テーマ　アルバム（F　side

「さ、遠慮なく入って。今、お茶を入れるから」
「はーい。お邪魔します、フェイトさん」
機動六課隊舎の一角。私と、なのはが借りている部屋がある。
普段であれば事務処理をしていたり、訓練メニューを作ったりと、なのはが忙しくしているところなんだけど。本日只今は、留守。
どうやら本局に呼ばれているらしく、私にも詳しい行き先は分からない。
「あは、予想通り可愛らしいお部屋ですね」
「そう、かな？　それは多分、なのはのお陰だよ」
１人ではちょっと寂しい部屋。そこにスバルを招待した。
正確には、相談を受けているだけなんだけど、気分的にはちょっと嬉しいかな。
普段は訓練にも参加できていないし、頼ってもらえるなんて考えてもみなかったから。
「本当ですか？　なのはさんの話だと、フェイトさんの私物も可愛らしい物ばかりだって、そう聞きましたよ？」
「……ほんのちょっとだけだよ」
進路相談に来ているはずなのに、随分とリラックスしている。
これも、なのはの教導の成果なのだろうか？
「くぅ……普段の凛とした態度と、そのギャップ。成る程、これが老若男女問わずに落としている、フェイトさんの実力ですね」
「何の話か分からないけど、なのはには叶わないよ？」
空のエース。その呼び名に真に相応しいのは、彼女だけ。
真直ぐに、自分の信じる道を貫く。その心の強さこそが、エースと呼ばれる由縁なのだから。
「それにしても、ペアルックばっかりですね」
「スバル、話が飛んでるよ？」
実は、緊張してる？
さっきからキョロキョロとしているし、落ち着きもない。
リラックスしていると感じたのは、私の勘違いなのかな？
「いや、その。羨ましいなぁと思いまして」
「そうなの？」
羨ましい？　私と、なのはの関係が？
んー、それ自体は嬉しいんだけど、素直に喜べる表現ではないよね？
「私とティアは、こんなふうにペアルックを持っていないんですよ」
成る程。自分達の関係を、私達に重ねていたんだ。
随分と仲は良いみたいだけど、恋人関係になったのかな？
「ティアナが恥ずかしがっているの？」
「それもあるんですけどね……」
どうにも、歯切れの悪い返事。私に教えるのを、躊躇っている感じだ。
確かにプライベートなことだし、戸惑うのも分かる。
「そっか。よし、ちょっと待ってて」
こういう時は、私から見せてあげれば良い。
相手の秘密を聞く前に、自分のことを知ってもらえば良い。
「スバルに、私の宝物を見せてあげるよ。なのはにも、内緒なんだからね」
私にとって、秘蔵の物。
とても大切な、誰にも渡せない物。
「アルバムですか？」
「そう。私となのはが出会ってから、今までの写真が入っているんだ」
私と彼女が知り合い、今まで歩んできた記録。
それを写真と言う形にして、ずっと持っている。
なのはに見つかったら、没収されてしまいそうだもんね。
「データでもない、原紙的な写真。火をつければ燃えてしまう、そんなもの」
管理も大変で、保管にも苦労する。
それでも、この形で持ち続けていることにも意味があるから。
「これは、私の心を支え続けてくれているそんな写真達」
写っているのは、全てなのは。
沢山の笑顔と、沢山の思い出と、沢山の想い。
それを伝えてくれる、大切な物。
「写真１つ１つに、私となのはの思い出がある。繋がりがある」
写真を見れば、思い出せる。感じられる。
あの日、そこで何をしていたのか。
あの時、そこで何を考えていたのか。
「それを途切れさせたくないから、それを紡ぎ続けていきたいから。私も前だけを向いて、頑張ってみたんだ」
なのはの隣にいて、温もりを感じていたいから。
なのはの隣にいて、同じ物を見続けていきたいから。
私は、努力し続けることが出来た。
「フェイトさんは強いんですね」
「それは違うよ。私の強さは、なのはに貰ったんだ」
みんな勘違いするけど、私は強くない。強くあることは出来なかった。
「私が強く感じられるなら、それはなのはがいるからだよ」
私１人では、何も出来ない。私だけでは、何もなすことは出来ない。
なのはと共に、なのはと一緒にいるから、何でも出来るんだ。
「私はなのはを愛しているし、なのはも私を愛してくれる」
なのはの隣にいたいから、私は努力した。
なのはの隣にいたいから、私は頑張れた。
「時には非難されることもあるけど、私達の周りの人は、私達の関係を認めてくれた。おめでとうって、祝福してくれたんだ」
