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すみません。何だか間が空いてしまいました orz
この1週間も転職の為に面接受けたりと中々herdだったもので・・・ごめんなさいただの言い訳ですね。
まぁ、そんな事は置いといて・・・
難産だった アリすずSS をやっとUPです。
バレンタインチョコレートに添えた手紙。それは、愛しい人に思いを伝える為の舞台への案内状。
「アリサちゃんにどうしても伝えたいことがあります。明日の授業が終わった後、屋上で待っています」
私は今日こそアリサちゃん、アリサ・バニングスに告白する。
積もりに積もった恋心を抑えておくのも既に限界だ―――
私に我侭いっぱいで甘えて欲しい、無邪気に振り回して欲しい、どこまでもいつまでも一緒に歩き続けたい。そして、時々で良いから私のことを振り返って微笑んで欲しい。
ちょっと贅沢なお願いかも知れないけど・・・これが私の望み。
そんな物思いにふけっていた私を引き戻したのは、携帯電話の鳴る音だった。
誰からだろう?
そう思いながら画面を確認した瞬間、胸が高まった。
『着信 アリサちゃん』
さっきまで想いをはせていた相手なので思わずドキッとしてしまった。
「も、もしもし・・・」
「あ、すずかアタシだけど、ちょっと良い?」
アリサちゃんの声だ。教室でも聞いていたけど、この場所で聞くとちょっとドキドキしちゃう。
「う、うん。何かな?」
「えっと・・・ね、悪いんだけどちょっと用事が出来ちゃってね。すぐに屋上に行けなくなったの」
電話越しに聞こえてくるアリサちゃんの声に混じって、車の排気音がする。
・・・どこか行っちゃうのかな?
「その、たいした用事じゃないから・・・ま、また今度でも良いよ?」
うぅ・・・どうしても今日伝えておきたいのになぁ。なんでこんなに臆病になっちゃうんだろう?
「いいわよ、パーティーなんかスグに抜け出して行くから・・・。アタシがすずかの誘いを断るわけ無いでしょ」
「う、うん。でも、アリサちゃんの都合も考えずに呼んだし・・・」
「あぁ、もうっ。ゴチャゴチャ言わない!アタシがすずかの場所に行くの。屋上で伝えたいことがあるんでしょ?ちゃんと聞いてあげるから」
また怒らせちゃった。ごめんね。
「うん、その迷惑でなければ来て欲しいかな・・・」
「迷惑なわけ無いでしょ?まったく・・・良い?スグに抜け出すから必ず待ってなさいよ」
「うん、私待ってるよ。アリサちゃんが来るのずっと待ってるね」
ブツっと途切れる音と共に通話終了。
アリサちゃんの声が聞けなくなったのは名残惜しいけど、約束をしてくれた。
私は携帯電話を抱えたまま、ゆっくりと待つ事にした―――。
◇
「遅いなぁ・・・」
屋上で待ち続けて3時間、既に日は傾き夜の帳が降りてこようとしている。
2月の中旬である今は気温も低く手足がちょっと痺れて来る。
まだパーティー会場にいるらしくアリサちゃんの携帯電話には全然通じない。
寒くて辺りも暗くなって来たし、ちょっと怖いかもしれない。
「アリサちゃん、まだかなぁ」
さっき確認したらもう8時半だった・・・スグに抜け出してくるとは言ってくれたものの、パーティーだ。バニングス家の一人娘として出席しているはずなので、きっと身動きが取れないのだろう。子供である私達の都合では動かないし、挨拶回りだけでも大変だろう・・・仕方が無いよね。
でも、待っててとお願いされて、待っていると答えたのは私だ。
約束を破るのなんて嫌だから、私はここで待ち続ける。遅れてごめんねって言いながら、必ず来てくれるから。
どこかでポツポツと音が鳴り出し、ほっぺたに冷たい雫が降ってきた。雨だ。
あいにくと朝が晴れていたので傘は持っていない。濡れて風邪を引いても困るし、校舎の中に逃げようかと思ったけど、止めた。
既に真っ暗になってしまっている。私が屋上の縁にいなかったら、アリサちゃんは見つけられないかもしれない。もしかしたら、勘違いして帰ってしまうかもしれない。
だから、濡れてしまうけどここで待っていよう。私じっと耐えているのは得意なんだ。だから、大丈夫―――。
服が濡れて段々と体が冷えていくのが分かる。髪の毛の先からも雫がたれているし、このままだと風邪を引くかもしれない。でも、その場を動かないと心に決めたからには、じっとたたずんで待っていたい。ちょっとフラフラして、頭もぼうっとしてきたけど大丈夫。
ほら、校庭を駆けてくる姿が見えるでしょ?
