は、なのはのことを思って。ちょっとだけ自分の為でもあるけど、マフラーを巻いてあげたんだよ?
寒くないように、風邪をひかないようにって。
どうして、いじめられてるのかな?いたずらだって分かってても、ちょっと寂しいんだよ?
「わっ!」
なのはの言葉にちょっとだけ落ち込んで、いじけていたら左腕に軽い衝撃が走る。
ぎゅっと巻きつかれたような、しがみつかれたような――もう、なのは、突然だからビックリしたよ。
「えへへ、いじめたお返しだよ。こうすればフェイトちゃんも暖かいでしょ?」
じんわりと伝わってくる暖かさ。なのはの温度。
それが広がるにつれ、沈んでいた心が躍りだすのを感じる。
「うん……なのはがとても暖かいよ」
「私は、フェイトちゃんが暖かいよ」
なのはに抱きつかれたのは、初めてではない。結構頻繁に、人前でも抱きつかれているのに。
どうして、こんなにも安心出来るのかな?
悩みが全て解けていくような、私の全てが許されるような。守られているように感じるのは、何故だろう?
包み込まれ、抱きとめられ、受け入れられる。私の全てが、彼女で満たされていく満足感。
はぁ、もう怒る気力なんて残ってないよ。
今の君に伝えられるとしたら、それは1つだけ。
「大好きだよ、なのは――