【艦これ】唇に残して【ちとちよ】

明けました、おめでとう御座います。
こんなのですが、今年もよろしくお願い致します。

・ｗ・）　冬コミ、楽しかったよ。そして、合同誌の話も勿論出たよ。

そして、初詣SSなわけです。年始から艦これ書いてるわけです。
だって、可愛いし。それが正義だし。悩んではいけないのです、それは悪行です。

・ｗ・）　いい加減、カテゴリ作ります。思い出したときくらいに


さて、妹が心配すぎて、あわあわしているお姉ちゃんは好きですか？
姉を心配して、空回りしながらも頑張る妹さんは好きですか？
ええ、答えは聞くまでもないので、聞きません。
大好きですよね？
大丈夫、可愛いからそれが真理です。

　本当の願いは、口に出してはいけない。誰かに、神様にでさえ、聴かれた瞬間に叶わなくなってしまうから。

　ずっと、ずっと胸に秘めて、いつか叶う日を心待ちにするしかないの。最大限の努力を重ねながら、待ち続けるしかないの。

　大丈夫、私ならやり遂げられるわ。大切な妹の為に、私は諦めたりしないから。この痛みが幸せに続いている。

　

　

　　　　　　唇に残して

　

　

　深海棲艦との戦いに明け暮れ、世界の平和を守ろうとする日々。それこそが私達の日常であり、自らに課した使命だとは理解している。

　それに反対することもなく、悩んでも逃げることはなく、一緒に頑張ってくれている妹がいるのは、実のところ心強かったりします。

　ただ、軍属であり、戦うためにいるのだと理解していても、根は女の子だから、時々は遊びに行きたいと我侭を言いたくなるわけでして。

「千歳ねぇ、本当に大丈夫なの？　提督、怒ってたりしない？」

「ふふ、大丈夫よ。ちゃんと許可は取ってあるから」

　今日は、千代田と２人で初詣に来ています。本当は提督も着たかったみたいだけれど、秘書官である不知火ちゃんに捕まって、お説教されていたから、書置きだけして逃げてきちゃった。

　何より、恋人がいるのに他の艦娘に気を移すなんて、許せるはずないでしょ？　私は千代田のお姉さんでしかないのだから。提督の恋人にはなれないわ。

「んー、ちょっと心配だなぁ。千歳ねぇ、肝心なところで抜けてたりするし。行き先書いてないとか、そういったミスしてない？」

「ちゃんと初詣って書いて来たわ。場所までは書いてないけれど、問題はないでしょう？　今日中に戻るのだから、影響はないわよ」　１月１日、年の始まる大切な日。去年までの厄落としと、今年の抱負を胸に抱いて、初詣に来ているだけなのだから。怒られる必要はないわ。

　何より、この３日の間は休戦にするって、この間話が付いたところでしょ？　千代田、聞いていなかったのかしら？

　深海棲艦の方だって、１年中戦い続けていては、疲れるみたいだから。良く分からないところで、協定が結ばれていたりするのよ。

「なんか、納得できないけれど、良いのかな？　私としては久しぶりの外出だし、帰った途端に機嫌が悪くなるようなことがなければ良いんだけど」

「姉である私を信用しなさい。何より、提督が真面目に怒っているところなんて、私見たことないわよ？」

「そうなの？　最初の頃、不知火さんと結構やりあってたよ？　轟沈は許しませんとか、小破でも撤退しなさいとか」

　現秘書官である彼女は、かなり苛烈な性格をしている。いっそのこと過激と言ってしまっても良いのかもしれない。

　ただ、それが真面目な性格からきていることは理解しているし、だからといって提督が許してくれないのだって分かる。

　なるほど、最初の頃ならぶつかっていても、おかしくないかもしれないわね。流石、私より早く来ているだけあって、千代田は物知りだわ。

　けど、今聞きたいのは提督のことではないの。もちろん、不知火ちゃんのことでもないし、轟沈のことでもない。

　私が聞きたいのは千代田のことで、私が見たいのは千代田の笑顔なんだから。そこら辺、気付いてくれると嬉しいんだけれど、ちょっと難しいのかしら。

「その話は、また今度聞くわ」

　休日としてもらえたのは、今日だけなのだから。そういったことを考えるのは、明日にしましょう。遊ぶ時には、しっかり遊ばないとダメよ。真面目過ぎるのも考えものね。私、悪い影響でも与えてしまったのかしら？