アリサちゃんが来てくれたんだよ?
ちゃんと笑って伝えないといけないんでしょ?
あ、あれ?どうしちゃったんだろう?体がうまく動かない・・・。
1歩踏み出そうとした瞬間、私はバランスを崩してしまいそのまま倒れた。
バシャっと水溜りに突っ込んだままの体、頭もフラフラとして立ち上がれない。
「アリサ・・・ちゃん」
意識を失う直前に見たのは大好きな人の笑顔だった―――
◇
「スグに抜け出すから必ず待ってなさいよ」
「うん、私待ってるよ。アリサちゃんが来るのずっと待ってるからね」
いつものように無茶な要求をしたあたしに、これまたいつものように答えるすずか。・・・また甘えてしまった。
そう、心の中で反省をしながら、車に揺られあたしはパーティー会場へと向かった。
「―――アリサ、急ですまないがパーティーに出てくれないか?」
すずかからの手紙に心躍らせていた私を、現実に引き戻したのはパパからの電話だった。
デビット・バニングス・・・私の父である彼はいくつもの会社を経営している。おかげで我がバニングス家は資産家であり、お金の面では何不自由無く暮らしていける。だがその分パーティーだったり、社交界だったりと非常に面倒な出来事も付いて回っている。
それ自体はどうしようもなく、人脈を作るためにも必要な事は子供の私にも分かるけど・・・。
「ねぇ、パパ。あたし今日は用事があるんだけど・・・どうしても行かなきゃダメ?」
今日は行きたくない。バレンタインチョコに添えられていた可愛らしい手紙はあたしの人生を変えるかもしれない・・・いや、絶対に変えてしまうイベントへの誘いだったのだ。これを期にすずかとの関係をもっと親密なものに出来るかもしれない、そう思うとパーティーに出席するような気分ではなかった。
「アリサ・・・我侭を言わないでくれ。今回は子供向け商品のプレゼンも兼ねているんだ。主催者の顔を立てるためにもお前がいなくては困る」
ダメ・・・か。優しいパパの事だ、出来るなら私を関わらせたくは無いのだろうけど、時と場合がそれを許さない。
それなりの資産を持っているからには、必要に応じて見栄を張ったりするのも必要な事。あたしはパパを尊敬しているし、あまり我侭を言いたくは無い・・・だけど今日、今だけは―――
「どうしても外せない用事なら、少し時間をずらせないか?パーティーは挨拶回りを済ませたら帰ってもいいから・・・」
それでも十分に失礼にあたる行為だろう、もしかしたら大事な契約を逃してしまうかもしれない。パパの苦悩はあたしには想像出来ないが、子供の都合で帰れる程、生易しいものでは無い事ぐらいは分かる。
「分かった、パーティには参加する。でも、あんまり長くは居ないわよ?」
「あぁ、構わない。鮫島にドレスを持って行かせるから・・・」
「うん、それじゃあね」
パパからの電話さえなければ―――今頃あたしは屋上ですずかと・・・その告白とか色々と、ね。
「アリサお嬢様到着いたしました」
どうやらもう着いてしまったらしい。仕方が無いわね。
ドレスが乱れないように降りた先の庭は中々のものだった。最近大きくなってきた企業の社長だと聞いていたけど成金趣味もなさそう。少なくとも変な像が庭に並んでいないだけ好意を持っても良いかもしれない。
そう思いながら会場に入った瞬間、私は驚かされた。何これ?
