テーマ；軸 - 雨の降る日に

何もかもが不安定で、全ての事柄が揺らいでいるこの世界。
昨日まで信じていた物が嘘になり、明日になれば本物に成り代わっている。そんなこと、別に珍しくもない。
自分の心にあるもの意外、信じられる物は殆どない。
「だけど、そんな世界で出会えたんだよ」
ずっと信じていける。嘘になることがなく、常に真実であり続けてくれる者を。私が疑わなくて良い、真実を教えてくれる人。
勿論、初めは違ったんだよ？
どうして、そんなことをするのか理解不能で、彼女の事は全然分からなかった。
何がしたいのか、何を思っているのか。それが全然分からなかったの。
分かろうとしなかったのもあるけど、全然別の者に見えていたんだ。
ただ、怖くて。私をいじめるだけの存在。理不尽の塊だとしか思えなかった。
「だけど、きっかけがあった」
なのはちゃんが繋いでくれたんだよね。私と彼女。接点はあっても、仲良く慣れそうになかった私達を、繋いでくれた。
やり方はちょっと強引だったけど、真正面からぶつかってくれたの。
初めてだったよ？　あんなにも遠慮なく、正面からぶつかってくれる子なんて知らなかったから。
私の知らない、私の気付けていない世界があるんだって。それを教えてくれた。
「あの時は、なのはちゃんに感謝しただけだったかな？」
いじめられているところを助けてくれてありがとうって。そんなことを言ったのかもしれない。
……私、ちゃんとお礼したよね？
ただ、物語はそれだけで終わらなかった。まだ、続きがあったんだ。
彼女が大切な物をなくしてしまって、私達は一緒に探した。雨の降る中、一緒になって小瓶を探したの。
「どうして、手伝ったのかな？」
いじめっ子を助ける理由。そんなものを、当時の私は持っていたのかな？
ううん、それはきっと違うよ。いじめっ子とか、そんなの関係なかったの。
目の前に困っている子がいる。泣きそうになっている子がいる。
それなのに、何もしない、何も出来ない冷たい自分がいるのを認めたくなかった。ただ、それだけの理由。
私は、私を守る為に行動したの。
「あの頃から、面白くなってきたのかな」
何をしてもつまらない。面白みのない世界。
予定調和で、平坦で。山も谷もない、つまらない道のり。
ソコをただ走って、レールの上を走って、単純に終わるんだと思っていた。
世の中の出来事は全て窓越しで、私には関係なかった。つまらない世界の事なんて、どうでも良かったの。
「けど、教えてくれたんだよね」
なのはちゃんは全力全開で頑張っていた。
だけど、それ以上に私にはあの子が魅力的に見えたんだ。
何でも知っているような、何でも出来そうな。そんな顔をしているのに、一生懸命頑張れる。
ちょっと人付き合いが苦手なだけで優しくて、とても温かいその子に惹かれたの。
「アリサちゃん」
あの時は興味を持っただけだと、そんなふうに思っていたんだけどね。今では、恋人関係にまで発展しちゃった。
私の心の真ん中にずっといて、喋る言葉が全て私の心に響いて、彼女の存在がどんどんと大きくなって。気付いたら、目で追いかけるようになってしまった。
私の少しだけ前を歩く彼女を。それでいて、私の手を引いてくれる彼女を。
私は好きになってしまった。
「不思議だったんだよ？　恋愛は、男の子と女の子でするものでしょ？」
だけど、私はアリサちゃんを好きになってしまった。女の子同士なのに、好きになってしまった。
幸いにして、アリサちゃんも同じ状態だったから良いけれど、あの時ふられていたらどうなっていたのかな？
また、世界から興味を失っていたのだろうか？
壊れてしまって、何もかもどうでも良くなって――
「もし、なんて話。考えても仕方ないよね」
現実的に考えないと。もしもなんて考え方、なんの意味も持たないんだよ。
大切なのは今であり、未来。過去はただ積み重なるだけで、大切な思い出になるだけ。
思い返した時に誇れるように、今頑張る事の方が大切なんだから。
アリサちゃんが私を信じさせてくれたように、安心させてくれているように、私も頑張らないとね。
「お待たせ！」
「あら、早かったね。そんなに走らなくても大丈夫だよ」
「何言ってるのよ。難しそうな顔をしているすずかを放っておけるわけないでしょ？」
……私、どんな顔をしているのかな？
ちょっと思い出に浸っていただけなのに、そんなに難しい顔していたのかな？
「まぁ、良いわ。そんなことよりも行きましょ。ここにいたって、何も始まらないわ」
「うん。いこっか」
私の物語は、アリサちゃんと一緒に始まって、アリサちゃんに手を引かれて進んで。アリサちゃんと一緒に終わるのかな？
そこまで先のことは分からないけど、どう進んだとしても楽しいことが待っていそう。