テーマ；歩み - 雨の降る日に

アタシが踏み出した一歩が、アタシ達の未来を決める。
右に折れるか、左に折れるか。ただ、それだけだというのに。
何でもなさそうな、小さな選択肢の積み重ね。それこそが人生だという。
「小難しい話ね」
別に、間違っているなんて言うつもりはない。
確かに、小さな選択肢が後で大きな結果をもたらすことは、けして少なくはない。
積み重ねられたものを変えていくのは難しく、場合によっては障害にすらなる。
「けど、その考え方は悲しすぎるわ」
今、教授が語っている内容は後悔ばかりだ。
過去にやった出来事が、自分自身のかせになる。邪魔をしていると訴えているだけ。
前を向くことをやめた、下ばかり見ている大人の理論よ。
つまらないわ――

　　　　　◇

気まぐれで取ってみた倫理だか、道徳だったかの講義。
内容としては、それなりに実のあるものなのかもしれない。
小さなことだからと楽観視せず、１つ１つの事柄を大切にする。
やり直せるなんて甘い考えを持たず、常に全力で頑張りなさい。
つまり、教授が言いたいのはそういうことでしょ？
「くだらないわ」
そんなの誰だって分かっている。再認識させることは大切でも、わざわざ講義で話すような内容ではない。
興味のある人間だけを集めて、研究室ででも話せばいいのよ。
言っていることが正しくても、受け取る人がいなければその意見に価値はない。
送り先を間違えているなら、ただ迷惑なだけ。
いくら講義をとったからって、全員がその話を聞きたいとは限らないのだ。
「ま、そんなこと分かっているんでしょうけど。もう少し、考えた方が良いんじゃない？」
どうせなら、具体的な話をすれば良いのに。ただ上辺だけを語って、大切だからってことだけを語って、なぜ必要なのか教えることはない。
いえ、直接教えなくても良いから、少しくらい触れるべきでしょ？
そうでないと、この講義には何の価値も無くなってしまう。本をさらっと読んで得られるような、浅い知識となんら変わりはない。
「まったく、こっちはどれどころじゃないのに……」
価値のなさそうな教授の話。そんなものよりも、アタシには優先させるべき話が待っている。
――すずかが、泣いていた。
尋ねても理由を教えてくれなかった。それどころか、誤魔化されてしまった。
泣いてなんかいない、アタシの勘違いだった言われた。
「誤魔化せると思っているの？」
涙を流していなければ、泣いたとは言わないの？
つらそうな顔をして、無理やり笑っているのは泣いているって言わないの？
「まったく、今度は何で悩んでいるのかしら？」
行動力の塊となり、いつもアタシを振り回してくれるすずか。
だけど、その心はけして強くなく、また単純でもない。
笑顔の裏で涙を流していたり、悩んでいたりするのなんて珍しくない。
そのせいで突然泣き出すことも……最近は殆どなかったのに、どうしたのかしら？
情緒不安定なわけでもなく、ただ悩み事が多過ぎるだけ。１つのことに対して、悩み過ぎているだけ。
「アタシじゃ、力になれないのかしら？」
すずかを助けたいと思う。すずかの悩みを知りたいと思う。
すずかの悩み事を半分以上を、アタシが占めていることは分かるから。
少しは頼ってくれても良いんじゃない？　どうして１人で悩んでしまうのかしら。
アタシはこんなにも、すずかを心配しているのに、ね。