そこら中にオモチャやデフォルメされた人形が転がっている。やった本人はインテリア代わりのつもりかもしれないけど・・・ちらかった子供部屋にしか見えない。
「アリサ良く来てくれた。早速だが挨拶回りをす・・・ん、あぁ驚いたろ?社長さんの趣味らしい」
その光景に固まっていた私の傍にいつの間にかパパが来て乾いた笑いをしていた。
趣味って・・・部屋を散らかすのが趣味な人、初めて知ったわよ。
「おぉ、これはこれはバニングス家のお嬢様。お初に目に掛かります」
誰?とパパに視線で問いかける。
「今回のパーティーの主催者、佐藤さん。玩具関係の会社の社長さんだよ」
佐藤って物凄く普通の名前ね、もうちょっと変わった名前の人だと思ったわ。どうもっと、頭を下げながら素直な感想を思いついてしまった。
「あはは、バニングス家に比べればまだまだ・・・無論このまま終わるつもりはない訳ですがね」
成程、社長というだけあって野心家な上、ちゃんと考えているのね。このタイプの人は簡単に逃げられない・・・。
話と違うとパパに抗議の視線を送ったが、気づいてもらえなかった。
◇
「まったく冗談じゃないわよ」
あの後も挨拶周りにつき合わされたけど・・・途中で人数を数えるのも止めてしまった。一体あの社長さんはどれだけ招待状を送ったのだろう。早く帰りたい身としてはいい迷惑だ。受付で携帯電話を預けている為、時間の確認すら出来ない事もあり私はイライラとしていた。
やっと許可が出たから帰ろうと外へ・・・ってまさか雨が降っているの?
急いで庭へと飛び出した私を迎えたのはざぁざぁと降る無数の雫だった。
なんだか嫌な予感がする―――
「アリサお嬢様、大変で御座います!」
受付で電話を返して貰い、走り出そうとしたら見覚えのある車が待機していた。そして、近寄ると中から転がるようにして鮫島が出て来る。
「鮫島?」
いつも落ち着いている彼らしくない慌てた様子で駆け寄ってきたけど・・・傘を届けに来た訳ではなさそうね。
促され車に乗り込んだ私はとんでも無い話を聞かされた。
すずかが行方不明ですって!?
「ちょ、ちょっとどう言う事よ!!鮫島、ちゃんと説明しなさい!!」
「お、お嬢様。首を絞められては危険です。どうかお席にお戻り下さい」
はっとして首を放した私に鮫島は続ける。
「先ほどノエルさんから連絡をいただきまして・・・すずか様が家に帰っておらず、また電話しても出ないそうです」
すずかが家に帰ってなくて電話にも出ない?雨も降っていて時間も、もう遅いのに・・・。
普段は一緒に登下校をしているので連絡が来たのだろう。すずかの家も学校から近いとは言えない。
それを考えると仮に帰宅するとなれば、ノエルかファリンに連絡をするはずだし・・・まさかまだ学校に!?
