小さな願い - 雨の降る日に

「フェイトさんともっと仲良くして上げて下さい」
訓練終了後、お話がありますと誘われ開口一番にこう言われた。
「えーと、意味が良く分からないんだけど･･･説明して貰えるかな？」
普段はおとなしくて優しい、ふんわりとしたイメージのある彼女だから、こんなことを言われたら戸惑ってしまう。それに、フェイトちゃんと仲良くって･･･見えないところで色々と頑張っているんだよ？
だけど、本人にも秘密にしている事を彼女に説明する訳にはいかないし･･･どう答えてよいのか迷ってしまう。
「なのはさんは強いから分からないんです」
私は説明して欲しかったんだけど、彼女はご立腹らしく教えてくれない。それとも自分で考えなさいって事なのかな？
ん～、フェイトちゃんは私の大切な人だし、喧嘩だってしていない･･･つもりだ。何より、私はフェイトちゃんが傍にいないと不安で不安でたまらないんだよ？
「私は強くないよ。いつだってフェイト隊長やヴィータ副隊長達に守られてばかりなんだから」
そう、私は強くなんか無い。どちらかっていえば脆い。
昔は強さを目指して、１人でみんなを守れるように頑張った事もあるけれど、この身体も心だって鋼鉄で出来ていない事を知っただけ。無茶をして、１人で焦り過ぎて凄く心配をかけてしまった。
「違います。私が言っているのは、心の強さです」
「心の強さ？」
それだって強くないよと言おうとしたけれど、彼女の瞳がそれを許さなかった。
そして、小さな口からつむがれる言葉は真っ直ぐに、ただひたすら真っ直ぐに私の心を叩いていく。
「なのはさんは心が強くなり過ぎて、強くなろうとしすぎて分からなくなっているんです」
何度も何度でも、優しくなでるように叩いていく。
「･･･思い出して下さい。最近フェイトさんと話した内容は何ですか？ヴィヴィオの事ですか？子育てについての相談ですか？私達の訓練結果の報告ですか？」
出来の悪い生徒に教えるかのように少し苦笑しながら話してくれる。
ゆっくりと理解しやすいように話してくれるから、少しずつではあるけど私にも彼女の言いたいことが分かってくる。彼女が望んでいて、私がとるべき行動が見えてくる。
「フェイトさんは本当にそんな話をして欲しいと思っているのでしょうか？２人きりでいられる少ない時間で、その話を聞きたいと思っているのでしょうか？」
嫌がるとは思えませんがと、彼女は悲しそうに笑う。
「きっと２人だけの、お互いを見つめ合った話をしたいと思っているはずです。だって･･･フェイトさんは･･･フェイトさんはっ！」
泣き叫ぶようにして訴えてくるけれど、確信に触れる部分は言わない。私とフェイトちゃんで解決しなければいけないところだけは言わない。
その優しすぎる糾弾に私は答えを窮してしまう。
「ヴィヴィオや私達の事に一生懸命なってくれているのは嬉しいです。いっぱい感謝しています」
でも、そんな彼女も、私を見つめてくる目には涙がたまっていて･･･
「でも、私達ばかりを見ないで！もっと大切な、自分の大事な人を見てあげて下さい！」
フェイトちゃんの事が大好きなのが伝わってくる。
「なのはさんはフェイトさんがいないとダメなのかもしれませんが、フェイトさんだってなのはさんが居無いとダメなんです！」
分かってるよ。そんな事は気付いているよ。
だけど、私は彼女に気持ちを押し付けたくなかったんだ。私のせいで大好きな笑顔が消えてしまうかもしれないと思うと、動けなかったんだ。彼女が私の事で苦しむ姿を見たくなかったんだ。
「それでも、言えない事はあるんだよ」
相談に乗って欲しい、彼女の傍に居させて欲しい。そう思う気持ちは強いけれど、私は一度落ちた身だ。こんな不安定な私が彼女の傍にいても、きっと迷惑にしかならない。
重荷になるのなんて嫌だから、話せない。彼女が大事だからこそ･･･なんていうのは私の我がままなのかなぁ。
「なんで隠しちゃうんですか？なんで無理しちゃうんですか？寂しい、悲しいってなんで言わないんですか？」
･･･不思議だよね。親切な人ほど、優しい子ほど傷付く機会が多い。誰かの悲しみが分かってしまうから、一緒に傷ついちゃう。誰かのさみしさを共感しちゃうから、一緒に苦しんでしまう。
「私はフェイトさんが大好きです。１人ぼっちだった私を迎えに来てくれて、お姉さんみたいで･･･。でも、私はなのはさんだって大好きなんです」
えーと、分かりかけていた気がしたんだけど、気のせいだったのかな。話が繋がらないよ？
「突然変な事を言ってごめんなさい。でも、嘘は言っていません」
好きだって言ってくれるのは嬉しいし、キャロが嘘をついているとは思わないけど･･･。何を言いたいのかが分からないよ。
「私は我が侭なんです。私の周りで誰かが苦しんでいるのは嫌なんです。」
誰だってそうだと思う。身近な人達には幸せで居て欲しいと願っている。だから、そう思うのはキャロが優しいからであって、その気持ちを我が侭だなんて言って欲しく無いな。
「大好きなフェイトさんと、大好きななのはさん。２人が傷ついていくのを見るのは嫌なんです」
毎日ちょっとずつ、最後の１歩だけを我慢し続ける。ただそれだけだったはずなのになぁ。
「だから、なのはさんにはもっと、もぉっと素直になって欲しいんです」
素直にかぁ･･･。こんな私でも望んで良いのだろうか？
こんな私が幸せになろうと努力しても良いのかな？
フェイトちゃんに甘えてしまっても、傍にあり続けたいと願っても迷惑じゃないのかな・・・。
「でも、やっぱり･･･」
「何故ですか？フェイトさんはいつでもなのはさんの傍に、一緒にいるでしょ？」
嬉しい時も、楽しい時も、悲しい時だってフェイトちゃんは傍に居てくれた。私の傍で笑っていてくれた。