「別に今じゃなくても良いけれど……そういえば、千歳ねぇは何をお願いしたの？　結構長かったみたいだけど？」

「大切なことよ。私が叶えたい、叶えて欲しいことをお願いしていたわ」

　この世に２人だけ。仲間がいても、友達がいても、家族と呼べるのは２人だけなんだから。妹は、千代田ただ１人だから。

　この子を失いたくはない。共に戦場に出たとしても、傷つけるわけにはいかない。私は姉なんだから、何と引き換えにしてでも守らないと。

　そこまでのものを望んでくれるかは分からないけれど、千代田が無事なら、私は笑っていられるはずだから。私の幸せの為には、あなたの笑顔が必要なのよ。

「それは、戦いのこと？　それとも、もっと先のことなの？」

「聞かないで、千代田。本当に望んでいることは、口に出してしまったら、叶わなくなってしまうの。大切な願いは秘めて、いつか叶う時を待ち続けるの」

　願いを口に出すことは、とても簡単。心の中にあるものを、言葉にして伝えるのは、難しいことではないでしょう。

　ただ、大切だからこそ、口に出してはいけない。自分の決意が揺るがないように、自分自身を甘やかさない為に、本当の願いを口にするのは止めておいたほうが良いわ。

　何よりも、本当の願いなんて、大体は恥ずかしいものなのよ。姉として、そんな醜態さらせるわけないでしょ？

　信用しているからこそ、話せないこともあるの。信じてくれると、確認しなくても分かるからこそ、伝えられないわ。

「私としては、千代田がもう少し大人になってくれると嬉しいわ」

　子供だと笑うつもりはないの。大人になったからといって、褒めてあげるつもりもないわ。

　ただ、もう少しだけでいいから、私のことを信じて頂戴。これくらいなら大丈夫だって、千歳ねぇはこれくらいではなんともないって、そう信じて欲しいの。

　そうしてくれるなら、私だって千代田を頼ることが出来るから。私の妹は、これくらいなら平気だって、応援してあげられるから。

「それって、私は千歳ねぇにとっては、手のかかる妹でしかないってこと？」

「分かっているなら、もう少し大人になって頂戴」

　手のかかる妹は可愛いもの。いつまでも守って、後ろから抱きかかえていたい。

　けれど、いつまでもそんなことをしていては、千代田の迷惑になってしまう。彼女がいつか歩き出そうとした時、私に気を使ってしまうでしょ？

　そんなの、私は望んでいないのだから。我侭だけを優先してはダメ。姉として、大人の女性を見せないとね。

「いつまでも私の後ろを追いかけて、姿が見えないだけで泣きそうになるのは治して頂戴」

「何よ、そんなことしてないわよ。勝手なこと言わないで」

　私の後ろを追いかけてくれる、私のことをいつも目で追いかけてくれる、そんな可愛い妹に苦労はかけたくない。幸せだけを掴んで欲しい。そう願ってしまうのは、姉としてはい方のないことでしょ？

　叶うか、叶わないのか、そんなことは知らない。

「この前だって、私が見当たらないからって一晩中探してくれていたでしょ？　朝には帰ってくるのに、こっちが心配になるわ」

　私は姉だから。子供とか、大人とか、そんなことの前に姉だから。千代田に心配されるのは嬉しいけれど、同時に悲しくもある。

　私の至らないところを見せ付けられているようで、ちょっとだけ苦しいの。

「どこに行くかも言わないで、書置きもせずに行くからそうなるんでしょ？　急にいなくなったら、心配だし、探すに決まってるじゃない」

「鳳翔さんのところとか、提督のところとか、飛鷹さんのところに行ったりもするわね」

「千歳ねぇ、意外と呑むわね。ついでに、飛鷹さんなの？　隼鷹さんなら分かるけど」

　千代田の言うことが、分からないとは言わないわ。私が妹であるのなら、帰ってこない姉を探すのでしょう。どんなに疲れても、探してしまうのかもしれない。

　けれど、姉である以上、私はそれを許可出来ないの。どんな理由があっても、千代田が危険にさらされる可能性がある以上は、反対する。

「姉としてね、積もる話もあるのよ。戦ってばかりの日々だし、潤いがないとやってられないわ」

　そういったところでは、彼女とも意見が合うのよね。あれで結構いけるクチだし。流石は、隼鷹さんの姉といったところなのかしら？

　あちら側は、私達とは別の問題を抱えているみたいだし、いつか力になりたいと、ちょっとだけ欲もあるのよ？　人助けをしている私の後姿を、千代田に見て欲しいって、子供みたいな願望を持っているわ。