でも・・・すずかならありえる。
「鮫島、学校に向かいなさい!」
「学校で御座いますか?何か忘れ物でも?」
「いいから黙って向かいなさい!今すぐ、なるだけ急いで!」
「・・・分かりました。飛ばしますのでお気をつけ下さい」
一途に思い続けて、いつでも同じ場所で柔らかく笑ってくれる。そんなすずかなら・・・あたしと約束した屋上で待っているはずだ。
―――いた。いつもと違い凄い速度で進む車の窓から屋上に立つ影が確認できる。暗くてよく見えなかったけど、あたしには分かるあれは絶対にすずかだ。
あの子はあたしとの約束通りずっと待っていたのだろう。パーティーの間電話が手元に無く、メールすら出来なかったのが悔やまれる。ちゃんと謝らないといけない、ごめんなさいって・・・。
でも、そんなの全部後回しだ。
「鮫島、ストップ!止まって!」
あたしの声に車が速度を落とす。ええい、面倒くさい。
止まるのを待っている事が出来ず、あたしは車から飛び出し、すずかの元へと駆けて出した。
「すずか・・・すずか・・・すずかっ!」
1階、2階、3階と上って行くがドレスのままだから早く走れない。足にまとわりつく布地が鬱陶しい。
やっと階段をのぼりきった・・・すずかは?すずかはどこ?そのままの勢いで屋上に飛び出しあたしはすずかの姿を探し続けた。
居た・・・私の目に飛び込んできたのは、倒れ雨に打たれているすずかの姿だった―――
◇
どうしよう私のせいだ。
あの後、駆けつけてきた鮫島によってすずかは病院に運ばれた。
診察結果は疲労と寒さによる発熱。処置が終わった後、自宅へと移ったけど、すずかは荒く辛そうな呼吸を繰り返すだけで目覚めなかった。
もし、あたしが1回でも電話をしていたら・・・もし、あたしが1通でもメールを送っていたら・・・こんな事にはならなかった。そしてあたしが待っててと我侭を言ってしまったばかりにすずかは待っていた。雨打たれ濡れながら、たった1人屋上で・・・。
寒くても、冷たくても一番見つかりやすい端っこで佇んでいたに違いない。すずかはそんな子だ。
「あたしが・・・あたしが・・・悪いんだ」
帰ってきて随分と経つけど、熱は一向に下がる気配を見せない。薬を飲ませて、おでこのタオルを取替えて、時々汗を拭いてあげることしか出来ない。無力なあたしではすずかを助けてあげる事は出来ないのだ・・・。
でも、それでも・・・
「あたしが・・・すずかの傍にいなきゃいけないのに・・・」
すずかはあたしだけを待って居たんだ。暗くて雨の降りしきる屋上、怖かったに違いない。
あたしにすずかに告白する勇気があれば、もしかしたら避けられたかもしれない。
あたしがすずかを待たせなければ、こんな結果にならなかったかもしれない。
あたしがすずかに我侭を言わなければ、笑っていられたかもしれない。
「アリサ様、少しお休み下さい」
「ファリン?」
「ずっと看病をなさっていては、アリサ様が倒れてしまいます」
確かにすずかがベットに入ってからずっと看病を続けていて・・・正直疲れも感じてはいる。
でも・・・
「あたしが看なきゃいけないの・・・あたしが傍にいないといけないの・・・」
すずかが目覚めた時に一番初めに謝りたいから、この想いを伝えたいから。
「お願い・・・傍にいさせて・・・」
こんな事になってしまったけど、すずかの気持ちが変わっていないなら・・・それこそがあたしの義務だ。
だから、ここを離れるわけにはいかない。
「分かりました・・・でも、無理はなさらないで下さい」
私の想いを分かってくれたのかファリンは一礼すると出て行った。どうせドアの外で待機しているのだろうけど、心遣いが有難い。
汗をふき取りながら、タオルを変える。
それに・・・すずかが目覚めるまでに告白の台詞ぐらいは考えておかなきゃね。
―――どれぐらいの時間がたったのだろう。いつの間にか窓の外は明るく、小鳥達がさえずり始めていた。
あれからずっと看病を続けた為か、すずかの調子も少しは良くなったように見える。
「すずか・・・」
名前を呼んで頭をなでると気持ち良さそうにする、こんな可愛い子を待たせていたなんて・・・あたしは何をしていたのだろう。
ずっと考えていたけど答えは明確だった。あたしはすずかが好きなのだ、もうどうしようもないぐらいに・・・。
そして、すずかもまた・・・
「う、う~ん・・・あれアリサちゃん?」
「ふふ、おはよ・・・すずか」
可愛い寝顔をもう少し眺めていたかったけど起きちゃった。ちょっと残念な気もしたけど、寝起きでぼーっとしている姿も可愛いから許そう。それに、すずかが起きたなら言わなきゃね。
「ねぇ、すずか。寝起きのところ悪いんだけど・・・ちょっと良いかな?」
「なぁに、アリサちゃん?」
起きたばかりで寝ぼけているのかもしれない。それでもじっと見つめられていると、どんどんと胸が高鳴ってくる。頭に血が上って私までぼうっとしてしまいそう・・・。
それも良いかな、なんて思ったけど、今はダメだ。
ちゃんと言葉にして伝えないと、すずかに告白しないと・・・。
「す、すずか!あたしはすずかの事が―――」
「待って、お姫様が先に告白しちゃダメだよ?」
「え?」
すずかの人差し指が唇に当たり思わず止めてしまったけど、お姫様って・・・誰?