　　　◇

キャロは何でこんなにも優しいのかな？何で私の為に泣いてくれるのかな？
「最近のフェイトさんは寂しそうです。どこか別の場所を見ているみたいで、笑っていても心では泣いている感じで･･･私まで悲しくなります」
「キャロ･･･」
幼くても、自分の為ではなく誰かの為に頑張ろうとする彼女だから、心にさみしさを抱えたフェイトちゃんに気づいたのかもしれない。そんな優しさに、幼い頃のフェイトちゃんの面影を見てしまう。
はぁ、だめだなぁ。あんなにも自制し続けたのに、本心を見抜かれてしまったらもうごまかせない。言葉の雨に撃たれて、落ちて気が付く･･･私は同じ事を何度繰り返せば良いのだろう？
「どうすればいい、こうして下さいというのは分かりません。でも、なのはさんなら･･･フェイトさんを大切に思ってくれるなのはさんなら分かるはずです」
それでも彼女は私なら分かると言ってくれる。私ならフェイトちゃんを分かると信じてくれる。
「フェイトさんを信じて下さい。そして、自分の気持ちを信じて下さい。大丈夫です。お２人共そんな事で潰れるほど弱くはありませんから･･･」
そして、私達の幸せと強さを信じてくれた。
「フェイトさんを笑わせてあげて下さいね」
「うん、ありがとうキャロ」
最後にちょっとだけ笑顔を見せてくれた彼女を見送り、私は考える。

　　　◇

フェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官。機動六課ライトニング分隊の隊長であり、包み込むような優しさをもつ彼女。
でも、それ以前にフェイトちゃんは私の大切な人。
悲しませたく無い、さみしい思いをして欲しく無いと思いやっていたことが、逆に彼女を悲しませていたなんて･･･なんて事をしてしまったのだろう。
最近は忙しかったし彼女の優しさに甘えてしまった。その優しさに溺れてしまったなんて･･･都合の良い言い訳だよね？
後悔しても遅く、彼女を悲しませたことは変わらない。反省しても、彼女にさみしい思いをさせてしまったことに変わりは無い。
でも、大切なのは今から何をするか、少しでも早く彼女に笑って貰おうとする事。
だから、せめて今夜はうんと甘えて、今まで我慢してきた分しっかりと甘えて貰って、明日から笑顔で過ごせるように頑張るんだ。

そして、やっぱり私は飛び続けたいな。
キャロみたいな優しい子が悲しまないためにも、フェイトちゃんみたいに大好きな人に笑ってもらう為にも･･･
胸の中の温かい気持ちを抱きしめて、明日笑う為に飛び続けたい。

我がままだけど、精一杯頑張るからいつまでも傍に居てね

結局なの×フェイじゃんって突っ込み禁止だよ☆