「……なら、私は隼鷹さんと呑もうかしら」

　彼女達の問題はなんとなく分かっているから、今の千代田を向かわせるわけにはいかないの。今のあなたには、重た過ぎる話だから、まだ耳に入れて欲しくないわ。

「千代田は子供だからダメよ。お酒は大人になってから、嗜みなさい」

　混濁合わせて、飲み干せるようになってから。この世の不条理を、受け入れる準備が出来てから。

　あなたには、そんな覚悟を決めて欲しくないの。

「私、千歳ねぇとほとんど一緒のはずだけど？」

「全然、まだ子供よ。今をしっかり楽しめばいいでしょ？」

　子供であることを楽しめるのは、大人の視点かもしれないわ。今いる環境を理解するのは、子供の役割ではない。

　けれど、千代田は気付いてしまっているはず。子供でいることで、千代田を子供でいさせる為に、私が頑張ってしまっていることを。

　だから、ここまで反発するんでしょ？　大丈夫、いつかは大人になってしまうから、もう少し子供でいて頂戴。

「それに、姉って結構大変なんだから。千代田はいつまでも子供だし、提督は変に頼りにしてくるし」

「子供、子供って。確かに迷惑かけてるかもしれないけれど、そんな言い方ないでしょ？　私だって頑張ってるんだから」

「知ってるわよ。千代田が頑張っているのは、私が良く知ってるわ」

　千代田は、頑張りやさんだから。私の自慢の妹なんだから、知らないはずないでしょ？　気付いていないはずないでしょ？

　頑張り過ぎて、傷ついて。その瞳が真剣だから、止められないの。いつか私の手を振りほどいたとしても、引き止めることなんてしないわよ。

「それに、誰も迷惑だなんて言ってないでしょ？　私はただ大人になって欲しいだけ。妹の我侭に付き合えないほど、私は甲斐性なしではないわ。何より、私は千代田のことが好きなんだから、勘違いしちゃダメ」

　妹の我侭は心地の良いもの。姉であることを実感させてくれる、千代田をもっと好きになってしまう、魔法のようなもの。素敵なものなんだから。

「大人になりなさい、千代田。いつまでも子供でいてくれることを許してくれる、優しい世界ではないのよ？　私と酌み交わせるような、大人になりなさい」

　今は我侭でいいの。いつか大人になってしまう、その時まで、いっぱい我侭を言いなさい。私を困らせて、時には泣かせて頂戴。

　それが思い出になるから、私と千代田だけの、大切な思い出になるのだから。消えることのない事実として、２人の中に残るから。

「今日も、明日も、昨日さえ、何も手放さなくて良いように、大人になりなさい。あなたなら、きっと出来るわ」

　何かを選ばなくてはいけない時、きっと私は助けてあげられない。千代田が本当に困っている時、私は傍にいないと思うの。

　けれど、思い出は傍にあるから。どんなに苦しい時も、どんなに辛い時も、あなたの中にあり続けるから。忘れないで。

「私は、ちょっとだけ先で待っているから、追いついておいで。早く、一緒に歩きましょう。そうしないと、私の手も、千代田の手も、冷たくなってしまうでしょ？」

　手をつなぎたい。その願いが叶えられるのかは、分からない。私の我侭に、千代田が付き合ってくれるとも限らない。

　それでも、願わずにはいられないから。愛する者として、千代田にお願いするしかないのだから。受け取ってくれると、嬉しいかな。

「千歳ねぇ、私だっているまでも子供ではないわ。すぐに追いつくから、少しだけ待ってて」

　未来を見つめるあなたの瞳に、どんな光景が映し出されているのか、描き出されているのか、私には知る術がない。

　けれど、そこへ至る道の中では、私も協力出来るはずだから。ちゃんと頼ってよ？

　何があっても、何もなくても離れたりは出来ない。一緒にいられなくても、いつでも心配している。それが、千代田の姉である、私なのだから。

　もう少しだけ、お姉ちゃんでいさせて。

　

――千代田、あなたは私が守ってみせる。今度は、置いて行ったりしないわ