驚いているあたしをよそに、すずかは微笑んだまま続ける。
「お姫様を待たせる王子様は知らないけど、王子を待たせるお姫様なら私は知っているよ。世界でたった一人、私だけのお姫様をね」
・・・確かにお姫様を待たせる王子様はいないわね。
「でも、あたしはお姫様ってがらじゃないわよ?」
「ドレスを着た王子様なんて居ないよ?それにアリサちゃんはいつだって私のお姫様だよ。」
あたしが・・・すずかのお姫様・・・?
「明るくてちょっとだけいじわるで・・・でも、凄く綺麗な笑顔を私にくれるお姫様。お話の中に出てくるお姫様にも負けないくらい素敵なお姫様だよ」
うふふと笑うすずかの言葉に嘘は混じっていなくて、内容が理解できた瞬間、あたしは顔から火が出そうになった。
「も、もう、冗談ばかり言ってないで大人しくしてなさい。熱だってまだあるんだから・・・また、倒れたりしたら大変でしょ!」
沸騰しそうな頭を何とか抑え、あたしは起き上がろうとしたすずかを押し留める。
また、倒れられたら・・・いや、あんな思いは2度としたくないし、すずかにもさせたくない。
「大丈夫だよ・・・私はもう大丈夫」
そう言ってあたしの顔にそっと手を伸ばしてくるすずか・・・もう、心配したんだからね。
「それにね愛しいお姫様を待ってても良いのは王子様だけなんだよ?だから私はアリサちゃんを待ってたの」
「もう、だったら倒れて心配かけないでよっ。すずかはあたしの王子様なんでしょ?」
「うふふ、ごめんね。でも・・・」
結局起き上がってしまったすずか。体はもう大丈夫なのかな?
「どうしても屋上で・・・アリサちゃんの助けに初めてなれたあそこで告白したかったの・・・」
脳裏に浮かぶのは輝く小瓶と雨の音。・・・そういえばあの日も雨が降ってたっけ。
「しっかりと傘をさして、寒くない格好をして待ってなさいよっ。倒れて、あたしに看病されて、どうするのよ!」
「ごめんねアリサちゃん、それに倒れてもアリサちゃんが看病してくれそうな気がしたから・・・ずっと傍にいてくれると思ったから・・・。我侭ばっかり言ってごめんね」
「き、気にしなくていいわよ。あたしだっていつも我侭言ってるし・・・」
何ですずかが謝ってるのよ・・・悪いのはあたしなのに・・・。いつもいつも困らせてるのは、あたしなのに・・・。
「それに、我侭を聞いて振り回されても良いのは、王子様だけだと思うんだ。私はアリサちゃんが大好きだから我侭を言って欲しいし、他の誰にもこの役を譲るつもりは無い。争ってでもアリサちゃんの隣に居たい・・・」
だからね、と前置きをして私の瞳を覗き込んでくる。
「私はアリサちゃんの事が大好きです。恋人に・・・私のお姫様になってくれませんか?」
「ベッドの中から、王子様がこんな薄汚れたドレスを着たお姫様に告白って訳?」
ちょっとは冷静さを取り戻せたかな?
それにしてもお姫様にって、何て恥ずかしい台詞を・・・。
「そうだね。ちょっと可笑しいかもしれないね」
うふふ・・・と笑うすずか。
「・・・はぁ、どっと疲れたわ―――」
◇
これは・・・夢かな?