非難されても諦め切れなかった、それだけのこと。
祝福してくれた一言。それが嬉しかっただけ。
「今は不安で先も見えないと思う。だけど、先が見えないからこそ、一生懸命になれる時もあるんだよ」
けど、それに気付けたのは随分と経ってから。
当時は何も考えていなかったし、ただ一生懸命だっただけ。
「ティアナと離れてしまうのが怖い？　ティアナの傍にいられないことが怖い？
「当然です。怖くないなら、悩みません」
いじわるな質問。聞くまでもない愚問。
けど、悩んでいる時には、これが効くんだ。
「大丈夫。離れてしまっても、同じ気持ちを持っていれば、また巡り合えるよ」
「ティアが他のことを考えていたら、無理ですか？」
離れている間、何があるか分からない。
それに恐怖し、怯えることは恥ずかしいことじゃない。
「そんな時は、スバルが会いに行けば良いんだよ。別の場所、別の世界にいたとしても、スバルなら会いにいけるでしょ？」
だけど、耐えるのが難しいなら、我慢しなくても良い。
泣きたい時には泣いて、会いたい時には会えば良い。
「けど、私とティアは……フェイトさん達みたいに、恋人同士ではないんです」
「んー、別に恋人である必要はないと思うんだけど。スバルは、ティアナのことをどう思っているのかな？」
恋人であること。それは大切なこと。
だけど、それが全てではない。それ以外にも、沢山の道がある。
「好き、です。けど、友達として好きなのか、恋愛感情なのか。私にはよく分からないんです」
友達に向ける、好き。家族に向ける、好き。
恋人にだけ向ける、好き。
その全ては同じ物で、全く異なる物。理解するのは、とても難しい。
「ティアがどう思ってくれているのかも分かりません」
それにプラスして、相手の事を考えた場合、今のスバルみたいになってしまう。
昔、私も経験しているから、痛い程に分かるよ。
「六課にいる間に、告白した方が良いのでしょうか？」
「別に、どっちでも良いと思うよ？」
答えが欲しい。答えを教えて欲しい。そう願っているのも知っている。
けど、教えてあげるわけにはいかないんだ。
「スバルにとって、私達は悪い見本なのかもしれないし、周りの人は騒ぎ立てるかもしれない」
困った時、身近なところから答えを得ようとしてしまう。
成功している人、後悔している人。友人に相談することもあるだろう。
「けど、大切なのは自分自身と向き合うこと。そして、相手を大切に思うことだから」
その全ては正しくて、同じように全てが間違いだから。
自分だけの、自分にとって正しい答えを探し続けるしかない。
「そうすれば、悩むことなんてなくなるよ。どうしたら良いか、その答えは自分の中にあるから」
そして、答えが見つかったら考える必要はない。
考えている時間なんて、なくなってしまう。
「やっぱり、フェイトさんは凄いですね」
「そうかな？　そんな目で見られても、私は私だよ」
キラキラした目で見られても、憧れられても、私は私だから。
他の存在にはなれないし、なろうとも思わない。
「弱くて、怖がりで、我侭で。どこにでもいる、存在だよ」
惨めでも、情けなくても構わない。
それが、嘘偽りのない自分であるなら、それで良い。
「ただ、譲れない想いがあったから、頑張っただけ。本当にそれだけだよ」
そんな自分なら、思いの通りに動けるだろう。
思いを、貫き続けることが出来るだろう。
「スバル、どうして強くなりたいのか考えたことがある？　その強さ、誰の為に使おうか考えたことはある？」
私の場合、考えて、悩んで。得られた答えは、１つだけだった。
なのはが愛していきたい。
ただ、それだけだった。
「もしあるのなら、その通りになれるように頑張れば良いの。それこそが、本当の自分なんだから」
その為に、世界を平和にしようと誓った。
なのはが戦わなくても良い様に、いつでも笑顔でいられるように。
「私はね、それを教えてくれた人がいた。その人を守りたいから、強くなろうって決心した。それだけのこと」
その方法も、その答えも、私は教わった物だったけど。
スバルなら、自分で気づくこともできるんじゃないかな？
「将来の道だってそうだよ。自分の心に聞いてごらん？　もう、答えは出ているはずだから」
目を背けて逃げるのは、とても簡単で。
目を逸らさずに立ち向かうのは、とても難しい。
だからこそ、私達が応援するよ。スバルの夢も、ティアナの夢も。
みんなの夢が叶うように、私達が応援するんだ。