ベッドで寝ている私をアリサちゃんが看病してくれている。パーティーの帰りなのかドレス姿のまま、必死になって看病してくれている。ちょっと汚れてしまっているけど、とても美しくて素敵な格好だ。
でも、アリサちゃんが傍にいてくれているというのに、私は一向に目を覚まさない。なんて勿体無い・・・。本来ならその姿を目に焼き付けるぐらい見ているのに・・・。
ねぇ?アリサちゃんがタオルを代えてくれているんだよ?
ねぇ?アリサちゃんが汗を拭いてくれているんだよ?
それなのに、なんで私は眠ったままなの?なんで目を覚まさないの?
ちゃんと起きて、おはようって言わなきゃダメでしょ―――
◇
・・・あれ?ここはドコだろう?
確か私は学校の屋上でアリサちゃんを待っていて・・・それで雨が降り出して・・・あぁ、そうか倒れちゃったんだ。
でも今いる場所はふわふわしていて、まるでベッドで眠っているみたいだ・・・ベッド?
ふとおでこに触れる冷たさに目を開けると、心配そうに覗き込んでいるアリサちゃんの顔が見えた。あれ?夢じゃなかったの?
「アリサ・・・ちゃん?」
「ふふ、おはよすずか」
寝起きで意識がいまいちはっきりとしない。でもここが自分の部屋であり、目の前にアリサちゃんがいるのは理解できた。
何でだろうと疑問に思ったけど、考える前にアリサちゃんが切り出した。
「ねぇ、すずか。寝起きのところ悪いんだけど・・・ちょっと良いかな?」
「なぁに、アリサちゃん?」
緊張した面持ちで話すアリサちゃんに、呂律が回らなくて・・・その小さな子みたいな返事をしてしまった私。
うぅ・・・恥ずかしいよ。
でも、それどころではなさそうな雰囲気―――
「すずか!あたしはすずかの事が・・・」
来た。ついにこの瞬間が来たんだ。
でもね・・・これだけはアリサちゃんに、先に言われる訳にはいかないの。そう思った時には、アリサちゃんの口に人差し指を当てて、止めてしまっていた。
「待って、お姫様が先に告白しちゃダメだよ?」
「え?」
やっぱり驚いちゃったね。うん、分かるよ。周りから見てもアリサちゃんが王子様で、私がお姫様に見えるんでしょ?
でもね、違うの・・・
「お姫様を待たせる王子様は知らないけど、王子を待たせるお姫様なら私は知っているよ。世界でたった一人、私だけのお姫様をね」
可愛くて、我侭で、それでいて優しいお姫様。
それに・・・。
「ドレスを着た王子様なんて居ないよ?・・・アリサちゃんはいつだって私のお姫様なんだから」
そう、キラキラと輝いている姿は、絶対にお姫様だよ。
「あかるくてちょっとだけいじわるで・・・でも、凄く綺麗な笑顔を私にくれるお姫様。お話しの中に出てくるお姫様にも負けないくらい素敵なお姫様なんだよ」
喋りながら起き上がろうとしたら、アリサちゃんに押し留められてしまった。
「も、もう、冗談ばかり言ってないで大人しくしてなさい。熱だってまだあるんだから・・・また、倒れたりしたら大変でしょ!」
心配してくれるんだね・・・やっぱり優しいよ。自分だって無茶するのに、みんなの心配ばかりしてくれる・・・。
「大丈夫だよ・・・私はもう大丈夫」
本当はまだちょっと苦しいけど・・・今はアリサちゃんに触れたい。その涙を私が隠してあげたい・・・。
「それにね愛しいお姫様を待ってて良いのは王子様だけなんだよ?だから私はアリサちゃんを待ってたの」
目元をそっと撫でて涙を拭ってあげる・・・うん、綺麗になった。
「もう、だったら倒れて心配かけないでよっ。すずかはあたしの王子様なんでしょ?」
「うふふ、ごめんね。でも・・・」
たった1つだけの譲れない想いがあった。それだけは確かだ・・・。
「どうしても屋上で・・・アリサちゃんの助けに初めてなれたあそこで告白したかったの・・・」
「しっかりと傘をさして、寒くない格好をして待ってなさいよっ。倒れて、あたしに看病されて、どうするのよ!」
もう、泣かないで。私は大丈夫だから、アリサちゃんの目の前に居るから。
それに・・・
「ごめんねアリサちゃん。それに、倒れてもアリサちゃんが看病してくれそうな気がしたから・・・ずっと傍にいてくれると思ったから・・・。ごめんね私我侭ばっかり言って」
「き、気にしなくていいわよ。あたしだっていつも我侭言ってるし・・・」
アリサちゃんがプイっと横を向いてしまった。拗ねちゃったのかな・・・?
「それに、我侭を聞いて振り回されても良いのは、王子様だけだと思うんだ。私はアリサちゃんが大好きだから我侭を言って欲しいし、他の誰にもこの役を譲るつもりは無い。争ってでもアリサちゃんの隣に居たい・・・」
私の想いはただ1つ。貴女の傍にずっと居続ける事。何があっても離れない事。
「だからね・・・私はアリサちゃんの事が大好きです。恋人に・・・私のお姫様になってくれませんか?」
「ベッドの中から王子様がこんな薄汚れたドレスを着たお姫様に告白って訳?・・・はぁ、どっと疲れたわ」
「そうだね。ちょっと可笑しいかもしれないね」
朝日が差し込みだんだんと明るくなっていく部屋の中、私とアリサちゃんは笑い合っていた。
ひとしきり笑い、他愛の無いお喋りをしていたところで重要な事に気がついた。
「ア、アリサちゃん。私、まだお返事貰ってないよ?」
やっぱり緊張しちゃうよね。
告白する時は意外と平気だったんだけどな・・・。
「んっ、勿論あたしも大好きよ。いつまでも隣に居て、ちょっとでも離れたら許さないんだから」
良かったぁ・・・。
あっさりとして、それでいてしっかりとした返事を貰えた。
「分かりました」
お姫様からのお願いだもん。大丈夫、私はいつだってアリサちゃんの傍にいるよ。
「あ~あ、告白が終わったらすっきりして眠くなってきたわ」
大きな口をあけてあくびをしている。
「あっ・・・ひ、一晩中看病してくれてたんだよね。ありがとう、アリサちゃん」
「べ、別にお礼を言われるようなことじゃないわよ・・・私が待たせたから倒れたようなもんだし・・・」
もう、それは良いよって言ったばかりなのに・・・それに赤くなってそっぽを向いたアリサちゃんの目の下には、隈が出来ている。そんなになるまで頑張ってくれたアリサちゃんに感謝はしても不満なんてあるはずがない。
「それとごめんね、心配かけちゃって。私が・・・」
「ストップ、それ以上は言わないでよ・・・」
今度はアリサちゃんが手のひらで、私の口を塞いだ。そしてゴホン、と咳払いをし口を開く。
「お姫様に振り回されるのは王子様の特権かもしれないけど、王子様の心配をするのは・・・お、お姫様の特権なんだからねっ。あたしにもすずかの心配ぐらいさせなさいよ」
「アリサちゃん?」
こんなに我侭を言ってる私を心配してくれるの?
「それにね・・・王子様が大変な時は一緒に居て、出かけた時は帰りを待つ―――そ、そして帰ってきたら・・・王子様が帰ってきたら・・・」
なんで赤くなっているんだろう?風邪でもひいて・・・
「キ、キスで迎えてあげるのが勤めってもんでしょうが!」
「えっ・・・んっ、んん」
キスされちゃった。そのまま覆い被さってきたアリサちゃんにキスされちゃった。
「ふぅ・・・こ、これですずかは私のものだからね」
「ふふふ、そうだね」
嬉しいなぁ。アリサちゃんのキス・・・手とかほっぺたとかじゃなくて唇にキス・・・はぅ。
熱がグングンあがっている気がするけど気にしない。そんなこと気にならない。
◇
「ねぇ、すずか」
「なぁに、アリサちゃん?」
疲れたと言うアリサちゃんと一緒にベッドに入っていたところ、突然真剣な顔で聞いてきた。
「あたしがすずかを好きで、すずかがあたしを好き・・・これは疑いようが無いんだけどね。すずかはあたしのどこが好きなわけ?」
「え?」
「ほ、ほら、顔が綺麗だからとか、髪が気に入ったとかあるじゃない?すずかはあたしの何処を好きになってくれたのかな~と思って・・・」
同じ女の子としては、とても大切な質問なのは分かるけど、それっていじわるな質問なんだよ?
でも、お姫様がお望みなら答えてあげるのが王子様の務めだよね。
「えっとね・・・う~ん、特にどこが好きってのは無いの」
「えっ?じゃ、じゃあな何ですずかはあたしの事を?」
言ってみてはっきりしたけど、やっぱり私はアリサちゃんのここが好きっていうのは無い。
だって・・・
「私の好きはね、小さな好きが集まったものなんだ。初めは手を引いて歩いてくれたこ事、輝く笑顔を見せてくれた事、綺麗な声を聞かせてくれた事・・・でも、他にもいろんな好きがあってね。だんだんと1つになって、どんどんと大きくなって、抑えられなくなって・・・」
初めは我慢できた。近くに、傍にいられるだけで良かった。
でも、時が経ち気持ちが大きくなるにつれて無理になってきた。
「もう、爆発しちゃいそうになって、どうしようもなくなっちゃたの。だから・・・バレンタインチョコレートに手紙を付けて贈ったの」
「そうなんだ・・・」
ごめんね、はっきりと答えられなくて・・・
「こんなんじゃ、王子様失格だよね?」
お姫様のお願い1つすら聞いてあげられない王子様なんて聞いた事がない。
こんな綺麗なお姫様に、情けない王子様じゃダメだよね・・・
「ふざけないでよ?すずかはあたしの王子様なんでしょ?あたしはすずか以外は認めないわよっ」
え?どういうこと?
「だって、今言ってくれたでしょ。小さな好きがどんどん大きくなったって、だんだん抑えられなくなったって」
言ったけど・・・どこが好き、ってはっきり分からない・・・。
好きだって気持ちはこんなにも大きいのに、ちゃんと伝えられない。もどかしいけど・・・言葉に出来ない。
「つま、りあたしはすずかにいっぱい愛されてるって事でしょ?」
え?分かってくれたの?
「ふ、ふん、良いわよ。すずかがどれだけ相応しくなかったとしても、あたしがすずかを離さないから、絶対に離してあげないんだからっ!」
そう言うと、アリサちゃんは上から覆いかぶさるようにして抱きついてきた。
「く、苦しいよアリサちゃん」
その・・・頭を抱えられると・・・アリサちゃんの胸が・・・
「いいから、黙って寝なさい。私の胸で寝られる事なんて、もう無いんだからね」
「・・・うん」
力いっぱい抱きしめられていて少し痛いけど、嬉しかった。ずっと・・・ずっとこうして欲しかったから。
「アリサちゃんは、優しくて温かいね」
「は、恥ずかしい事言わなくて良いから寝なさい。・・・おやすみ、すずか」
頭の上でボンッて音が聞こえたような気がする。でも、いっそう抱きかかえられてしまって、確認が出来ないのが残念。
でも、温かくて柔らかい・・・夢でも幻でもないのにアリサちゃんはこんなにも優しい。これならぐっすりと眠れそう・・・。
「おやすみ、アリサちゃん。大好きだよ」
この先にはきっと山があって谷があって、おまけに壁まである道が待っている。待ち構えている苦難を思うと気分が沈んでしまいそうになる。でも、私は後ろを振り返るつもりも無いし、立ち止まるつもりも無い。
だって愛おしい人の言葉と温もり、それに勝る物などこの世に無いから―――
ごめんなさい。アリサパパと鮫島さんの喋り方分かりませんでした・・・orz
あれ?と思った方がいらっしゃるかもしれませんが少し書き方が変わっています。
ダメだ咳き込みすぎて文章が打てない ;;